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メトロ詰め合わせ

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昔話をしよう



 ……おや、13号線。どうかしたの?
 ああ、ごめん、そうだね。君にはもう立派な名前が付いたんだから、それで呼んであげなくちゃね。それで、どうかしたの、有楽町新線。見附に君が来るなんて、珍しいね?
 うん? 「先輩が見当たらない」……? そう、君は有楽町の事を先輩って呼ぶ事にしたんだね、ふふ。ううん、別にいいんだよ、ただそうだね、可愛いなって思っただけ。
 有楽町はね、ちょっと接続先の所に打ち合わせに行っちゃったから、暫くは戻ってこないと思うよ。そうだね、だからその間に、僕と話でもしよう、新線。君の大好きな有楽町と比べたら、僕とのお喋りは面白くないかもしれないけど。――そうだね、有楽町の話をしよう。有楽町が、今の君くらいに小さかった時の話はどうかな?
 ……ふふ、気になる? じゃあ、お話ししてあげよう。立ち話じゃ何だから、僕のお隣でよかったらどうぞ。

 ――そうだね、こんなお話はどうかな。
 まだ有楽町がうんと小さくて、そう、まだ開業していなかった頃かな。「8号線」って呼ばれていた有楽町に、ようやく名前が付いた頃だった。
 そう、有楽町線は路線名を公募してね、それで「有楽町線」になったんだけど、本当は票数で言ったら「麹町線」の方が多かったんだ。でもまあ、麹なんて小さい子にはそうそう書けない字だし、「有楽町線」と「有楽線」の票数を足したら「麹町線」よりも多かったからって言って、今の名前になったんだ。
 ……うん? そう、新線は麹が書けるんだね。小さいのに賢い子だね。よしよし。……ふふ、そうだね、君の先輩の駅だものね。
 まあ、兎に角。それを有楽町はすごい喜んでね。「ぎんざ、オレ、麹町線じゃなくてよかったよ」って、よく言ってたなぁ。自分でもまだスラスラ書ける字じゃないし、麹町って何か地味じゃん、って。
 あの頃の有楽町は本当に可愛かったなぁ。丸ノ内のバイパスだからって丸ノ内の後ばっかりついて歩いてね、それで似たのかな、綺麗な黒髪だったんだよ。
 そう。今は染めちゃってるけどね、本当はあの子の地毛は黒だから。君は元々その色だけど、有楽町は今でもこまめに染めてるはずだよ。頼めば、昔の写真でも見せてくれるかもね。
 えっと、何の話をしようとしてたんだっけ。そうそう、そんなある日ね、有楽町が僕の所に来て、「なあ銀座、聞きたい事があるんだけど」って言ったんだ。
 僕も色々とあの子には指導をしていたからね、運行の質問とかなのかと思って、どうしたの、って聞き返したんだ。……そうしたら有楽町、何て言ったと思う?
 「早川さんにお礼を言いたいんだけど、会えないの?」……って、言ったんだ。
 ふふ、おかしいでしょう? 早川さんはもういらっしゃらないのに、有楽町ったらすごい真剣な顔で言ったんだ。多分、人の死ってものがまだよく分かっていなかったんだろうね。
 それで僕も「彼はもういないよ」なんて言い辛くて、「早川さんに何か用があるの」って聞いてみたんだ。そうしたらね、……ふふ、有楽町は僕の手をぎゅって握って、それはそれは可愛い顔で笑って、うん! って頷いてね。
 「会ったらお礼言うんだ! 銀座を有り難う、って!」って。
 ………ふふ、僕も、傍にいた丸ノ内もびっくりしちゃってね。それでも有楽町ったら気が付かなくて、「だってオレ銀座大好きだし、丸ノ内だって日比谷だって東西だって、千代田だって大好きだからさ。でも、早川さんが銀座を走らせてくれたからみんながいるんだろ? だからオレの前に皆を作ってくれて有り難うって、言わないと」って、それはもうすごいテンションで言うんだ。――早川さんは確かに僕を生んでくれた方だけど、他の皆のレールを敷いたのは営団なのにね、どうにもその辺りを混同してたみたいなんだ。もしかしたら、全部分かってて言ってたのかもしれないけどね。
 ――それで、僕と丸ノ内がどうしたか、って?
 丸ノ内がね、笑って、「そうかそうか、お前の気持ちはよく分かるぞ」って言って、有楽町の頭を撫でて――。それで、そう。二人で早川さんに手紙を書こう、って言ってね。ちょっと遠い所にいる人だから届くのに時間が掛かるかもしれないけど、有楽町の気持ちはきっと早川さんに届くぞ、って言って、僕の前でせっせと手紙を書くんだよ。面白いでしょう? 丸ノ内ったら、そんな事昔もやっていたのにね。
 ――――うん、うん。………君も優しくていい子だね、新線。有楽町がいい子だからかな。
 そうだね、だとしたら君も有楽町を有り難うって言わないといけないし、……僕だって、皆を有り難う御座いますって言わないとな、早川さんに。
 今度、一緒に墓前へお邪魔しようか、新線。有楽町には内緒で、ね?
 うん、指切りしようか、新線。……うん、約束だよ。


 ――ああ、有楽町、おかえり。西武さんとの打ち合わせはどうだった?
 え? 「西武は宗教だ」? そっか、西武さんも面白い人達みたいだね。頑張ってね、有楽町。新線も君の背中を見て育ってるんだから、いい所見せないとね。
 え? 新線と何の話をしていたのか、って? それは君には言えないなあ。だって、言っちゃったら面白くないじゃない。
 ふふふ、僕と新線の秘密だよ。ね? 新線?
 ……ふふ、じゃあ行っておいで、新線。有楽町を待ってたんだものね。
 僕? 僕はここで丸ノ内を待っているから。それじゃあね、新線。約束、忘れちゃ嫌だよ。


 ――盗み聞きだなんて、嫌だなあ、丸ノ内。いたなら言ってよ、なんて、……いるのには、途中で気付いてたけどね。
 泣いてないよ、嫌だなぁ。顔を見て言ってごらん。ほら、笑っているでしょう?
 僕の弟達は皆いい子で、僕は本当に幸せだよ、丸ノ内。
 あの方が敷いて下さったレールは強靱で、そしてこんなにも素敵なものを運んで下さった。僕は営団地下鉄銀座線でよかったと、心の底から思っているんだよ、丸ノ内。

(20100120)
作品名:メトロ詰め合わせ 作家名:セミ子