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それはちょっとした悪戯

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ドラコは眉間にシワを寄せて、気持ち悪いものでも見るような瞳でハリーを見た。
かなりドン引きしたような表情だ。
(こいつはマゾか?殴られるのも、蹴られるのも好きなのか?―――もしかして変態?僕はありえないほど変なヤツを自分の恋人に選んだのか?)
引きつった顔になる。
(ここはひとつ、こいつのことをもっと深く考えなくてはいけない)とドラコは思った。

だけどもう汽車の振動がガタンときただけで、「……ううっ」と低くうめいて、一瞬ですぐ真っ青な顔に戻ってしまった。もう苦しくて何も考えられない。
「―――ああ。くそー……!」
悔しそうな顔で悪態をつきつつ、すぐハリーの胸元に倒れこむ。

「吐くー……、吐く―――。ハリー、助けろ……」
と呟き続けながら相手の腕の中で、ハアハアと苦しそうに身悶えた。

お互いが抱きしめあっているけど、出てくる言葉が
「愛している」と「吐きそう」だなんて、誰がが聞いたらいったい中で何しているのか、全く意味が分からないだろう。
いや当の本人たちですら、いったい洗面所で何しているのか、分かっていない状態だ。

「本当になんてドラコは素敵なんだ!」
自分の腕の中で盛大にあえいでいるドラコの姿に、完全に舞い上がっているハリーは思わず、心にずっとしまっていた思いがポロリと、口をついて出た。

「ああ、ドラコ。君はかわいすぎるっ!君は最高の僕の『子猫ちゃん』だっっっ!」
相手をぎゅうーーーーっと、力の限りに抱きしめた。

(くぅーっ、たまんないっ!)という表情で、ハリーは相手を抱えたまま、グルグルその場で回り始める。

ドラコは一瞬なにを言われたのか理解できなかった。
しかしハリーに抱かれたまま世界が回転し始めて、やっと我に返った。
信じられないセリフを聞き、顔がこれ以上はないほど真っ赤になる。

「ニャンだ―――、じゃない!なんだとーーー!なにが子猫ちゃんだ!!僕のどこが猫なんだ?!バカじゃないのか!!バカ、バカ、大バカ野郎!!!テメーは、とことん僕に、ぶちのめされたいみたいだなっ!覚悟しろっ!!!」」

今度は「ぶち殺す!」と「子猫ちゃん」という言葉が、部屋から漏れてきた。
もう何がなんだか……。
その言い合いはずっとホグワーツに到着するまで永遠と続いて、その間洗面所のドアは一度も開くことはなかった。



やっと駅着きそこから出てきたドラコの服は乱れに乱れて髪はぼさぼさになり、とてもこれがあの上品でクールビューティーと呼ばれているドラコ・マルフォイだとは思われないほどだ。
目は座りふて腐れた顔はこれ以上もないほど不機嫌で、やさぐれた態度でドアを蹴りつけて物にも八つ当たりして、肩で風を切ってその場を後にした。

残ったハリーの場合はもっと悲惨で、両ほほは赤く、耳まで腫れ上がっていた。
あの目印の額のイナズマの上には、もっと立派な爪あとが3本も入っている。
制服の片袖は破れかけているしネクタイはなくなっていて、最悪なことに眼鏡はひどく歪んでひびまで入っている始末だ。
彼の眼鏡は特注品なので、新しいのが届くまで1週間はこの壊れた眼鏡を使用しなければならないだろう。
きっとみんなは、ハリーの傷や眼鏡のことをいろいろ聞いてくるに違いない。
その応対だけでも、考えるとうんざりした。

ハリーは自分の浅はかさに、―――深く、深く、ため息をついたのだった。

もちろん新学期早々ハリーはドラコから絶交を言い渡されたのは、言うまでもないことだった――――。


        ■END■


*とても楽しそうな(?)痴話げんかストーリーです。
もちろんこの2話目の最大のテーマはハリーにドラコのことを「子猫ちゃん」と呼ばせることでした。
その野望が叶い、とても嬉しいです。
作品名:それはちょっとした悪戯 作家名:sabure