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「 ソノ鳥 ネガイカナエシモ 人 サラウ モノナリ 」

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 この顔を見られるわけではないのに、男は片手で隠すように顔をおおった。
「――・・・できれば、今戻るのは、ひかえてほしいのだがね」
 耳に当てた受話器はしばし沈黙。
 のち、ひとこと。
『・・・・・・ふうん・・』
「・・・・・はがねの?」
 きっと、先ほどの言葉は子どもの頭の中で即、『帰ってくるな』と変換されただろう。
「・・いちおう、付け足しておくが、きみのためを思って言っているのだよ」
 こういう言葉は期待とは逆の作用をおこすのを承知だが、言わずにいられない。
 ――― いちおう、本心だ。
『・・・へえ・・・おれのため?・・なんだか恩着せがましい理由づけにしか聞こえねえけど、それっていったい、どういうことだよ?』
 ・・・たぶん、口元は笑っているが、挑むような眼をしているはずだ。
「―― ならば言いかえよう。きみが今もどると、ろくなことが起きないだろう。わたしのこれは、忠告ではなく、要請だと取ってくれたまえ」
 男はあっさりと、上司としての態度に変える。
 この切り替えに、時々こどもが戸惑うのも、承知している。
 それに、とどめをさすよう続けた。
「・・・できれば、こちらから連絡するまでは、ここに近付かないよう、気をつけてほしいのだが」
『はあああ?なんだよ、それ?書類の提出日は守れとかいっつもうるさいくせに、珍しくこっちが早々に戻って報告するって言えば、戻ってくるなあ?』
 ――― ああ・・、怒った様子が眼に浮かぶようだ。きっとここで、こちらが言いかける言葉をさえぎり、子どもは叫ぶだろう。
「いや、だから、」
『わあかった!そこまで言うなら戻らねえから!今回の報告がどれほど遅れても、ぜえったいに文句言うなよ!』
 ――― ほら、こうきた。
 次には受話器を叩きつけられ、ガチャン、ブチ、ツウーの三拍子だ。
 ところが、予想した男の耳にはまだ、子どもの怒った声が。
『  あ!アル!いいから!よこせ!よけいなこと  ―――    あ、大佐ですか?』
 予期せず遠慮がちな弟の声。後ろで騒いでいる兄はきっと、あの太い手一本で、簡単に止められているのだろう。
 こちらが問う前に、快活な弟君はのたまった。
 『あのですねえ、ぼくたち、もう、駅に着いてるんですけど・・・』
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 空は快晴。
 見上げたそこへ、くわえたものから白い煙がのぼってゆく。
 金髪タレ目な男は、有害物質が空へかえってゆく様を見守る。
「いい天気だなあ」
「・・・・」
 なんとなく返事を期待した相手からの反応はナシ。
 首をもどせば、前にいる『相手』のちっこい頭が、ゆっくり傾く。
「・・う〜ん・・・えっと、なんというか・・・」
「ああ、わかるぜ、それ。『ここはどこ?』ってかんじだろ?」
 金色のシッポがはねて、「それ!」と子どもが振り返る。
「おれがいない間に、部屋の模様替えをされたような・・」
「おお、たいしょう、うまいこというなあ」
 あはははははは
     めえええええ
 大人と子どもがそろって笑うのを見上げたヤギが、同じように鳴いてみせた。




 男は、上司が大きなため息とともに戻した受話器をじっと見つめてしまっていたのだ。  
   ―― なので、目が合った。
「―― ハボック少尉、駅に行け」
 命じる上司自身が、かなり不本意だということがわかった部下は、お行儀よく返事をし、何も言い返すことなく、さっさと駅に向かうことにした。

 ――― まあ、なんつうか、おれも何だか気になるんだよなあ。

 なんてことは口にせず、かわりにくわえた煙草をゆらして、後ろの座席で弟になだめられている不機嫌な兄をちらりとのぞく。
「歓迎されてねえってわかってんのに、なあんで行かなくちゃならねえんだよ?」
「にいさん」
「歓迎してねえんじゃなくって、心配してんだって」 ―― あ、言っちゃった。
 心配?と声をあわせる兄弟にそろって見つめられ、まあいいか、と煙草を口から取った。
「―― なあ、たいしょう。ここに着いて、何か気付いたことなかったか?」
 兄が腕を組んだとき、弟が、そういえば、と太い指をあげた。
「なんだか、耳慣れない音楽が聞こえてきました」
「音楽?」
「にいさん気付かなかった?まあ、ちょっと離れてたけど、聞いたことない感じの独特の旋律で耳につくんだよねえ。広場のはじのほうに人がかたまってたから、そこじゃないかなあ」
「・・ぜんっぜん気付かんかった」
「それだ」
「は?」
「―― ちょい、回り道してくから、よおっく景色見とけよ」
 車はそこで、いつもは曲がらぬ道を曲がった。



 街中から離れてゆけば、まだまだ緑も多い地域。
 だがこのあたりは、羊や牛を放すにはむいていない未開発の森林地帯が残る。切り開かれた草原もたしかにあるけど、平らなそこは放牧にはちょっとせまい。
 土地の所有者は、実は軍だったりして、まあ、ちょっとしたお祭りとか、ピクニックだとか主催するのに時々使ったりしている場所だった。
   ――が、現時点、見回すそこには色とりどりなテントが張られている。
 子どもも以前何度か一緒にここを訪れているわけで、この様がわりを『うまい』言葉で表してみせた。
 
 ――― いや、もう、笑うしかねえなあ。

 すぐそばで草を食むヤギ達は、まさしく『放牧』状態である。
「―― いつから、ですか?」
「うーんと、この前大将たちがでかけて・・・五日も経たねえ頃かなあ・・・」
 青空に煙を吐きながら思い起こす。
「どこからなんです?見たことない種類のヤギですけど・・・」
 そういいながらしゃがんでヤギをなでる弟は、動物の顔をのぞきこむ。独特の瞳と鳴き声はヤギに違いないのだが、鹿のように大柄で、足には長い毛をもっている。
「それがなあ・・・・あっちから、らしい」
「 ―――――― 」
 男が示した方向。『上』を、兄弟はそろってみあげた。
 
           めええええええええええええええ








 軍有地に勝手に住んでいる人間がいると通報を受け、もちろん下のほうの人間がすぐに現地に向かわされた。

 ここは軍の土地ですよ。勝手に入っちゃいけません。住み着くだなんてとんでもない。――そういう説明をしに。
 
 ところが、五日経っても十日たっても相手は動こうとする気配もみせない。
 それどころか、説明をしに行った人間がみな顔色を変えて戻ってくる。
 
 事の真相を、マスタングが耳にしたのは、半月以上経った頃だった。



「―― 大佐、『手品』って知ってます?」
「・・・大道芸で身をたてるのか?」
「おれの進路相談じゃありません」
 なにかと、街の中も軍の中でも情報を拾うことの多い金髪男は、むかいの黒髪上司に煙草を許され一本くわえた。
 仕事帰りに珍しく時間の合った部下のほうからお誘いしてみたわけだ。
「―― この話をしたくて、残業したのか?」
「・・・なんつうか、あの場所ではしにくいっつうか、酒が入っていたほうが気楽っていうか・・」
「『手品』を、使うらしいな」
「お。やっぱ、聞いてました?」