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【空折←砂】オペラ座の怪人パロ 1

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今日もいつもと同じように他のヒーローたちとトレーニングを終え、イワンは帰路についていた。
普段はキースがわざわざ自宅まで送ってくれるのだが、今日はどうしても行かなければならない取材があるから、とキースは先に帰宅している。
イワンはゆっくりと歩きながら、申し訳なさそうに何度も謝罪を繰り返していたキースを思い出し、嬉しそうに微笑んでいた。
僕なら大丈夫ですよ、キースさん。とそれを見送ったイワンの言葉に、嘘はない。
イワンもヒーローの一員なのだ。自分の身くらいは自分で守れる。まして、自分は女の子でもないのだし、イワンは常々そう思っていた。
それでもキースの優しさに甘えていたのは、イワン自身がそうされることに優越感を感じ、そしてキースと少しでも同じ時間を共有できることが嬉しかったからだ。
けれど今日は、その彼がいない。仕方のないことだと分かっていても、どこか寂しく思ってしまう。


「……久しぶりだな、イワン。」


イワンが考え事をしながらぼんやりと歩いていると、突如目の前に現れた人影に声を掛けられる。
一瞬反応が送れたイワンは、それでも得体の知れない声の主に気を引き締め、とっさに戦闘体制をとった。
じとり、と嫌な汗が流れて、どくりどくりと心拍数が上がっていく。
そして、目の前の人物が誰なのかを把握すると、途端にイワンの周りの張り詰めていた空気はゆるりと消え去った。


「…エド、ワード…?」


呆然とした様子のイワンがぽつりとそう呟くと、それに反応するように目の前のエドワードはにこりと笑う。
イワンがエドワードを視界にとらえたままぴくりとも動けずにいると、エドワードはイワンの腕をそっと掴んだ。
そうして、またエドワードはイワンにふわりと笑いかける。言葉は何も発しない。
一方、イワンはただ、刑務所にいるはずのエドワードがどうしてここにいるのだろうかと、そればかりを考えていた。
しばらくそうして二人は見詰め合った後、エドワードがゆるりとイワンの腕を引く。
不思議に思いながらも、イワンはその腕を引かれるままにエドワードの後ろをついて行った。
エドワードはイワンの従順な様にニヤリと笑みを浮かべ、そうして一瞬ぴたりと止まり、ゆっくりと振り返る。


「…イワン、ついておいで、」


にこり、と笑うエドワードの表情は優しく柔らかなものだったが、その瞳は鋭くイワンを見つめていた。
その目は不思議な力を宿しているようで、その瞳に見つめられたイワンはどこか恍惚とした表情を浮かべ、その問い掛けにゆっくりと頷く。
この時、イワンの思考は甘く痺れ、エドワードの声に彼はその全てを支配されているような感覚に陥っていた。
しばらくそうしてエドワードに腕を引かれるまま歩いていると、いつの間にか自分の見知らぬ場所を歩いていることにイワンは気付く。
エドワード、と遠慮がちにイワンは声を掛け、僕をどこへ連れて行くつもりなの、と弱々しく続けた。
しかしエドワードは歩みを止めようとはしない。彼はただ柔らかくイワンに笑いかけるばかりで、無駄なことは一切口にしようとしなかった。
イワンは諦めて、おとなしくエドワードの後ろをついて行く。


「ここ、は…?」
「今はここに住んでるんだ。」


イワンが連れて来られたのは、どこかの廃墟らしき場所だった。
あちこちがボロボロで、壁や天井にはところどころ隙間があいている。とても、人が住めるような場所ではない。
そのことから察しても、やはり彼は逃げ出してきたのだろう、とイワンは思った。
彼は、自分のせいでヒーローになる道を断たれ、そして今は刑務所という名の牢獄に閉じ込められている。
けれど、イワンがヒーローである以上、町の平和のために犯罪者を捕まえることは、彼の義務なのだ。
イワンはきちんとそのことを理解していた。当然、エドワードもそれくらいは分かっているはずだ。
そこまで考えて、でも、とイワンは思う。


「ねぇ…エドワード、僕らは、親友…だよね…?」


ぎゅう、と震える指先を握り締め、イワンはそっと問いかけた。
イワンは、エドワードへの罪悪感でいっぱいだった。自分のせいでエドワードの人生を潰してしまった、イワンはそう思い込んでいる。
周りから見ればそれは事実とは異なるのだが、イワンの中ではそれが正しく、彼とエドワードのすべてだった。
辺りはシンと静まり返り、隙間から差し込んでくる月明かりだけが真っ暗な闇の中を照らしている。
そのせいで、イワンにはエドワードがどんな表情を浮かべているのか分からなかった。
彼を捕まえなければならない、という思いと、彼は自分の親友である、という思いに苛められ、イワンはうるうるとその瞳に涙を浮かべる。
イワンの問い掛けに対し、ぱちぱちとエドワードは何度か瞬きをすると、小さく笑った後ため息をつき、もったいぶる様に口を開いた。


「…当たり前だろ?イワン、」


にこり、とエドワードは優しく笑って、そっとイワンに歩み寄る。そして、イワンの白く透き通るような肌にゆるりと触れた。
エドワードの指先は、愛しいものにようやく触れることが出来た喜びに微かに震えている。
イワンも自分の頬に触れるエドワードの指先がカタカタと震えていることに気付き、エドワード?と不思議そうに声を漏らした。
そうして、エドワードはそっとイワンの頬から手を離すと、何でもない、とイワンに自分の浮かべる表情が見えないように顔を背ける。
イワンの頬を離れた後も、エドワードの指先はまだ小さく震えたままだった。


「…さぁ、イワン。疲れただろ?今日はもう寝よう、」
「え…?でも、」
「大丈夫、ほら。」


イワンは困惑し、辺りを軽く見渡した。
突然知らない場所に連れて来られ、こんなボロボロの廃墟で眠るなんて…、とイワンは躊躇する。
それを察したエドワードがゆっくりとイワンを抱きしめると、二人は途端に青い光に包まれた。
エドワードがNEXTの能力を発動させ、エドワードとイワンの体はたちまち床をすり抜けていく。
イワンはびくりと体を震わせ、ぎゅう、とエドワードにしがみ付いた。
能力の発動中、エドワードの体から離れてしまったり、彼の意思次第にそぐわなければイワンは地中に取り残されてしまうことも有り得るのだ。
イワンは祈るように目を閉じ、次に彼が目を開くと、そこに見えたのは豪華な地下室のようだった。
そこには大きな鏡がいくつもあり、高級そうな家具の類が無造作にごろごろと置かれている。
真ん中には綺麗に整えられたベッドが置いてあり、そのすぐ傍にはソファと小さなオルゴールのようなものが置かれていた。
いったいこれは何だろう、とイワンが瞬きを繰り返していると、エドワードがそっとイワンの腕を取り、ベッドの方へとイワンを導く。


「エドワード…これは、」
「だから言っただろ?今は、ここに住んでる、って。」


エドワードの有無を言わさないような微笑みに、イワンは思わずひくりと喉を鳴らす。
彼は、いったいどうしてしまったのだろう。まるで自分の知っているエドワードではないみたいだ。
イワンはここへ連れて来られてから、ずっと不安に包まれていた。
今のイワンには、エドワードが何を考えているのか分からない。