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玉木 たまえ
玉木 たまえ
novelistID. 21386
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メロヘロ

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 今から会えますか、と送ったメールには、家にいる、とだけ返ってきた。もうすっかり通いなれた道を、猛スピードで自転車を転がして、阿部は榛名の家へと向かった。
 インターフォンを鳴らして、扉が開いた瞬間、阿部はずいと持っていたビニール袋を差し出した。
「誕生日、おめでとうございました」
 榛名は目を白黒させている。
「この前は、ちゃんとお祝いできなかったから」
 もう一度、阿部が腕を伸ばすと、榛名はビニール袋を受け取った。中を覗きこんで、納得したらしく、まあ、上がれよ、と阿部を促す。お邪魔しますと告げて、阿部は榛名に続いた。
 部屋に入ると、榛名はがさがさと音をさせながら、ビニール袋から、阿部のプレゼントを取り出した。先ほど、コンビニで買い集めたばかりの、カップ入りのアイスクリームが幾つもローテーブルの上に並べられる。これで、今月のお小遣いは完全に使い果たした。しばらくは、部活帰りの寄り道も我慢するしかないだろう。
 榛名は、いくつもあるうちから、ストロベリーアイスクリームを選んで手に取った。それから、阿部にはバニラアイスクリームを差し出す。
「あんたへの、プレゼントですよ」
「一人で食うの、味気ねーし。付き合えよ」
「……どうも」
 二人はそれぞれに蓋を開けて食べ始めた。しばらくして、榛名は言った。
「いつ分かった?」
「今日。部活のみんなと、同じ店に行ったんです。そしたら、店員の人が教えてくれました」
「ああ、あん時のねーちゃん。いい人だったよなあ」
「オレが店に入るまで、何話してたかと思ったら、そんなことだったんですね」
 阿部はスプーンを口に運ぶ動きを止めて、聞きたかったことを尋ねた。
「なんで言わなかったんです、誕生日だって」
 最初にそう言ってくれれば、阿部だって榛名におごるのをしぶったりはしなかっただろうし、その後のことも、もう少し柔らかい態度で接することができたのかもしれない、と思う。
「言わなかったっけ?」
「オレの日だとか、なんとかは言ってましたけど。あれじゃ通じないです」
「あー、まあ。でもどうでもいいって言えば、どうでも良かったんだよ、別に。あの日も、せっかくだからタカヤと一緒がいいなーって思っただけで、何かして欲しかったわけじゃねーし」
 お前、いかにもそういうイベント興味なさそうだし、と言いながら、榛名は、小さなプラスチックスプーンをくるりと回した。
「ま、一緒にいるうちに、ちょっと欲かいちまったんだけどな」
「……オレだって、知ってりゃ誕生日くらい祝いますよ」
 阿部がそう言うと、榛名はニカリと笑った。
「おう、そーみたいだな。これ、くれたし。サンキューな」
 阿部はなんだか、たまらない気持ちになってきた。
「それ、ちょっともらっていいですか」
 榛名の手にしているアイスクリームを指差して、阿部は言った。榛名は、きょとんとした顔になる。
「お前、味混ざるのいやだって」
「いいんです」
 じっと榛名を見つめて言うと、目の前にストロベリーアイスクリームのカップが差し出された。そこからひと口掬って、口に運ぶ。舌の先から、口の中いっぱいに、甘酸っぱさが広がった。それをくるみこむように、バニラのアイスクリームの甘さが馴染んでいく。
 つまりは、こういうことなのだ、と阿部は思った。阿部が榛名と付き合うのも、こんな風に、混ざり合うためだ。阿部の顔に、自然と微笑みが浮かんだ。
「おいしいですね」
「お、おう? だろ?」
 榛名はなぜか、照れたように応えた。阿部は、自分のカップを榛名の方に寄せて、元希さんもどうぞ、と言った。
 お互いに分け合いながら、半分ほど食べたところで、阿部が、そういえば、と切り出した。
「大事なこと忘れてた」
 コホン、と一つ咳をすると、阿部が突然、はっぴーばーすでー、と歌い始めたので、榛名はすっかり驚いた。歌っている阿部も恥ずかしそうだが、榛名は榛名でいたたまれない。ようやく歌い終えたときには、二人して顔を赤くしていた。
「や、なんつーか、なんつーか、すげえうれしいんだけど」
「誕生日には、歌うもんだろ……!」
「お前の本気の程は、よく分かった」
 榛名は、両手で頬をこすって、表情を改めて言った。
「ありがと、タカヤ。まさかお前が歌まで歌ってくれるとはオレも予想してなかった。誕生日だからって、歌まで歌ってくれるとは、全然思ってなかった」
 そこまで真剣な表情で榛名が言ったところで、阿部の限界が来た。
「あーーーーーーー! 恥ずかしい!」
 持っていたアイスクリームのカップを投げ出して、床の上でごろごろと転がっている。それを見た榛名も一緒になって転がりはじめた。
「ばかやろ、恥ずかしいのはこっちもだっつの! お前どんだけオレのこと好きなんだよ」
「もう二度としねえかんな! 絶対しねえ!」
「いや、お前の誕生日には、オレが全力で歌ってやっから、最後まで聞けよ! 耳ふさぐの無しだかんな!」
 狭い部屋で、ぎゃあぎゃあとわめきながら転がりまわっていた二人は、ついにはごつんと頭をぶつける羽目になった。
「い、てえええ!」
 声をそろえて叫んで、ぶつけたところを押さえて、二人はお互いを見た。視線が重なり、空気が変わる。不意に、榛名が言った。
「好きだ」
 大きな手が伸びてきて、阿部の頬を撫で、それから耳をくすぐった。阿部が、はい、と答えると、榛名がのしかかってくる。
「オレも好きです」
組み敷かれ、体をまさぐられながら、阿部はふと顔を横向けた。そこには、二人の手からそれぞれに投げされたアイスクリームが、重なるようにして床に落ちていた。吐息が熱を上げるにつれて、ゆっくりと溶けて交わり始める。
絡み合う二人の隣で、ストロベリーとバニラの二色のアイスクリームは、ゆっくりとマーブル模様を描いていった。
作品名:メロヘロ 作家名:玉木 たまえ