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竜ヶ峰帝人のドキドキした一日

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「お前の事が好きな女子がいるってさ、噂になってる」

昼休み終了間際、窓際の自分の席に着くとバシンと背中を叩かれて
「ちくしょー羨ましー!」と悔しがりながらも自分の席に着いた男子
クラスメイトからからそんな話を聞いた。なんでも同じ学年に僕に
好意を寄せている女の子がいるそうだ。生まれてこの方女の子と手を
握った事もなければ付き合った事もない僕に。以前
正臣は「帝人、お前実は結構もてるんだぞ、ファンが密かに
多いって噂」なんて馬鹿な事を言ってからかわれたけど。
僕も高校生男子。ドキドキしないわけがなかった。
「起立ー礼!」
先生が教室に入り授業開始の挨拶と共に立ち上がり号令をかける。
黒いコートを翻し不敵に笑う一人の男が脳裏を霞めた。

…、僕の、好きな人。
というか、気になっている人。

正直今日は賑やかな正臣が教室に現れなくてよかったと
胸を撫で下ろした。理由はわからないが今日は昼休みに
姿を見せなかった。あいつがいると話を大げさに持ち上げられてうるさい。
…どうせ放課後には正臣の耳に入ってからかわれるのは必須なんだから。
僕は教科書とノートを開いた。今は授業に集中しよう。

授業が終わり猛スピードで教室に姿を現した正臣は
やはり男子の間で流れた噂を耳にしていて自称経験豊富な
正臣からあれやこれやとためになるのか、ううん恐らく
聞き流してもいいレベルの恋愛マル秘テクニックを耳元で
言いつづけられ園原さんにはにこにこと「おめでとうございます」とか
言われてしまう始末。今日は正臣はバイト、園原さんも家の用事が
あるとかで早々に二人とも帰ってしまった。

真直ぐ家に帰るにもまだ外は明るい。一人時間を持て余していた僕は
池袋のサンシャイン60通りを歩いていた。平日にも関わらず多い
人混みは田舎から出てきた頃に比べれば今ではすっかり見慣れた日常の一部だ。
自然とカップルに目がいってしまう。なんだかドキドキするな。
妙に落ち着かない、噂の事を意識している証拠だ。

「みーかど君!」

後ろから声を掛けてきた爽やかな声に大きく心臓が飛び跳ねた。
まさかまさか、なんで。ゆっくりと振り返ると小さく手を振って
近づいてくるのは臨也さんだ。
「こんばんは。学校帰り?」
「は、はい、こ、こんばんは」
よりにもよってなんでこんなタイミングでこの人池袋にいるんだ。
「一人?珍しいね。いつも三人一緒なのに」
「そうですか?」
どうしよう。まともに臨也さんの顔が見れない。
目を合わして話ができない。目を合わせたら一気に
赤面してしまいそうで怖い。
「うん。昨日もこの辺三人でうろついてたでしょー?
見かけたんだけど声かけるタイミング悪くてね」
「え、えっとい、臨也さん…」
「なあに?」
変に緊張しているせいか言葉まで詰まってしまう。
いつもはもう少しまともにちゃんと話せるのに。
こんな所に居たら静雄さんに見つかりますよ
って、心の中で言ってどうする。
「どうしたの」
「へ!?」
し、しまった!上ずった変な声でた!
臨也さんも不審に感じたんだろう。笑みが消え
す、と両目を細めた。
「今日の帝人君は落ち着きがないね」
「あ…あ、あの…そ、その…」
「それに顔赤い」
それは貴方のせいなんです!
「熱でもあるんじゃない?」
臨也さんの顔が近づいてくる。そして、コツン、と額と額が当った。
「え…」
周囲が騒わめいた。だって、目の前には臨也さんの顔がある。
それはとてもとても近い距離。じわじわと顔に熱が集まってくる。
そ、と臨也さんの右手が僕の頬を包み込んだ。
「あ、益々顔赤いよ?」
さ、触られてる。顔、え。人の視線が、そのあの。
早鐘のごとく鳴り響く心臓の音。言われた通り
僕の顔は真っ赤に違いない。臨也さんは余裕たっぷりのいつもの笑顔だ。
くすくすとからかわれているようで少し癇に障ったけど
それよりもと、とにかく臨也さんから離れ───

