Surprise!
「昨日の夜、暑かったでしょう?」
「えっ?」
予想外のことを聞かれて、ベルゼブブは戸惑う。
佐隈は笑顔だ。
「お酒を飲んで、酔っぱらっていたせいもあって、身体が熱くて、ふたりそろって、暑い、暑い、って言って、着ている物を脱ぎだしたんです」
「え……」
「それで、着ている物を全部脱いでしまって、そのあと、眠かったので、ベッドに倒れこむようにして寝ました」
「じゃ、じゃあ、もしかして」
「はい。ベルゼブブさんが想像したようなことは一切ありませんでした」
明るく佐隈は告げた。
ベルゼブブは驚きで顔をゆがめ、凍りつく。
しかし、すぐに溶ける。
むしろ熱くなる。
頭に血がのぼっている。
「だましやがったなァァァ、このビチグソ女が!」
ピギャッシャァァと、ほえた。
だが、佐隈は平然としている。
「そんな、人聞きの悪い」
バラの花束を持っていないほうの左手を肩の高さまであげ、軽く左右に振った。
「だましたりなんかしていませんよ。ベルゼブブさんが勘違いしていただけです」
「……ッ」
たしかに、その通りだ。
勘違いしてプロポーズした自分が恥ずかしくて、顔を赤く染める。
佐隈はからかうような眼でベルゼブブを見ている。
「ベルゼブブさん、どうしますか?」
「……どうするって、なにをですか?」
「さっき言ったことを取り消しますか?」
真実が明らかにされた今、ベルゼブブが想像したようなことはなかったのだから、想像したことがあったとして言ったことを無かったことにするか。
そう問われているのだ。
ベルゼブブは答える。
「取り消しません。私は、その場しのぎの嘘をついたのではありませんからッ!」
ムッとしていた。
いい加減な気持ちでプロポーズしたわけではなかった。
勘違いが前提になっていたとはいえ、考えて決めて、そのうえで、したことである。
それに、好きだと言ったのも、これから先ずっと私の一番そばにいてほしいと言ったのも、嘘ではない。
本当にそう思っているからこそ、言ったのだ。
ただし、自分の言った内容を思い出すと、かなり恥ずかしい。
だから、今も、自分の顔は赤いだろう。
「そうですか」
佐隈はそう言うと、笑った。
おかしそうに。
嬉しそうに。
その顔を見ているうちに、ベルゼブブの中にあった腹立ちが消えていく。
「さくまさん」
結局、自分は。
佐隈のことが好きなのだ。
これまで意識していなかったが、今回の一件で、気づかされた。
ベルゼブブは手を佐隈のほうにやる。
そして、佐隈の左手をつかむと、自分のほうに引き寄せた。
「いつか、この手に、さっきの指輪をしていただきますからね」
そう告げると、その手に、その指に、その薬指のあたりに、そっとキスをした。