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誕生日

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3月3日
俺の大事な人の大切な日。
アーサーは其の日が何で大切な日か、遠い昔に起った事すぎて忘れた言ってたけれど、それでも覚えているという事は忘れられない日なんだと思う。
そして彼は、この日はいつも何処か忙しないんだ。
忙しないと思いきや、突然暗くなる。
昔からそうだったんだ。
理由を聞いても、遠い昔、もう何百年、何千年前の国民は祝ってくれてたことだけど、ソレが何のことかは分からないって言うんだぞ。
彼に分からないことは、俺にも解らない。
昔から気にはしていたけれど、アーサーと想いが通じた日から、それが一層強くなった。
けど、解らないものを気にしててもと言い聞かせてずっと今まで来たんだ。
彼から独立してから、アーサーのソレが酷くなっている気がしたから・・・。


『あれ、ここはどこだい?
 俺は確か・・・アーサーの膝枕でごろごろしてて・・・』
体が痛くなって起き上がると、木々が生い茂る見知らぬ場所に居た。
辺りを見回してもよくわからない場所。
見知らぬ場所にいるにもかかわらず、何処か俺は落ち着いていた。
誰かに包まれているような感覚がして。
『この感覚は・・・昔何処かで・・・?』
思い出そうとしても思い出せない。
それでも懐かしい感覚。
安心してもいいという感覚。
コレは何なのだろう。
そんなことを考えても、今置かれている現状は変わらないから気にしないことにした。

不意にガサリと葉と葉が擦れる音がした。
その音のほうを見ると、金色の髪に緑色瞳でぼさぼさ頭の小さな男の子がいた。
其の子は俺の顔を見るなり、恐怖に戦いたような顔をした。
「・・・誰だてめぇ?
 まさか!?」
そういうと彼は踵を返し森の中に駆け入っていく。
俺は慌てて立ち上がると彼を追いかけていた。
何故かそうしないといけない気がしたから。

