BSRで小倉百人一首歌物語
第18首 住の江の(ダテサナダテ)
「某が、夢に?」
問い返すと、政宗殿はにんまりと笑う。
「ああ。お逢いしとうございました、とか言いながら泣いてんだか笑ってんだかわかんねぇような顔しやがる」
戦場以外でこの御方が饒舌になるのは、気分よく酔っておられる時だけだ。酔うとそんな風に、楽しそうに俺を揶揄う。
「それは…某の偽らざる本心でありますから」
こちらも酔いに任せて告げてみると、ふふ、とまるで童のように笑う。
「知ってるか、幸村」
「何です?」
「懸想心があるとな、その相手の夢に出るんだと」
その言葉に顔を赤くする俺の頭を、愉快そうにわしゃわしゃと撫でまわした政宗殿の笑顔が、忘れられない。
その逢瀬から、もう幾月かが過ぎた。互いに戦や政務に追われ、文のやり取りでさえも随分減ってしまった。
それなのに、床に就く前には必ず、あの時の政宗殿の言葉を思い出してしまう。
「懸想心があると…ですか」
ならば、夢にさえ会いに来てくれない貴殿は、随分と冷たい御方だ。
きっと貴殿の夢には、夜ごと俺の幻が通っていることでしょう。そう思うと、政宗殿と逢瀬を重ねる自分の幻にさえも妬いてしまいそうになる。
所詮、このように劣情を抱えながら日々を送っているのは、俺だけなのだろうか。
俺が想っているように、貴殿は俺を想ってくれてはいないのだろうか。
そうして今にも零れそうになる涙を抑えながら、今宵も眠りに落ちていくのだ。想い人の来ない、孤独な夢の中へ。
貴殿の夢に現れる某は、どのような表情をしていますか?
きっと、あの時と同じ、泣いているんだか笑っているんだか分からない顔をしているのでしょうね。そうしてただ一言、告げるのでしょう?
『お逢いしとうございました…』
住の江の 岸に寄る波 よるさへや 夢の通ひ路 人目よくらむ
作品名:BSRで小倉百人一首歌物語 作家名:柳田吟