新しい夢の始まり
それが余計、アーサーを苦しめる。
ふと、アーサーは顔を上げて、アルフレッドの顔を見る。
眼があったそのスカイブルーの綺麗な瞳は真剣なまなざしだった。
一つ ため息をついたアーサーは、意をけして話してみることにした。
嫌われるかもしれない、軽蔑されるかもしれない。
自分はアルフレッドから見放されたらきっと生きていけないかもとまで考えた。
それ故、話をすることを躊躇った。
それでも、話す気になったのは、何時も自分のくだらない話を聞いてくれる菊の存在があったからだ。
『アーサーさん、どうして人は秘密を持つのでしょう。
秘密を持ったまま、人と付き合うのはとても大変なことですよね。
どれだけ秘密なことであっても、本当に愛した人なら、其の秘密をお話してあげないと駄目だと思うのです。
だって寂しいじゃないですか、愛し合ってるのに秘密があるなんて。
秘密を分かち合ってこそ、愛し合えるんじゃないでしょうか。
それがどんなことでも・・・ね。』
そう言われた事を思い出していた。
まさか、二人の気持ちを察して、尚且つアーサーにアルフレッドにも言いたくないような秘密があるのを見抜いている上で、アルフレッドに言ったことも同様に、本田菊という男が言ったとは知る由もないだろうが。
「アル・・・実は・・・」
そう切り出すと二人は近くのソファに座り、そしてアーサーはポツリポツリと話始めた。
昔のことを。
殴られ、蹴られ泣いて許しを請いても、サンドバッグのように玩具にされてきたことを。
誰からも必要とされてこなかったことを。
いつかまた、そうなるんじゃないかという不安をぽつりと消えそうな声で言ったのをアルフレッドは聞き逃さなかった。
「アーサー、不本意だけど君に育てられたんだぞ。
あの頃は本当に君が居てくれてよかったと思ってるし、そして今もそうなんだぞ。
今はもう君の弟ではないけど、俺にとって君はとっても大事な人だぞ。
だから、傍に居て欲しいと思うし、俺も傍にたいんだ。
俺はアーサーが必要だなんぞ。
他の誰でもない、アーサーだからね。
君のような人、傍に居てほしいとか、傍にいたいとか思うのは俺くらいだぞ。
他に居ても困るけどね。
アーサーは俺のなんだから。」
そういって、アルフレッドは円満な笑顔でアーサーを見る。
今まで泣きそうな顔をしていたアーサーは一瞬のうちに顔を真っ赤にしてアルフレッドにきつく抱きつき、照れ隠しをするかのようにその胸に顔を埋めた。
それを満足そうに見つめると、アルフレッドはアーサーの髪を撫でた。
「愛してるよ、アーサー。ずっと傍にいてくれるだろ?」
アルフレットがそう問いかけると、アーサーは返事代わりにきつく抱きしめてきた。
それをアルフレッドは無理やり引き剥がし、真っ赤なままのアーサーの頬を両手でつかんで自分と無理やり向き合わせる。
アーサーはどうなのかと、その笑顔か゜問いかけているかのように。
そうされたアーサーはもがいても無駄なのを察し、暴れようかと思っていたのをやめた。
「・・・俺もアルの傍にずっと居たいよ。
あ・・・愛してるし。
もう、コレでいいだろ、ばかぁぁぁぁ」
あまりの恥ずかしさに、何時もどおり絶叫して涙目でアルフレッドを睨み付ける。
満足げに笑いながら見つつアーサーを抱きしめ、未だ睨み付けているアーサーの唇に軽く口付ける。
それを一瞬驚いたような顔をアーサーはしたが、何処かで何かのスイッチが入ったのか、アルフレッドの首に腕を回し、もっとと強請るかのように今度は自ら口付けた。
そしてそれが段々深い口付けへと変わっていく。
「んっ・・・ふっ・・・ぁっ・・・」
どちらかから出た甘い声だか分からないくらい、そして二人の間では長い間だったのか短い間だったのかわからない口づけ。
アルフレッドがアーサーを見下ろすと、そこにはいやらしく蕩けた愛しい恋人の姿が。
19歳のアルフレッドがそんなものを見たら我慢できるはずもなく。
「ねぇ、アーサー。」
少し目線を外し気味にアルフレッドがアーサーに声をかける。
久々にした口付けでアーサーの頭は朦朧としていたところを、たたき起こされたような感覚で引き戻された。
引き戻されたのは、アルフレッドに声をかけられたのではなく、その目線を逸らし耳まで真っ赤にしているアルフレッドの顔。
「なんだ、アル。ヤりたくなっちゃったのか?」
そういうと、含み笑いでアルフレッドを見据えるアーサー。
今までの悄らしい彼はどこへやら、いつの間にか立場が逆転していた。
アーサーの問いかけに目線を逸らしたまま何も答えないアルフレッドの沈黙を自分のいいほうにとっていいと判断したアーサーは、そっとアルフレッドの頬に手を沿えた。
「アル、ずっと傍に居てくれるんだろう?くくっ、じゃあまず、精一杯愛してやるから覚悟しろよ」
邪悪な微笑みをアルフレッドに向けたアーサーは、ソファにアルフレッドを押し倒した。
それをなんの文句も言わず受け入れ、愛しいアーサーの首に腕を引き寄せた。
「愛してる、アル。俺のアルフレッド」
「俺も愛してるよ。俺だけのアーサー」
とちらともなくそう呟いて、口付けを交わす。
甘美な口付けを。
そして、始まる甘美な宴。
たった二人だけの時間。
誰にも邪魔されることのない空間。
アーサーを玩具にしたうの男たちももう居ない。
愛しい男を抱きながら見た夢は悪夢ではなかった。
END