Shadow of HERO
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「怒らせちまったか。」
去って行く後ろ姿を見つめながら、女性―――鏑木・T・虎徹は呟いた。
どうやら己の考えは、あまり彼の気に入るものではなかったようだ。
無理ないか、と思う。人のために、という考えだけじゃ職業として成り立たせるのは難しい。
それでも、バーナビーにはそうであってほしいと思う。
「俺の変わりに頑張ってほしいんだけどなぁ…。」
実は虎徹もバーナビーと同じ能力を持ったNEXTだ。そして幼い頃からヒーローに憧れていた。しかし当時ヒーローはNEXT限定だろうと男性職。女である虎徹はどこにも受け入れてもらえなかった。―――ある1ヵ所を除いて。
虎徹が手首に付けているPDAが着信を告げる。
「はい。」
『仕事だ。時間は今夜0時、場所は―――』
「―――了解です。」
『しくじるんじゃないぞ、ワイルドタイガー。』
「分かってますよ。」
虎徹の能力は有用性があり、女性だからと捨てるには惜しまれるものだった。そのため秘密裏に考案されていた、NEXTだが諸々の事情でメディアに晒したくない犯罪者を捕らえる影のヒーローに引き抜かれたのだ。表立って動くことはないため名声も何もないのだが、虎徹はそれを受け入れた。直接感謝されなくたって、街が平和で皆が笑顔ならそれでいいと思っている。とはいうものの、ヒーローとして堂々としてみたかったなという気持ちだってある。
だから身勝手だが同じ能力のバーナビーにそうなってほしいのだ、彼がヒーローになった理由に察しが付いているとしても。
(あっち側はお前には似合わない。そっちは頼んだから、こっちは任せとけって。)
本当に身勝手だなと思いながら、夜に備えて休息を取るべく虎徹も歩き出した。
作品名:Shadow of HERO 作家名:クラウン