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玉木 たまえ
玉木 たまえ
novelistID. 21386
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メロヘロ

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 榛名と連絡を取らないまま、数日が過ぎた。喧嘩というには微妙ないさかいで、和解というには半端なやりとりをしたせいか、かえって連絡が取りづらい。榛名が謝るというのもおかしな話だし、阿部が謝るのも、やはり何か違う気がした。
 ミーティングを終えて、いつもより早めに学校を出た西浦高校野球部の面々は、連れ立って遊びに出かけた。行き先が、たまたま先日、榛名と会ったばかりのショッピングモールだったために、阿部は少し複雑な気持ちになる。けれども、久々に仲間たちと校外でわいわい騒ぐうちに、次第に頭からそのもやもやが吹き飛んでいた。まだそれが出来る年齢なのだった。
 阿部がもう一度、榛名とのいざこざを思い出したのは、誰かが、アイスクリームを食べたい、と言いだした時だった。食べるということには、貪欲な男子高校生たちである。すぐに賛成の声が上がって、皆で一階へと移動することになった。
 阿部は三橋の後ろにいた。他のメンバーが、次々にアイスクリームを選んでいく中で、三橋は先ほどから、ディスプレイの前に張り付いたまま、動かない。
「おーい、三橋、まだ?」
 呼びかけると、三橋は、はっとして涎をすする仕草をした。
「お、オレ、レモンシャーベット! あ、でも、オレンジも、いいな。あっ! ラムレーズン……」
 放っておけば、いつまででも目移りを続けそうだった。見かねたのか、阿部の後ろから栄口が声をかけた。
「三橋、ダブルにすれば二つ選べるよ」
「お、おおっ」
 二人の会話を聞いて、阿部が口を挟んだ。
「や、なんか、五個で六百円のやつがあるんじゃねえの?」
「えー?」
「五個!」
 三橋は目を輝かせ、栄口は店内をぐるりと見回した。
「あ、ほんとだ。サービスデーは、五個で六百円って書いてある」
「おー、だろ」
「でも阿部。それさ、今日はダメだよ」
「え、なんで」
「今日サービスデーじゃないし、それにこれ、女性限定って書いてある」
阿部はすっかり混乱した。以前に榛名と来た時には、女性限定のサービスだという話は聞かなかった。榛名はどこをどう間違って見ても女性ではないし、勿論、阿部だって、自分が女に見えるとは思わない。それなら、一体どうしてだろうと考えていると、答えはあっさりと明かされた。
 店員の女性と目が合って、にっこり微笑まれた。その顔に、見覚えがあると思い出す。彼女は、阿部にだけ聞こえるように、今日は誰が誕生日なの、といたずらっぽい口調で尋ねた。
「え?」
 阿部は、予想もしなかった言葉に、ぽかんとしてしまう。
「ほんとはいけないんだけどね、誕生日だからお願いって言われて、この前はサービスしちゃった」
「誕生日……」
「さすがに、何度もってわけにはいかないから、今日は無理だけども」
 ごめんね、と困ったように笑う彼女に、阿部は、首を振った。
 アイスクリームを注文して、席に着いたあとも、阿部はぼんやりしていた。何にするか散々迷っていた三橋は、他のみんなとひと口ずつ交換することにして、なんとか自分の分を二種類選んだらしい。お互いのカップにスプーンを伸ばして、アイスクリームをつつき合う様子は、楽しそうに見えた。それを眺めていると、榛名が、あの時やかましく言っていたことが少し分かる気がした。
榛名は、誕生日だったのか。
それが分かれば、あの日の榛名のおかしな態度の全てに納得がいく。いつもと違う曜日に会うことにしたのも、おごってほしがったのも、機嫌がよかったのも、それが理由だったのだろう。
 どうして言わなかったんだ、と思い、榛名のことだから、当然阿部が知っていると思っていたのかもしれない、とも思った。どちらにしても、そうと分かっては、じっとはしていられなかった。
「わりー、オレ、用事思い出したから、先帰るわ」
 阿部は、バッグを肩にかけて立ち上がった。
「これ、やるよ」
 ほとんど手をつけていないアイスクリームを、三橋の前に置くと、周りからは、ずるいだの贔屓だのと声が上がった。
「るせーな。捕手が投手をヒイキすんのは、アタリマエ」
「それなら花井も沖も投手だ!」
「え、オレは別にいいよ」
「つうか、お前らそうやって、今度は俺らから分け前もらうつもりだろ?」
「とーぜん!」
「あーもー、適当に分けろよ。オレは帰んぞ」
 手を振って立ち去ろうとした阿部を、三橋が呼び止めた。
「あ、阿部くん! おかえし!」
 そう言って、自分のカップからひとさじ、アイスクリームを掬って差し出す。それを見た阿部は、口の中で舌をぐるりと一周させた。混じりけのない、一色だけの味。
 迷ったのは少しだけで、阿部は身をかがめて、三橋が差し出したスプーンをぱくりと咥えた。レモンシャーベットだった。きりりとした果汁が口の中に広がり、それまでの味と混じり、溶け合っていく。
「サンキュ」
 阿部は笑った。それほど悪くはない味だった。頭の中で、榛名がそれみたことか、とふんぞり返る様がありありと思い浮かぶ。俺の言った通りだろうと、得意げに笑う榛名が早く見たくて、阿部は足を速めてその場を離れた。
作品名:メロヘロ 作家名:玉木 たまえ