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孤独な彼との数ヶ月 5

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燐のことを愛していると囁きながら、燐の意思などどうでもいい、と切り捨てる意地の悪い男。
残忍なのとは違うし、自分勝手なのとも少しばかり違う。
強いて言うなら、かれは、燐の意思を“ 恐れている ”のだと思う。
燐の言うことを素直に聞いていたら燐が取り返しのつかないことをする、ひいては、自分にも累がおよぶ、とそう言いたげな種類の恐れだ。
かれは、燐の意思を無視すると宣言しながらも、燐の一言一句を一挙一動を、心を研ぎ澄ませてうかがっている。そんなふうだ。
「どうして、おれを怖がるんだよ……」
誰に聞かせるともない言葉を小さく呟いて燐はかれの胸に耳を寄せる。
とくとくと脈打つ命の音がする。
規則的な鼓動が、どこまでも続く子守唄のようだった。
かれの胸をあばいたら、きっとそこには燐への想いが、重りのように詰まっているに違いない。
時々、そんなことを考えることがある。
かれの愛は、なんとなく盲目的で、なぜか孤独だ。
そうだ、愛し合っているのは間違いないのに、かれは孤独な心をかかえている悪魔だった。
燐は、誰に聞かれても、胸を張って、かれを愛していると言えるのに、かれの心はいつだって、どこか遠くて、ひとりぼっちの子供のようだった。
かれの心に踏み込みたい、もっと、近づきたい。そう思うのに、どうすれば、かれを孤独から救えるのか、燐には見当がつかなかった。
先日、かれは、愛を免罪符に、燐の行動に口を出し、結局は仕事さえも制限した。
それでも、かれは、ちっとも満たされているようには見えない。
望みどおり燐を始終そばに置きながらも、かれには、いつだってどこか寂しそうな影があとをついてまわるのだ。
燐からの愛情を、乾いた砂が水を吸い込むように受け取るのに、燐は、かれの心を掴みきれない。
「ちゃんと好きなんだからな」
よもや自分の気持ちを疑っているのでは、と思いつき、相手が寝ていることもかまわず、愛を宣言する。
いらえが返らないのはあたりまえだが、なんとなく満足はした。
愛なんて自己満足だ、とかれは冷たいことを言うが、あながち間違ってはいないのかもしれない。
でも、燐は思うのだ。
愛って、もっと綺麗なものじゃないか、と。
愛に色や形があるなら、不純物がすくない透明度の高いサファイアみたいにきらきらして、きっと、美しい形だ。
そうだ、目の前の、男の瞳のように美しい色をしているにちがいない。
眠っているため今は閉じられた瞼のむこうにある瞳が恋しくなって、燐は、かれの瞼に手でそっと触れる。
ぬるい温もりに心がやすまって、ほっと溜息をつく。
するとふいに瞼がふるりと震えた。
はっとして手をひっこめたが、ひっこめ終わるより先に、追いかけてきた手に掴まれる。
眼鏡をはずしているため睨むように見つめてくる瞳は、まだどこか夢見心地で、これは寝ぼけているな、と判断した。
かれは、燐の頭を引き寄せ、燐の鼻の頭にキスをした。
「なに?足りなかった?」
そう言いながら、燐の尻尾をつかんで、やわやわと刺激する。
上から下へゆうるりと撫でられると、体の力が抜ける。
「ちげーよ」
声を掠れさせながらも否定する言葉を吐いて、かれの手を引き剥がし、その指にキスをする。
眠りにつく前より、かれの機嫌がやや上向いているのを感じて、少しばかり安心した。
だが、起こしてしまって可哀想なことをしたと思う。まだ夜は長い。普段、多忙なかれを、もっと休ませたほうがいいに決まっている。
「もう少し寝てようぜ」
「……自分で起こしたくせに」
どこか不貞腐れたように言って。それでも、やはり眠かったのか、かれは、大人しくまた目を瞑った。
その際、燐をしっかりと抱き込みなおすことを、かれは忘れなかった。
やがて、かれは落ち着いたように溜息をついて。
そして、またかれの寝息が聞こえ始めるまで、燐の手は雪男の背を、子供をなだめるようにゆるゆると撫でていた。
燐には、この体温のないところに行くことなど考えられない。
自分の“ 愛しい ”という感情に形をつけたら、それはきっとかれの形をしている。
それは、やや硬い手で、力強い腕で、燐を包む、青い目の孤独。
かれの孤独が癒えるまで、しつこく寄り添い続けるつもりだ。
嗚呼、自分の中の愛に、色をつけて、形をつけて、取り出してかれに手渡せたらいいのに。心から、そう思う。
分かりやすく積み上げて、かれを自分の愛に埋もれさせたい。
それができるなら、もういらないと断られるくらいに、これみよがしに窒息するほど積み上げてやるのに。
もう二度と、孤独だ、なんて言えないくらいに!