すれ違い
本田菊が突然の訪問を受けたのは、心地よい日差しが差し出す午後。
愛犬のポチくんと縁側で日向ぼっこをしているときに、突如その平穏な雰囲気が、台風の如く現れたアルフレッド・F・ジョーンズによって奪われた。
「菊ー、おなかすいたんだぞー」
そういって、いつも無断で入ってくる。
「おや、アルフレッドさん。
いらっしゃい。
ちょうどお茶にしていたところなんですが、一緒にいかがですか?
貴方の好きなドーナツもありますよ」
それを菊は微笑みながら迎え入れる。
いつも突然来訪する孫を受け入れる祖父の如く。
そう、この二人は友達というより、孫と祖父という関係に近い。
菊にとって多少迷惑なところもあるが、それを上回るほど自身の趣味にとって大切なネタを落としてくれるので多少の迷惑には眼をつぶれるらしい。
「本当かい?
じゃあ、俺もそっちでお茶するんだぞ」
にこやかないい笑顔をアルフレッドは菊に向け、縁側へと向かう。
それと入れ違うように、菊は立ち上がり、台所へと歩みを進めた。
「では、お茶でも入れてきますね。
少しの間、ポチくんと待っていてください。」
すれ違いざま、アルフレッドに微笑んでそういうと、菊は台所へと消えた。
そう菊に言われたアルフレッドは、菊への返事はせず、黙って縁側のポチくんの隣に座り込む。
そして、隣にいるポチくんをひざに乗せ、撫で回した。
「お待たせいたしました。
さぁどうぞ。
熱いですから気をつけてくださいね」
そう言いつつ戻ってきた菊は、アルフレッドにお茶を差し、ドーナツの入った籠をアルフレッドの横に置いた。
「ありがとうなんだぞ、菊」
そういって、受け取ったお茶を啜り、ドーナツをかごから取って頬張る。
そして、無言でドーナツを食べながら、菊の家の庭を眺めた。
何時ものアルフレッドらしからぬ表情と行動。
それは何処か心ここにあらずといった表情。
抜け殻といったほうが言いぐらいの空っぽさ加減。
菊は横目でそんなアルフレッドを見ながら気づかれないようにため息をつく。
こういうときは、いつもアルフレッドが愛するアーサー・カークランドと何かあった証拠。
菊はなんとなくこのアルフレッドの今の状態の原因が分かった気がした。
「アルフレッドさん、アーサーさんと何かあったんですか?」
問いかけた当人のほうを見ず、お茶を啜りながら菊は聞いた。
きっと、今回のこの問題はアルフレッドが作ったものだとわかっているからだ。
前回の会議で、アーサーを連れて無言で出て行ったアルフレッドの様子を、様子をしっているフランシス・ボヌフォワから少し聞いていたのもあるが。
菊にそう聞かれて、アルフレッドは言葉に詰まった。
確かに菊にアーサーとの事を相談しに来たのは事実。
でも、いつもなら八つ橋に包んで遠まわしに聞いてくるのに、今日はストレートに聞いてきたからだ。
「フランシスにさ・・・・・・、アーサーの事で宣戦布告されたんだぞ。
それで、つい・・・・・・この間の会議のとき、今まで溜めに溜めてた自分の気持ち言ったんだ。
弟としてじゃなくて、一人の男としてみてくれって・・・。
でも、アーサーを見たら困惑した顔してた。
そんな顔見たら、怖くなって逃げたんだ。
アーサーから拒絶されるのが怖くて・・・・・・。」
そういうと、アルフレッドは俯き、ポツリポツリと意をけして話した。
八つ橋に包まずストレートにいう時の菊は、きちんと話をしないと怒られるのが分かっているから。
そして、アルフレッドは黙り込む。
それを聞いた菊は、真面目に聞いているという仮面が剥がれない様に必死だった。
予想以上なことになっていた喜びとネタが迷い込んだ事はいいとして、火付け役がフランシスというのが、確実にアーサーが好きだからではなくて、じれったいからの後押しだというのが分かっているからだ。
菊は必死に微笑みを作り、アルフレッドを見る。
「ヒーローが逃げるだなんて、由々しき問題ですねぇ。
弟として見てると思い込んでるのはアルフレッドさんだけかもしれませんよ?
ねぇ、アルフレッドさん、アーサーさんにお会いに行かれたらどうですか?
案外、いらっしゃるのをまってるかも知れませんよ?
