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愛と友、その関係式 第25話第26話

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「ちゃんと言葉にして聞いときたかった。もう好きじゃないんなら、教えるなんて間抜けな真似したないし」
 はぁっと両肩を姫条は竦めた。それからコップに残ったコーヒーを一気に飲み干すと立ち上がる。
「さ。お兄さんの話はこれでおしまいやで。お疲れさんでしたー」
 パンパンと手を叩いて、未だに呆然としている鈴鹿を無理矢理立ち上がらせた。ぐいぐいと玄関まで背中を押すと、鈴鹿は不服そうな声をあげる。
「ま、待てよ。意味わかんねぇよ。つまり、どういうことだ?」
「それは」
 玄関の扉を開いて喚く鈴鹿を外へ出すと、姫条はにんまりと笑った。
「自分で考えることや。それか美奈子ちゃんにでも訊けばええ。――自分がいうたことやろ?」
 一年前のちょっとした意趣返し。
「ああ、あとな。悩む前にいうとくけど、俺がふられたんは和馬のせいやない。同じような立場が逆転したんや、それは自分が一番よう解っとるやろ」
「……お、おう?」
 鈴鹿はクエッションマークを浮かべつつもさしだされた靴を素直に受けとった。
「ほな」
 片手をあげて、ゆっくりと扉を閉める。姫条は耳を澄ました。
 鈴鹿はしばらく扉のまえで佇んでいたようだが、しばらくして遠ざかっていく足音が聞こえた。
 姫条はほっとして部屋へ戻ると、どかりと腰をおろした。
 鈴鹿ののみかけのミルクがまだ湯気をあげている。
「少し意地悪やったか。ま、サービスはせん約束やからな。これでがんばりや」
 姫条はくすりと小さく笑った。
 
◆◇◆◇◆

 ”美奈子に訊きやがれ!”
 ああ、確かにそれは一年前、鈴鹿が姫条へ向けた言葉だった。
 姫条の家を出て、しばらくは意味がわからず街中をゆっくりとした足取りで歩いていた。だが、時が経つにつれ次第に姫条の言葉の意味が溶けて思考に馴染んでくる。
 つまり、美奈子は姫条が好きではなくて――。それは夏からで――。
「……夏?」
 夏、という単語で連想したのはインターハイだ。
 ”だってよ……俺、姫条じゃねぇだろ”
 ”違うよ……。私だって紺野さんじゃない”
 どきりとした。重要な何かを見落としている気がする。
 ”小波がな――。推薦を断ったんだよ、バスケで勝てない相手ができたとかなんとか”
 ”違うの……そうじゃないよ。……そうじゃないの”
 動悸が早くなる。何かが自分をせかしている。
 わけが解らず焦燥感だけが湧きあがった。気づくと、勝手に足が走り出している。向かったのは美奈子の家だった。
 息が上がる。冬なのに身体が熱かった。ワイシャツが汗で張りついて気持ち悪い。だけど、足を止めなかった。
 ごちゃごちゃとする思考を振り払うように一心に足を動かした。
 美奈子に会えば、このごちゃごちゃとした思考も焦燥感もスッキリする気がした。
 あの角を曲がれば美奈子の家だ――。
 近づくにつれ速度を落とす、あがる息を落ち着けるために今度は静かに歩く。夜の住宅街はとても静かで、吐く息が実際よりも大きく聞こえた。
 ようやく辿りついた角を曲がろうとして、鈴鹿は立ち止まる。美奈子の自宅前にいる二つの人影が視界に入ってきたからだ。
 人影の一つは美奈子。もう一つは――。
 ”そんなの和馬も同じじゃない! 留学したら紺野さんと離れ離れになるんだよ。それに……天童くんは私の友達よ。変な目で見ないで”
 見覚えがあった。あれは校門前で見た美奈子の知り合いだ。名前は確か天童と言ったか。美奈子は天童を友達だと言っていた。が、しかし――鈴鹿の足はそれ以上動かなかった。
 美奈子と天童があまりにも楽しそうに話していたからだ。その姿に重なる影を見た。それは昔の姫条と美奈子、自分と美奈子である。急に怖くなって、鈴鹿は角に再び引っこんだ。どこかの家の塀に背を預ける。
 ”和馬には関係ないよ”
 言われたわけでもないのに、美奈子の声で再生されたそれが頭にこびりつく。
 もし、また美奈子の口から拒絶の言葉が飛び出したならば、もう友達でも知り合いでもなくなってしまう気がする。
 鈴鹿は一度だけ固く目を閉じてから再び瞼をこじ開けた。
 美奈子の自宅方向に背中をむけると、二人に気づかれないように静かに歩き出した。
 今は姫条の言葉の意味を確かめる勇気がない。
「だせぇ……、俺」
 呟きは聖夜の闇に人知れず紛れていった。

◆◇◆◇◆

 殴られた頬が痛む。それもそのはず奥歯の一つがやられた。
「――くそ」
 口内にたまった血を唾と共に吐き出して、真っ赤に染まった唇を手の甲で拭う。
 年の終わりだと街はこんなに浮かれているというのに自分のこの有様はなんだ。
「くそ、くそ、くそ!」
 ふつふつと熱くて真っ黒なものが腹の中を満たしていく感覚。
「駄目だ」
 こんなことに頭を支配されてはいけない。闇を払うように頭を振った。
 そういえばと、ついさっきすれ違った同い年ぐらいの男を思い出す。男は正装をしていて、何やら必死に走っていた。
 同い年の若い男が正装している姿は珍しく、たまたま覚えていたのだ。
「そうか、今夜は聖夜」
 立ち止まり、空を見上げる。
 せっかくの聖夜、なのに夜空は街のネオンに負けていて星の輝きなんぞ見えやしない。
「俺にはおあつらえ向きさ」
 ”アイツ”は自嘲気味に笑った。
 
第27話へ続く