あるべきところへ
「保護者が許したなら俺がとやかく言う問題じゃねえだろうが」
真新しい学ラン姿を頭のてっぺんからおろしたてのサッカーシューズを穿いたつま先まで見下ろして突き放すように言い放った。
鎌倉学館中等部はブレザーだったので学ランは初めてだった。
ブレザーよりは大人っぽく見えないでもないが、少し大きめのものを買ったようで制服に着られているという言葉がよく似合う。
「保護者って、別に兄ちゃんはそんなんじゃないんですって」
何度言ったって傑の扱いは駆の保護者だ。駆が否定しても納得してもらえない。駆としては過保護な時期はとっくに終わって、今はだいぶ放任状態だと思うのだが。
高校の入試前から今まで何度も説得を繰り返しているのに瑛の態度はずっとこうだ。
年明け前のような厳しい態度こそ取られないものの、素直に応援してくれる様子はちっともない。まだ反対されているのかと思うと寂しくもなる。
「ハァ……鷹匠さんも兄ちゃんも頭ごなしに怒るところ、似てますよね」
「あんなブラコンと一緒にすんな!」
拗ねてぼやけば心底嫌そうな顔をされた。
散々な言われようが面白くってついつい噴きだしてしまう。
「チッ。もう行けよ。ボヤボヤしてると傑に見つかるぞ」
駆が通うのが鎌倉ではなく江ノ島になった以外、去年と同じ春だった。桜が自転車の通り抜ける道を彩り、少し暖かくなった夜にはときどき瑛が練習に付き合ってくれる。
そう。進路を応援してくれないものの、連絡をすれば余裕のあるときには以前のように会ってくれた。
その事自体が応援してくれているしるしなのではないかと都合のいいことも考えてしまう。
「それじゃ、行ってきます!」
朝練前で運動部がまばらに登校する鎌倉学館前を出発した。春休みから江ノ島FCの練習に合流していて、新入生勧誘のために練習がない今朝もミーティング参加することになっていた。
ヒラリと手を振ると面倒くさそうに片手を上げて見送ってくれる。
色があるならきっとパステルカラーのピンク色をした暖かな風が自転車の背中を押した。