大丈夫です、アーサーさんなら。」
そういいつつ、菊はアルフレッドの髪を撫でた。
菊とアーサーの付き合いは長い。
鎖国をする前からの付き合いなのもあるのだろうが、菊にはアーサーの事は手に取るようにわかっている所が多々あった。
いい言い方をすれば、分かりやすいというのだろうが。
そう言われて、アルフレッドはしばらく黙り込んだ後、膝にいるポチくんを縁側に置いた後、意を決したかのように立ち上がった。
「がんばってみるよ、菊。
ヒーローが逃げてたらかっこ悪いんだぞ。
うじうじしてても仕方ないし、アーサーに直接答え聞いてくる。
それじゃあ、いってくるんだぞー」
そういい残し、アルフレッドは走り出した。
遠く玄関でガラスの割れる音がしたのは気のせいではく・・・・・・。
「いってらっしゃい、アルフレッドさん。
玄関の修理代は・・・・・・アーサーさんに出してもらいましょうか」
もう姿の見えないアルフレッドの変わりに、自分の愛犬を撫でつつ、菊はそう呟く。
そして、懐から携帯を取り出すと、何処かへと不敵な笑みを浮かべて電話をかけていた。
アルフレッドが菊の家を出た後の数時間後のイギリスの首都ロンドン。
その首都にある邸の主のアーサー・カークランドはソファに座り、自ら入れた紅茶にも手をつけず、ぼーっとしていた。
アルフレッドに想いをぶつけられたあの会議の日から数日が経っていた。
アーサーはあの日どうやって自宅まで帰ったのか、その間の記憶がなかった。
其の日から数日、仕事もろくに手につかず、ただアルフレッドが言った言葉を反芻し、そして考え込む日々が続いていた。
『何時からだろう、あいつが俺をそういう風に想うようになった時期は。
アルはかわいい弟だぞ。
ちくしょう、なんなんだよ。』
毎日この自問自答の繰り返し。
かわいい弟だと想う度、そう言い聞かせる度胸が締め付けられるように痛かった。
心がその気持ちに気づいているのに、頭がそれに追いついていけない状態。
ぼーっとしたまま数時間が過ぎた。
日はとっくに沈み、月明かりだけがアーサーを照らし続けた。
『あいつは・・・・・アルは俺が好き・・・・・。
俺には好かれる要素も、好かれる資格もないのに・・・・・。
けど、俺は・・・、俺の気持ちは・・・・・。』
自分の気持ちが整理しきれず、アーサーは頭を抱え込んだ。
ふと、元々薄暗かった視界が更に暗くなったことにアーサーは気づいた。
そして、抱えていた頭を上げると、そこにはアルフレッドの姿があった。
「アーサー、君何してるんだい?
電気も付けずにさ。」
そういうとアルフレッドはしゃがみこんでアーサーと目線を同じにした。
アルフレッドは、結構前からアーサーの家についていたが、自分に気づかずボーっとしているそのアーサーをただ眺めていた。
月明かりがアーサーの髪によく映えて見惚れていたからだが。
「え・・・・・?
あ・・・・・アル?
何で・・・・・?」
愛犬のポチくんと縁側で日向ぼっこをしているときに、突如その平穏な雰囲気が、台風の如く現れたアルフレッド・F・ジョーンズによって奪われた。
「菊ー、おなかすいたんだぞー」
そういって、いつも無断で入ってくる。
「おや、アルフレッドさん。
いらっしゃい。
ちょうどお茶にしていたところなんですが、一緒にいかがですか?
貴方の好きなドーナツもありますよ」
それを菊は微笑みながら迎え入れる。
いつも突然来訪する孫を受け入れる祖父の如く。
そう、この二人は友達というより、孫と祖父という関係に近い。
菊にとって多少迷惑なところもあるが、それを上回るほど自身の趣味にとって大切なネタを落としてくれるので多少の迷惑には眼をつぶれるらしい。
「本当かい?
じゃあ、俺もそっちでお茶するんだぞ」
にこやかないい笑顔をアルフレッドは菊に向け、縁側へと向かう。
それと入れ違うように、菊は立ち上がり、台所へと歩みを進めた。
「では、お茶でも入れてきますね。
少しの間、ポチくんと待っていてください。」
すれ違いざま、アルフレッドに微笑んでそういうと、菊は台所へと消えた。
そう菊に言われたアルフレッドは、菊への返事はせず、黙って縁側のポチくんの隣に座り込む。
そして、隣にいるポチくんをひざに乗せ、撫で回した。
「お待たせいたしました。
さぁどうぞ。
熱いですから気をつけてくださいね」
そう言いつつ戻ってきた菊は、アルフレッドにお茶を差し、ドーナツの入った籠をアルフレッドの横に置いた。
「ありがとうなんだぞ、菊」
そういって、受け取ったお茶を啜り、ドーナツをかごから取って頬張る。
そして、無言でドーナツを食べながら、菊の家の庭を眺めた。
何時ものアルフレッドらしからぬ表情と行動。
それは何処か心ここにあらずといった表情。
抜け殻といったほうが言いぐらいの空っぽさ加減。
菊は横目でそんなアルフレッドを見ながら気づかれないようにため息をつく。
こういうときは、いつもアルフレッドが愛するアーサー・カークランドと何かあった証拠。