小さな男の子の足は遅く、俺はすぐに追いついた。
俺は徐に彼の手を取ると立ち止まる。
それにびっくりした彼は立ち止まったけど、その彼の顔は戦いたまま。
「触んな!
 離せよ!」
そう言う彼が逃げられないように、俺は手は掴んだままで彼の頭をなでようとした。
そうしたら、彼は体をビクリと震わせて、俺を睨みつけ、暴れだした。
「離せ!
 触るな!
 どうせ俺のこと殴る気だろ?
 ふざけるな、そう簡単に殴られねぇぞ。
 くそ、早く離せよ!!」
そう言いながら暴れる彼見て困惑した。
袖から見えた腕に真新しい痣と切り傷、消えかかった痣も見えた。
ソレがものすごく見ていられなくなり、自分の視界から逸らすように、気が付いたらその場にしゃがみこみ、俺は彼を抱きしめていた。
そんなことをした俺自身に自分でも驚いたけど、腕の中の彼のほうが何が起こったのかわからず、眼を丸くして俺を見ていた。
「驚かせてごめんだぞ。
 俺は、君に危害を加える気は無いんだ。
 おとなしくしてくれるかい?」
彼を抱きしめたまま、眼下の彼に微笑みながら問いかける。
その彼は居た堪れないのか、顔を背け、一生懸命俺の腕から逃げようと必死になっていた。
そんな彼を俺は微笑みながら見下ろし、そのまま抱き上げて立ち上がる。
突然視界が高くなったのに驚いて、逃げるのを止めた彼は、目線が同じになった俺の顔をじっと見つめてきた。
そして、震える手で俺の頬を撫でる。
突然の事でびっくりはしたけど、俺はされるがままにしておいた。
何時もの俺なら、ハイテンションで彼に対応するところなんだろうけど、何故か出来なかった。
そんなことをしたら、何故か傷つけてしまうような気がして。
しばらく頬をなでたり、頭をなでたりしてた彼は手を止めたかと思うと、またじっと見つめてきた。
「ん?なんだい?」
笑って彼に問いかける。
問いかけても彼はじっと俺を見つめるだけ。
ただ、最初の警戒心と敵意むき出しの殺気はなくなっていたけど。
片手で彼を抱っこしながら、片手で彼の髪を撫でる。
それをビクッと体を震わせたけど、さっきみたいに抵抗したり、罵倒が飛んでくることなくおとなしく撫でられていてくれた。
『警戒心は、少し取れた・・・かな?』
心の中でそう呟く。
彼の髪を撫でていると、アーサーの髪を思い出した。
撫でながら、彼の顔をよく見ると、アーサーの面影がなんとなくある。
ふと、自分がどういう状況なのか考えようと思った。
もし、目の前に居るこの子がアーサーの子供の頃の姿だとしても、夢なのか、現実なのかがはっきりしない。
手に触れるこの髪の感触も、子供特有の甘い匂いも、伝わってくる彼の体温も現実味があるから。
真剣に悩んでいる俺の頬をぺちぺちと彼は叩いた。
それは痛いことは無いけれど、ただ彼が何故か心配そうな顔をしていたのが、その思考を止めた。
「ん?痛いんだぞー」
そう言って俺は笑いながら頭をわしゃわしゃと撫でる。
元々ぼさぼさだった彼の髪が更にぼさぼさになったけど。
「お前、俺のこと殴んねぇのか?」
まっすぐな瞳で俺をみてそう質問してきた。
どれだけ彼は殴られたんだろう。
「殴らないよ。
 変なこと聞いていいかい?
 いつも君は誰かに殴られたり怯えたりしてるのかい?」
子供に聞くのはストレートすぎる言葉かもしれない。
けど、ストレートに聞かないと、話をしてくれない気がしたんだ。
「兄ちゃんたちに・・・お前は要らない子だからって。
 誰からも必要としてないからって。
 ・・・俺が生まれた日は今日なのに、誰も祝ってくれない。
 祝ってくれないし、殴られるし、罵倒されるし、もう・・・嫌だ。」
彼はそういうと眼に涙を溜めて俯いた。
俺はそれを居た堪れない気持ちで聞いた。
そして、彼をきつく抱きしめると、彼は大声を出して泣き始めた。
どれだけ我慢してきたのだろう。
どれだけ我慢して泣かなかったのだろう。
そう思うと心が締め付けられた。
俺の愛しいアーサーもそうだから・・・。

しばらく泣いていた子は落ち着きを取り戻したのか、涙でぐしゃぐしやになった顔を上げた。
それを袖で拭いてあげながら、彼の額に軽くキスをする。
それをびっくりした顔をしたけど、彼は嬉しそうに受け入れてくれた。
「君の誕生日って・・・今日だって言ったよね?
 あれ、今日って何日だったけ?
 教えてくれるかい?」
何度か頬や額にキスをしつつ彼に聞いた。
それをくすぐったそうに受け入れた彼は、一瞬驚いたような顔をしたけど、また笑顔に戻った。
「ばぁか、今日は3月3日だろぉが。
 んな事もわかんねぇのかよ。」
そういって彼はけらけらと笑った。
それが、その笑顔が愛おしいと思った。
たったさっき逢ったこの子が。
「そんなに笑わなくてもいいじゃないか。
 ヒーローの俺だって忘れることぐらいあるんだぞ。」
俺も負けじと笑いながら彼の髪をわしゃりと撫でる。
そうしてお互い笑いあった。
「そういや、お前名前なんつーんだよ?」
ふと、思い出したかのように彼が聞いた。
そういえば忘れてた。
自己紹介なんてする状況じゃなかったのもあるけどね。
「アルフレッド・F・ジョーンズだよ。
 君はなんて名前なんだい?」
優しく彼の頭を撫でながら答える。
彼はそれに円満な笑みを浮かべた。
「ブリタニアっつーんだ。覚えとけ。」
作品名:誕生日 作家名:狐崎 樹音