ピロリーン。

携帯の写メ音。周囲の視線よりも熱い視線を感じる。もの凄く嫌な予感…
ぎぎぎと音が聞こえてきそうなほどぎこちなく首を動かした先に
飛び込んできたのは携帯をこちらに向けて、目をキラキラと輝かせている女性が一人いた。
それは僕のよく知っている人でその名は狩沢絵里華さん。僕は咄嗟に臨也さんから離れた。
「何何何いつの間に二人はそんな関係になったの!?ねえ!!」
狩沢さんは興奮しまくりで問いただしてくる。なんて事だ。寄りにも寄って
一番見られたくない人に目撃されるなんて…!横目で臨也さんをちらりと
見れば目が合ってしまい困ったように微笑まれた。
「ていうか二人はどういう関係なの?そもそも知り合いだったの?
全然接点ないと思っていたけど意外な組み合わせだわ…!」
「あ、あの狩沢さんその、僕達はその─」
次の瞬間臨也さんは僕の腰に素早く手を回し体を寄せてきた
ものだから驚いて体がビクンと震えてしまった。
「そうなの、俺達実はラブラブなの」
「い、いい臨也さん!??」
一体どういうつもりなのこの人!そんな事を言ったら益々
誤解が生まれて狩沢さんを喜ばせてしまうだけで…ほら、
狩沢さんの僕達を凝視しているが笑顔がとても怖いです。
「ち、違います!違いますからね!?僕達はそんな…!」
「酷いな、俺との一夜は遊びだったの?」
「な、ななな何もないです!嘘を吐かないで下さい!」
早く臨也さんから体を離そうと試みるがどういう訳か離れようとすれば引き寄せられて逃げられない。
気になっている人と突然こんなイベントが起きて僕の心臓がもの凄い
早さで動いていて、臨也さんにも聞こえてしまっているのではないかととても
はらはらする。なんで、どうして、こんな事に…!
「いい加減にしろお前達、純情な男子高校生をからかうな」
ため息交じりにパニックになりかけていた僕に
救いの声を掛けてくれたのは門田さんだった。
隣には遊馬崎さんもいる。途端に恥かしさが込み上げてきて
強引に臨也さんの腕を引っぺがそうとしたら逆に力を籠められて
強く引き寄せられてしまった。このままでは本当に心臓が持たない…!
「からかってなんかないよ。俺帝人君好きだし」
「な…な…ん!」
さらっと何人前で言ってるのこの人!
「イザイザの本命はミカプーだったと衝撃の新事実!あ、
二人とも動かないでそのままそのまま」
「ちょ、止めて下さい狩沢さん…!」
携帯を構えてさらに写真を撮ろうとしてくるものだから
泣きそうになるっ臨也さんも臨也さんで離れてくれないし!
「いやー、なかなか新宿の情報屋と高校生男子のカップルもいいわね
。イザイザと言えばシズ─」
「はいやめてね、流石の俺もそれ以上の言葉は聞きたくないな」
「だってやっぱりイザイザと言えばシズちゃんでしょ」
話を強引に進めた狩沢さんに臨也さんは心底嫌そうな顔をした。
彼女は気にもせずになにやらぶつぶつと受けとか攻めとか言っている。
「またそうやって知り合いをなんでもかんでもボーイズラブにするのは
よくないっすよ」
「こいつの妄想は今に始まった事じゃないが臨也も煽るなよ」
「煽ってないし本当の事だし」
「臨也さん!!」
「はいはい」
ようやく解放されて素早く臨也さんと距離を取って門田さんの