菊はなんとなくこのアルフレッドの今の状態の原因が分かった気がした。
「アルフレッドさん、アーサーさんと何かあったんですか?」
問いかけた当人のほうを見ず、お茶を啜りながら菊は聞いた。
きっと、今回のこの問題はアルフレッドが作ったものだとわかっているからだ。
前回の会議で、アーサーを連れて無言で出て行ったアルフレッドの様子を、様子をしっているフランシス・ボヌフォワから少し聞いていたのもあるが。
菊にそう聞かれて、アルフレッドは言葉に詰まった。
確かに菊にアーサーとの事を相談しに来たのは事実。
でも、いつもなら八つ橋に包んで遠まわしに聞いてくるのに、今日はストレートに聞いてきたからだ。
「フランシスにさ・・・・・・、アーサーの事で宣戦布告されたんだぞ。
それで、つい・・・・・・この間の会議のとき、今まで溜めに溜めてた自分の気持ち言ったんだ。
弟としてじゃなくて、一人の男としてみてくれって・・・。
でも、アーサーを見たら困惑した顔してた。
そんな顔見たら、怖くなって逃げたんだ。
アーサーから拒絶されるのが怖くて・・・・・・。」
そういうと、アルフレッドは俯き、ポツリポツリと意をけして話した。
八つ橋に包まずストレートにいう時の菊は、きちんと話をしないと怒られるのが分かっているから。
そして、アルフレッドは黙り込む。
それを聞いた菊は、真面目に聞いているという仮面が剥がれない様に必死だった。
予想以上なことになっていた喜びとネタが迷い込んだ事はいいとして、火付け役がフランシスというのが、確実にアーサーが好きだからではなくて、じれったいからの後押しだというのが分かっているからだ。
菊は必死に微笑みを作り、アルフレッドを見る。
「ヒーローが逃げるだなんて、由々しき問題ですねぇ。
弟として見てると思い込んでるのはアルフレッドさんだけかもしれませんよ?
ねぇ、アルフレッドさん、アーサーさんにお会いに行かれたらどうですか?
案外、いらっしゃるのをまってるかも知れませんよ?
大丈夫です、アーサーさんなら。」
そういいつつ、菊はアルフレッドの髪を撫でた。
菊とアーサーの付き合いは長い。
鎖国をする前からの付き合いなのもあるのだろうが、菊にはアーサーの事は手に取るようにわかっている所が多々あった。
いい言い方をすれば、分かりやすいというのだろうが。
そう言われて、アルフレッドはしばらく黙り込んだ後、膝にいるポチくんを縁側に置いた後、意を決したかのように立ち上がった。
「がんばってみるよ、菊。
ヒーローが逃げてたらかっこ悪いんだぞ。
うじうじしてても仕方ないし、アーサーに直接答え聞いてくる。
それじゃあ、いってくるんだぞー」
そういい残し、アルフレッドは走り出した。
遠く玄関でガラスの割れる音がしたのは気のせいではく・・・・・・。
「いってらっしゃい、アルフレッドさん。
玄関の修理代は・・・・・・アーサーさんに出してもらいましょうか」
もう姿の見えないアルフレッドの変わりに、自分の愛犬を撫でつつ、菊はそう呟く。
そして、懐から携帯を取り出すと、何処かへと不敵な笑みを浮かべて電話をかけていた。
アルフレッドが菊の家を出た後の数時間後のイギリスの首都ロンドン。
その首都にある邸の主のアーサー・カークランドはソファに座り、自ら入れた紅茶にも手をつけず、ぼーっとしていた。
アルフレッドに想いをぶつけられたあの会議の日から数日が経っていた。
アーサーはあの日どうやって自宅まで帰ったのか、その間の記憶がなかった。
其の日から数日、仕事もろくに手につかず、ただアルフレッドが言った言葉を反芻し、そして考え込む日々が続いていた。
『何時からだろう、あいつが俺をそういう風に想うようになった時期は。
アルはかわいい弟だぞ。
ちくしょう、なんなんだよ。』
毎日この自問自答の繰り返し。
かわいい弟だと想う度、そう言い聞かせる度胸が締め付けられるように痛かった。
心がその気持ちに気づいているのに、頭がそれに追いついていけない状態。
ぼーっとしたまま数時間が過ぎた。
日はとっくに沈み、月明かりだけがアーサーを照らし続けた。
『あいつは・・・・・アルは俺が好き・・・・・。
俺には好かれる要素も、好かれる資格もないのに・・・・・。
けど、俺は・・・、俺の気持ちは・・・・・。』
自分の気持ちが整理しきれず、アーサーは頭を抱え込んだ。
ふと、元々薄暗かった視界が更に暗くなったことにアーサーは気づいた。
そして、抱えていた頭を上げると、そこにはアルフレッドの姿があった。
「アーサー、君何してるんだい?
電気も付けずにさ。」
そういうとアルフレッドはしゃがみこんでアーサーと目線を同じにした。
アルフレッドは、結構前からアーサーの家についていたが、自分に気づかずボーっとしているそのアーサーをただ眺めていた。
月明かりがアーサーの髪によく映えて見惚れていたからだが。
「え・・・・・?
あ・・・・・アル?
何で・・・・・?」