女神の祝福
玄関を出て、エレベーターに乗ろうとしたが、自分のいる階に来るまでの時間が惜しく、階段を駆け降りた。降りつつ、携帯電話で南沢に電話をかける。たったの三コールだったが、それもひどくもどかしかった。
『もしもし?』
「悪ぃ、いまからちょっと会えないか? てか、俺の家に来てくれ」
突然の申し出に、予想通りの不機嫌な声が返ってきた。
『は? 俺、明日早いって言っただろ。それにもう風呂入ったし嫌だよ』
「大事な話があるんだ」
さすがの南沢も様子の違う三国に感づいたのか、渋々了承した。
『今度、焼肉奢れよ』
「ああ、なんでも奢ってやるよ。いまから自転車で迎えに行くから」
電話を切って、自転車に飛び乗る。自宅から南沢の家までは自転車で約二十分。思い切り飛ばせば、十五分とかからないだろう。
ペダルに思い切り全体重を乗せて自転車を走らせる。南沢に会ったらまず何を言おう。きっととても不機嫌そうな顔をして待っているだろう。
(ごめんって謝って、抱きしめて、それから、)
雲ひとつない夜空には星の海が広がり、三国にはそれがまるで自分たちを祝福してくれているように輝いて見えた。