二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

【空折←砂】オペラ座の怪人パロ 2

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 


イワンが目を覚ました時、耳元で聞き覚えのないオルゴールが鳴っていた。
不思議に思ったイワンはぼんやりと音のする方へと視線を彷徨わせ、オルゴールを見つけるとしばらくじっとそれを見つめる。
そしてふと天井に目を向けると、イワンは思った。ここは一体どこだろうか、と。
いつもなら自分の部屋かキースの部屋で目覚めるはずが、今日は視界に入る景色がまったく違っている。
イワンはエドワードに連れてこられた地下室を見覚えのない部屋だと認識し、自分がいる場所を理解していなかった。
彼が目覚めた時すでに朝日は昇っている時刻だったが、この地下室は日の光を遮断していて、ほとんど夜のようなほの暗さを保ち、あちこちに置かれた蝋燭だけが頼りなさげにちらちらと揺れている。
イワンがゆっくりとベッドから体を起こすと、彼の目は視界の端にぼんやりと動く人影を捉えた。
そして、何の違和感もなく、イワンはいつものように甘えた声で自分の恋人の名前を呼ぶ。


「…キース、さん?」


その瞬間、エドワードはぴたりと動きを止めた。イワンはまだ、それがエドワードであることには気付かない。
まだ眠いらしく、ふぁあと大きなあくびをして、どうしたんですかキースさん、ともう一度イワンは呼びかけた。
エドワードは今度こそ心臓をがしりと掴まれたような衝撃を受け、ぶるぶると指先を震わせる。
今、イワンは何と言っただろうか、キースとは一体何者なのか、イワンとどういった関係だろうか、そんなことばかりがエドワードの思考を支配していく。


「…イワン、そのキースっていうのは、一体誰なんだ…?」


ひやりと張り詰めた声で、エドワードが尋ねる。
彼の頭の中はすでに沸々とこみ上げてくる怒りでいっぱいで、完全に自分を見失っていた。
そこでようやく、イワンもその人影が自らの恋人であるキースではなく、昨晩偶然にも再会したエドワードであるということに気付く。
それと同時になぜ自分がここに居るのか、そしてここがどこであるかも思い出し、イワンは不安そうな面持ちを浮かべた。
そうして、理由は分からないけれど、エドワードは自分に怒っている、という事実だけは理解する。
ごくり、とイワンが唾を飲み込むと、エドワードはゆっくりと振り返って怯えるイワンをじっと見つめた。


「お前、そいつと付き合ってるのか…?」


エドワードの声はどこまでも凛としていて、けれど奥底に言い表しようのない憎悪を含んでいる。
その嫌な空気はあっという間に地下室全体に広がって、イワンの体中をエドワードの怒気が包んでいた。
ぷるぷると小動物のように怯えるイワンを、エドワードは真っすぐに睨み付けている。
その目はゆるやかな弧を描いていたが、決してその表情が笑っているわけではない。
その表情はどこか異様で、エドワードの思考は狂気じみていた。怒りにぶるぶると体中を震わせたエドワードが、イワンに迫る。


「……エ…ド、」
「…さぁ、答えろよ、イワン。」


どうなんだ?そう詰め寄るエドワードは、先程の冷たく凍るような表情よりも笑顔を浮かべてはいるものの、隠し切れていない憎悪や殺気でピリピリと空気が震えていた。
イワンは、何も答えない。否、答えられないのだ。
昨日まであんなに優しく自分に微笑みかけてくれたエドワードが、目を覚ましたら豹変していた。イワンはそう思っている。
だからエドワードがどうしてここまで憤怒しているのか、イワンにはどうしても理解できなかった。
イワンが何も言わないことに痺れを切らし、エドワードはじり、じり、とイワンに近づいて、もう一度同じセリフを繰り返す。
それは地の底を這うようなぞくりとする声色で、イワンが慌ててコクリと頷き肯定すると、エドワードはぴたりと歩みを止めた。
そうして、そのまま彼は一切の表情が失われた顔で、微動だにしないままひたすら一点を見つめている。


「エド、ワード…?」


黙って立ち尽くしているエドワードを不審に思い、イワンがおずおずと声を掛けると、エドワードはピクリと肩を震わせた。
それから彼はゆっくりと顔を上げ、驚くほど冷たい視線でイワンを射抜く。
そうして、イワンがエドワードの言葉の意味を理解できずに目だけでうろたえていると、彼はそれが可笑しかったのか、突然笑い声を響かせ始めた。
その声は徐々に徐々に声量を増していき、まるで気が狂ってしまったんじゃないかと思う程、エドワードの笑い方は異常なものになっていく。
イワンはその様を見つめ、ガタガタと震えていた。そして、震えを誤魔化すように、体に掛けられていたシーツをぎゅうと握り締める。
どうしよう、どうすれば、僕は、彼に何を言えばいいのだろう。
イワンはぐるぐると思考を巡らせるが、彼の口からエドワードに向けた言葉は何一つ出てはこなかった。
エドワードは乾いた笑いを地下室中に響かせながら、ばさりばさりと辺りに散らばっている布切れを散らかしていく。


「…呪われろ、」


ぽつり、とエドワードは口にする。あまりにもそれは小さな囁きで、イワンはそれを聞き取ることが出来なかった。
しかし、だからと言って彼にはそれを聞き返す勇気もない。
しばらく沈黙が続いていたが、またエドワードがぽつりと言葉を発し、今度は何度も何度も同じ言葉を繰り返す。
それはイワンだけに向けられた罵倒の言葉で、イワンは瞬きも忘れ、呆然と浴びせられるその言葉を聞いていた。


「呪われろ…っ…呪われろイワン…!お前は、俺の…、」


エドワードはそこまで早口に捲くし立てていたが、突然我に返ったようにはっとした表情を浮かべた。
うるうると目にいっぱい涙を溜めたイワンが、エドワードを真っ直ぐに見つめていたのだ。
すると、エドワードは困惑した様子で意味のない言葉をいくつか呟き、先程までの冷たい表情が嘘のように、イワンが体を預けているベッドの傍へと静かに跪く。
そのまま俯いたエドワードにイワンは不審な表情を浮かべたが、その表情が柔らかなものになっていることに気付き、イワンも少しだけ表情を緩めた。
そうして、イワンは親友としてエドワードに触れようとして、そろりそろりと腕を伸ばす。
もう少しでその指先がエドワードに触れる、というところで、イワンの腕につけられているPDAが鳴り響き、彼への出動要請を告げた。


「…あ、」
「っ行こう…みんなが、きっとイワンを探してる。」


PDAを確認した後、ちらりとエドワードの様子を伺ったイワンに、エドワードは淡々とそう告げた。
そのエドワードの言葉に、僕を監禁しようと思って連れて来たわけじゃないんだな、とイワンはホッと胸を撫で下ろす。
連れられた時と同じようにそっと腕を掴まれ、エドワードの能力でするりと天井をすり抜けると、ようやくイワンはしっかりと地面を踏み締めた。
地下室にいた時とは違い、屋内ではあるが明るく日の光が差し込んできている。
ずっと闇の中にいたイワンは眩しそうに目を細め、しかしヒーローとしての義務を果たすべく、早く現場に向かわなくては、と焦っていた。
そんなイワンを見つめ、エドワードは少し寂しそうな表情を浮かべている。
このまま帰してしまったら、イワンは日常へと戻ってしまう。エドワードはますます表情を曇らせた。