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竜ヶ峰帝人のドキドキした一日

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隣に逃げた。すると臨也さんにある違和感を感じた。
顔は笑っているがなんだか、変だ。機嫌が悪くなった…?
なんで臨也さんの機嫌が悪くなるんだ、僕が怒るならともかく訳がわからない。
「あーでもなんでミカプー?イザイザならより取り見取りでしょ」
「わかってないなー帝人君って凄く可愛いんだから」
「何を言い出すんですか突然!」
「照れてる照れてる」
気のせいだったのかな?先程感じた違和感は
綺麗になくなっていて臨也さんはくすくすと笑っていた。
「いい加減にして下さい!」
「えー」
「うん、確かにミカプーって可愛い系だよね」
「は!?」
「童顔だし瞳大きいし肌白いし細いし、可愛い」
狩沢さんは上から下まで僕を見るとうんうんと頷いた。
「ぼ、僕狩沢さんの目からそう思われてたんですか!?」
「うん。ミカプー可愛い」
「だめっすよ!男の子にそんな事言っちゃ」
「そうだよねー高校生だもんね、かっこいいの方が嬉しいと思うけど
お姉さんからしてみたらやっぱり可愛い系だよ君」
童顔だ中学生に間違われてショックはショックだが
ここまではっきり言われると流石に凹む。
「勿論それだけじゃないけどね彼の魅力は」
「と言うと?」
「それは俺だけの秘密」
「あら意外。イザイザって独占欲強いのね」
「そ。俺やきもち妬きだから」
なんて臨也さんにウインクされたが流石イケメン。無駄にかっこいい。
ていうかなにこれ、何この流れ。完全に遊ばれている。
今すぐ全速力で駆けだしたい。助け船を出したくて
門田さんと遊馬崎さんを見つめるも同情の眼差しが向けられる。
「だーめ、逃がしてあげない」
心の中を読まれたかと驚いて臨也さんの顔を見た。
彼は意地悪そうににやついている。
「ま、そう言う訳だから俺達もう行くね。これからデートなの」
「やるわねイザイザ」
「ち、違います!ち、ちがい…」
「そこまではっきり否定されちゃうと流石に凹むんだけど」
そう言って臨也さんが溜め息を吐かれて傷ついていますって顔されると
なんだか悪い事を言ってしまった気分になってしまう。
「え…」
「竜ヶ峰、臨也に気を許すな」
「はい。大丈夫です、よく言われます」
「ちょっと!ドタチン余計な事これ以上言わないでよ!
ていうか君達だってどこか行くつもりでこの辺うろついて
たんだろ?さっさとそうすればいいじゃないか」
苛立った物の発言をしている臨也さんはまるで僕が本当に好きみたいだ。
けれどその行動は段々疑わしく思える。いや十中八九そうなんだろうけど。
「あ、あの、僕はこれで失礼します」
「もう帰っちゃうの?どうせならイザイザに奢ってもらえばいいのに」
「そ、そう言う訳にはいきませんから、あの、失礼します!」
「え、待って帝人君!」
僕は小さくお辞儀をすると逃げるようにその場から去った。
後ろから僕を呼びとめる臨也さんの声が聞こえたけど無視だ無視。
ああもうなんであんな事になるんだ。絶対遊ばれた。
臨也さんと一緒に居て、狩沢さん達に遭遇したのは
なかなかない経験だったから少し楽しかったけれど
それとこれとは話が別だ。まだドキドキと高鳴っている。
「ねえ待っててば」
臨也さんは僕を追いかけてすぐに隣に来たけれど、
僕は顔を見る事もなく真直ぐと前を向いて歩き続けた。
「怒ってるの?」
「本当にいい性格していますよね臨也さん」
馬鹿みたいだ。一人で勝手にドキドキして
からかわれて、反応を楽しまれて。
「嘘じゃないよ、好きだって言葉」
腹が立つ事にたった二文字の言葉だけで簡単に僕の心は揺らいで
喜んでしまう。そんな気持ちを誤魔化すように歩みは早くなっていった。
「そうですね、ありがとうございます」
「……………」
がしりと右腕を掴まれて痛みが走った。
それ程強い力で掴まれたのだ。歩みは止まり
自然と臨也さんの方を見た。
「嘘じゃない」
ああまたそんな真剣な顔で、言うものだから
僕の心臓の鼓動はまた早くなってきた。
「は、離して下さい。痛いです」
「あ、ごめん」
「君だけが好きだ」と続いたら
女の子みたいに喜んでしまうんだろうな。
こんな事考えている時点で臨也さんが好きだって
益々自覚して凹む。早く家に帰りたい。
そんな気持ちで再び歩き始めて広い交差点に出れば信号は赤で
足は止まる。目の前を車が走り抜けていく。臨也さんも隣にいる。
ていうか何でこの人僕の後を追ってきたの。
放っておいてほしい。構わないでほしい。
そう思っているのに、なんだか心が落ち着かない。
「どうして付いてくるんですか」
「帝人君が心配だから」
どうして僕の心臓はこうも簡単にドキンと高鳴ってしまうんだ。
嬉しいとか………思ってしまう。
「ねえ本当に具合悪くない?」
「大丈夫です」
「だってさっきまで挙動不審で顔真っ赤だったのに」
「ええ、貴方のせいで」
しまった、と思ったが既に遅い。
「な、なんでもありません!」
声は上ずって焦ったものになった。
臨也さんはにやにやと意地の悪い顔をどうせ浮かべて─
「……………」
ると思っていたのだが現実は違った。何か考えてるのはわかる。
けれど笑っているわけでも驚いているわけでもない。臨也さんは
表情だけでは何を考えているか表に出さない人だから不思議に思った
けれど、ただじっと僕を見つめていた。目が合ってお互いに瞬きをして
ただ無言に時間だけが流れていく。
「臨也さん?」
「…送っていくよ」
信号が青に変わり彼は横断歩道を歩きだした。僕もそれに続く。
それはほんの数秒の事ですぐにまたにっこりと笑われた。
「家まで、ですか?」
「そう。君の家まで。ついでに言うと上がり込んでお喋りに
花を咲かせてもっと親しくなりたいなって目論んでる」
「僕と…仲良くなりたい、って思っているんですか?」
「うん」
あれこれと考えてしまうよりも今は素直に自分の
気持ちに従っておこうと思った。
「……ありがとうございます、嬉しいです」
小さな声だったけれどきちんと彼の耳に届いていたようで
臨也さんは驚いたようだがすぐに笑って見せた。


この時臨也さんは本当は凄くドキドキしていたそうだ。
僕だってドキドキしていた。どうやってアパートに帰ったのかさえ
思い出せない。あの時「貴方のせいです」と僕が言った時嬉しくて、
恥ずかしくて心の中で「反則だろ…ああくそやっぱり可愛い帝人君」
なんて考えていたと聞かされたのは付き合い始めて随分後の事だった。