すれ違い
そう聞くのがていいっぱいなアーサー。
言いたいことは確かにあるのに出てこない。
それでも頭の片隅には、相変わらず神出鬼没だなとは思っているのだが。
「んー・・・」
気の抜けた返事をしつつ、アルフレッドはそっとアーサーの頬に触れ、優しく撫でた。
アーサーの問いを誤魔化すかのように。
アーサーは頬に触られた瞬間、一瞬ビクッと体を震わせたが、されるがままにそっと眼を閉じる。
「アーサー、君は俺のことどう思ってるんだい?
俺はまだ君の中でかわいい弟のまま?」
頬をなで続けたまま、アルフレッドはアーサーに問いかける。
重い沈黙。
その沈黙を破ったのはアーサーだった。
「ずっと・・・・・・ずっと考えてた。
考えてたときに、アルは弟だからとか思うと・・・・・胸が痛いんだ・・・・・。」
そういうとアーサーは口を噤んだ。
アルフレッドは何も言わずじっとアーサーを見つめる。
言葉を発するより、何故か何も言わないほうがいいと思ったからだ。
アーサーが閉じていた目を開け、ふとお互いの眼が合う。
アルフレッドも、アーサーも目を逸らさない。
お互いの目はアルフレッドは真剣なまなざしだが、アーサーの目は泣きそうな目をしていた。
「お前が出て行った後、色んな物紛らわすために無茶もやった。
寂しさ紛らわす為に女だって抱いた。
けど、それじゃ紛れなかった。
女を抱いたとき、心にモヤモヤするものがあったりしたし。
そのモヤモヤが何なのかも考えた。
弟の代わりにはならないからだとも思ったけど、それじゃねぇし。
そう思うのも胸締め付けられていてぇし。」
そういうとアーサーは俯いた。
アルフレッドは無言でアーサー隣に座り、腰に手を回し抱き寄せた。
アーサーはそれに黙って身を任せ、アルフレッドの手にそっと手を添えた。
再びお互い無言。
それは先ほどとは違った空気。
「アル・・・・・・、俺・・・・」
そういって口を噤むアーサー。
何か言いたそうな雰囲気ではあるがなかなか言い出さない。
「ん?なんだい、アーサー?」
アルフレッドはアーサーの顔を覗き込む。
それからアーサーは目線を逸らす。
「本当はもっと早く気づくべきだったのかもしれない。
アル・・・・・お前が出て行ってからずっとあるこのモヤモヤ。
お前の独立を望んでたのは・・・・一番それを望んでたのは俺だったのかもしれない。
弟だからと自分自身に嘘ついて、自分の気持ちを閉じ込めてた。」
アーサーは目線をアルフレッドに戻し、じっと見つめ、アルフレッドは逸らすことなく見つめ返し、アーサーを更に強く抱き寄せた。
それをふと軽く笑うと、アーサーはそっとアルフレッドの頬に触れた。
「本当は、お前との関係を壊したくなくて、弟としてみていたかったのかもしれない。
なぁアル・・・・・俺はお前のこと愛してるよ。
弟としてじゃなく、一人の男・・・・・アルフレッド・F・ジョーンズとして。
傍にいて欲しいと思うのは、弟としてのお前じゃなくて、こんな俺を愛してくれるたった一人、俺の愛する男だ。
今までが今までだから、信じてもらえねぇかも知れないけど。」
少しはにかんだ照れた笑顔でアーサーはそういうと、アルフレッドの頬を撫でた。
アルフレッドは少し照れたように笑い、軽くアーサーに口付ける。
「離せっていってももう離さないんだぞ。
もう、離れたくないよ、アーサー」
アルフレッドはそういいつつ、きつくアーサーを抱きしめる。
アーサーはアルフレッドの背中に手を回し、抱きしめた。
そして、アーサーは下からアルフレッドを見上げると、返事代わりに口付ける。
それが段々深い口付けへと変わり、自然とアルフレッドはアーサーをソファに押し倒した。
「んっ・・・・ふっ・・・・アル、アルフレッド」
深い口付けを交わす間から漏れる甘い声と、愛しいアルフレッドの名前を熱に浮かされたかのように呼び続けるアーサー。
アルフレッドがアーサーのシャツの下に手を忍ばせる。
そこでふと我に返ったアルフレッドは、下で蕩けたような顔をしたアーサーを見下ろした。
「アーサー、ここじゃなんだし、ベッドいこうか?」
最早スイッチの入ったアーサーは蕩けた顔のまま頷く。
深い口付けでアーサーの口元から零れたどちらのものとも分からない唾液を舐め取ると、アルフレッドはアーサーを抱き上げた。
そのまま部屋を出て行く。
思いが通じた者たちの熱に浮かされた宴を開く為に。
END