【腐向け】西ロマSS・5本セット【にょたりあ】
「ええやん、ロマーナによう似合うわ」
ケースを覗き込み、こちらに笑顔で振り向く。久しぶりの顔に胸が温かくなるも、その背後に見える女性が気になって早くここから逃げ出したい。好きな人が異性と一緒に居る所なんて、見たくもなかった。
「ちょっと高いから……、見てただけよ」
じゃあねと体を反転させ、自慢の足で逃げようとする。だが腕をスペインに掴まれ、ロマーナの逃亡計画は泡となった。
「親分んトコ今好景気やから、何でも買うたるで!」
まかしとき! と輝く笑顔を殴りたい。そういう状況かと叫びたい気持ちを抑え、引きつった笑顔で同行の女性を指さした。
「でも、そっちの人」
同行者の存在を忘れるとは失礼な話だ。何で私が見知らぬ女性のフォローをしなきゃいけないのかと恨みつつ、原因である鈍感親分の腕を振りほどこうとした。
「ん? 仕事はもう終わっとるから大丈夫やで」
じゃあ、ここで。あっさり手を振り、スペインは同行者から興味を失う。酷くがっかりした女性の顔に、ロマーナは何とも言えない気持ちで同情した。
(こんな鈍感に好意を寄せるなんて、可哀想な女……。人のこと言えないけれど)
人当たりのいいスペインは、こう見えて興味のありなしが激しいタイプだ。一旦興味を失えば、相手が誰であっても放置するような癖がある。恐らく先程まで興味があったであろう女性から、自分が現れた事により、彼の中で興味の上書きがされてしまったのだろう。
ロマーナはぎゅうぎゅうと抱きつく酷い男にげんなりとし、それでも自分の方が興味を持たれているという事実に喜ぶ。少しの優越感と、身内の申し訳なさ。複雑な気持ちで立ち去る女性の背を見ていると、スペインが体を離して店内へ手を引く。
「さ、可愛いロマーナに似合うやつ買うたるで〜」
「〜っ、アホスペイン!」
嬉しそうに手を引く姿、久しぶりのスペインに今更胸が高鳴る。さっきの事を思えば、いつかは自分も彼の興味を失ってしまうかもしれないという恐怖。でも、今スペインの興味は自分にある。
(恋人にはなれないのに)
「うん、やっぱり緑は似合うわぁ」
耳にピアスを当て、角度を変えながら褒め続ける。リップサービスだと分かっていても、喜んでしまう自分が恨めしい。
「ほら、こっちのネックレスも似合うで」
(こんなんじゃ、いつまで経っても夢見てしまう)
子供の頃からの夢を見続けてしまう。
「ロマーナ?」
俯いた自分に、スペインが心配そうな顔で声を掛ける。いつもの親分顔。それが悲しい。変わらない二人の関係に落ち込みつつ、いつもの可愛くない態度をとった。
「……無駄遣いしすぎ」
「ええの! 親分はロマーナに格好ええって、思われたいんやもん!!」
子供のようにむくれて言われる台詞に、思わず言葉が詰まる。ここで正しい反応は、もう十分思っているという突っ込みか、思われたいのかという驚きか。
好かれたいと思ってくれている事に頬を染めながら、今までのKYを思い出して気を引き締める。ここで喜んだ所で、後で落とされるかもしれない。もうその手は食わないぞと、素っ気無く反応しておくことにする。
「……はいはい、でもこのピアスだけでいいから」
えー……と不満そうな顔の親分を無視し、ピアスだけを会計して貰う。これを付けるたびに彼を思いだしてしまうだろうけれど、貰った物という理由で身に付けやすくはなったと思う。
「スペイン、……ありがと」
小さな声で告げるお礼の言葉に、満面の笑みが返される。また伸ばされる手に逆らわず、ロマーナはスペインと手を繋いで店を出た。
「もっと甘えてくれてもええのに」
拗ねた声に、意地悪く返す。
「メールの返事、返してくれるようになったらね」
青ざめ言い訳をする姿に笑い、少しだけ胸がスッとする。気付かれないように繋いだ手に力を込め、いいから早く家に帰って食事にしようと誘った。
苦虫を噛み潰したような顔をしていたスペインは、暫くして答えを返す。その何時まで持つのか分からない決意に、ロマーナは撃ち殺されるかと思った。
「……ロマーナのメールは返すようにするわ」
(このどうしようもない気持ち!)
こうして今回の別離のチャンスは消え失せ、私は夢を見続けている。「新たな始まり」という石言葉のエメラルドは、今も耳で光っていた。
作品名:【腐向け】西ロマSS・5本セット【にょたりあ】 作家名:あやもり