NO.6集
ずっと願っていた
「やらなければならない仕事があるだろう」
そう言って、彼は別れを告げたのだった。
「そんなもの、誰かに・・・」
だって別にNO.6を破壊して新しい世界を作りたい訳ではなかった。
僕は、ただ、ただ君と一緒にいたいと思っていただけなのに。
「行かないでくれ、ネズミ。ぼくはきみの傍らにいたい。きみに傍にいてもらいたい。望んでいるのは、それだけだ!」
「不可能だ。・・・紫苑にはここでやるべきことがある。逃げるな。」
「きみのいない世界なんて、意味がない。ネズミ、なんの意味もないんだ!」
目からとめどなく流れるものを抑えられなかった。
泣いてない、女の子じゃあるまいし、と言いつつも、とめられなかった。するとネズミは優しく、だけれども熱く激しい口づけを僕にくれた。
「これは・・・・別れのキスか・・・?」
「誓いのキスだ。」
誓、い・・・。
「再会を必ず、紫苑。」
そうして微笑むと、彼は去って行った。僕はそれを見送るしかできなかった。
あれから、どれくらい経っただろうか。
この都市は、まだまだ破壊の爪後を残してはいるが、すこしずつ、立ち直ってきている。
当初は、再建委員会は、討論ばかりが続き、このままもう立ち直る事は難しいのだろうか、とも思わせられる状況であったが、ようやく少しずつ前に進んでいる。
彼が僕に託してくれたようなものだ。
僕は、そのためにも、いや、むしろ彼の為にと言い切りたいくらいの勢いで、がむしゃらにがんばった。
ようやく最近、ぼちぼちと休暇も取れるようになってきた。
今日は午前中のみ仕事をして、午後からは久しぶりに休み、今ではここと一緒になった場所、昔の西ブロックへ出向いて借りる家を探そうかと思っていた。
あの後、母さんとも無事再会を果たし、ずっとあのパン屋で一緒に暮らしてきた。
そのままずっとあそこにいてもいいなとは思っていたが、やはりもう成人したんだし、ずっと実家暮らしというのも・・・というのもあった。
それに。
僕はあの、少しの間であったが、彼と過ごした、あの場所が忘れられなかった。
今はもう、あの頃の面影はないであろうが、幸せだった、あの場所へ行きたい、とずっと思っていた。
それでもこの都市や、そして母さんが落ち着くまでは、と思っていた。
ずっと住みたい、と思っていた場所。ここからは少し遠くなるけれども・・・。
僕はようやく決心し、母さんに告げると、ニッコリ笑って賛成してくれた。
「さて、そろそろ終わろうかな。」
独りごちて、伸びをする。
そうしてもう癖になった事、そう、大きな窓に目をやった。
あの雨の夜、僕は彼に呼ばれたんだと思う。そして僕は彼を求めて窓を開けた。
あの出会いがなければ今の僕はない。
再会を、と言われたのち、最初の頃はすがるような思いでついつい窓を見ていた。
そして開け放っていた。
あの大きな窓を見ていたら、開け放っていたら、彼が現れないだろうか、と。
今はもう、そういった事は考えないが、それでもつい癖になっており、見てしまう。
・・・そう・・・、もう、考えてなどは、いなかった。
あの窓に、彼が、現れる、など、と。
「・・・ネ・・・ズミ・・・?」
僕は信じられない思いでフラリ、と立ちあがった。
太陽が・・・光が反射して、かすかな姿しか、見えない。
だけれども。
あの姿形は、もう何年も前から、ずっと心の底から見たいと、会いたいと、願ってやまなかったそれとほぼ変わらなかった。
フラフラと歩きだした僕は、もはや今は駈け出していた。
「ネズミ!?」
そうして窓を開ける。
そこにいるのは、あの頃よりはもう少しだけ、さらに背が伸びた、だけれども、ずっと心に描いてきたとおりの、彼・・・