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Shadow of HERO 3

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夜のバーで飲む避けというのは、安酒であってもどこか美味に感じるものだ。虎徹は家で大量の避けを一気に飲むのが常だが、こういう静かな場所でしっとりとした飲み方をするのも気に入っている。特に胸にしこりがある今のような時は、この方が落ち着く。
そうして酒の味に浸っていると、隣の席に2人腰かけた。

「よぉ、お前をここで見かけるのは久しぶりだな。」
「なんだ、アントニオとネイサンか。久しぶり。」
「ご無沙汰してるわね、タイバー。」
「ネイサン『タイガー』は止めてくれって。」
「あら、あんたの名前にはトラを指す字が入ってるんでしょ?タイガーじゃない。」
「…あーもーったく、そうですね!」

アントニオとネイサンは現役のヒーローだ。アントニオは「肉体硬化」を持つNEXTのロックバイソインで十代からの親友、ネイサンは炎を操るNEXTのファイヤーエンブレムでアントニオを通して知り合った。どちらも虎徹の仕事を知っている。アントニオは自分から教えたからいいとして、食えないのはネイサンだ。ワイルドタイガーの仕事には裏で犯罪者を捕まえることの他に、ヒーローが円滑に活躍できるよう陰ながらサポートすることも含まれているのだが、ネイサンは素顔で数回会っただけで虎徹がそれをやっていると気付いてしまった。聞けば以前から誰かの介入には気付いていたらしい。

『大逆転なってそう何回もあるわけないのに、毎回あるなんておかしいじゃない。それとあなたの体付き、ちょっとした肉体労働で鍛えたものじゃないわよね。オカマを舐めちゃ駄目よ。』

さすが企業家と言うべきなのか、観察力には舌を巻いた。肯定しただけでヒーロー名は言ってないのだが、現在のあだ名からして大体は知っているのだろう。

「マスター焼酎もう一杯!」
「お客さん、もうかなり飲んでるけど大丈夫かい?」
「平気平気、こんなの序の口だって!」
「虎徹、お前それ何杯目だ?」
「んー…忘れた。」

バーの主人とアントニオが心配そうに己を見るが、構わずグラスに口を付ける。まだまだ頭ははっきりしているし、文句は言わせない。

「ったく…何かあったのか?お前がそういうチマチマとした飲み方してる時は、考え事してる時だろ。」

鋭いな、と思う。しんみりとした態度を見せた覚えはないのに、アントニオは妙に的を射たことを言ってくる。それに首を横に振ろうとしたのだが………ふと、少しだけ吐きだしたい気分になってしまった。もしかしたら自覚している以上に酒が回っているのかもしれない。

「なんかさー、必死に追っかけてる相手がどこにいるか知ってるのに教えらんないのって複雑だなーと思ってよ。」
「それは…」
「………」
「そのせいで今までの人生棒に振るわせたのかと思うと、なんかな。」

全く、らしくない。これじゃあ今やってることを後悔してるみたいではないか、情けないことこの上ない。けれどバーナビーと話をした後では、全て胸にしまっておくのに耐えられなかったのだ。お前の追っている人物は逮捕された、だからもっと人生を楽しめと言ってやりたいのに、立場がそれを許さない。そのせいであんな荒んだ性格になってしまったのかと思うと胸が詰まる。秘密裏だったため犯人の逮捕が耳に入らず、いつまでも心の傷が癒えない被害者を見たのは初めてではない
といのに割り切れない。

「マスターもう一杯ー。」

バーの主人は渋ったが、2人が止めることはなかった。


Shadow of HERO 3


「悪いねー、送ってもらっちまって。」
「まったく、もう。」

ゆっくり飲もうが量を飲めばアルコールは響くものだ。結局真っ直ぐ歩けなくなるまで飲んでしまい、ネイサンに送ってもらうことになった。こうなることを見越してソフトドリンクを飲んでいたらしい、申し訳なくなる。
最後まで送ってもらわず、家まであと数十メートルという所で止めてもらった。

「いいの?家まで1分と掛からないのに。」
「おう、少し夜風に当たりたいからな。」
「家に入るまで見ててあげるわ。どんなに近くても夜中は油断禁物よ。」

彼女(?)の配慮には敵わない。正直、自分のようなオバサンを襲う男なんていないと思ったが、断っても実行しそうであるし素直に受け入れることにした。
別れを告げて、家へ歩き出す。何かあるわけないと思っていたが、家まであと数歩といったところでゾワリと鳥肌が立った。ほとんど反射的に後ろへ飛び退く。道路に青い炎がぶつかり、近くに落ちていた木の葉が一瞬で真っ黒になったため息を呑んだ。

「誰だ!?」
「我が名はルナティック。」
「上か!」
「ちょっと、大丈夫!?」

見ていたのだろう、ネイサンが駆け寄ってきた。虎徹は声のした方を見上げる。月光に照らされたその人物は、ヒーロース−ツのようなものを着て顔を隠していた。

「私はお前のやり方を認めない。」
「うおっ!」

また炎が飛んでくる。それを上手くかわしたのだが、間を入れず三度攻撃された。今度はネイサンが能力で対抗する。ネイサンの炎なら攻撃を打ち消すどころか向こうにダメージを与えられると思ったのだが―――それはならず、炎は相殺された。

「私の炎と互角!?」
「マジかよ…!」

呆然としていると、また声が掛けられる。

「私は、影でありながら犯人を生かそうとするお前を認めない。」
「!!?」
「あいつ、なんでタイガーのことを…!?」

事態が把握できるにいる中、ルナティックと名乗るNEXTは立ち去ってしまった。しばらくの間、2人して道路の真ん中に立ちすくむ。先に思考が働くようになったのは虎徹の方だった。

「…最近、犯罪者が真っ黒に焼かれて発見されるって事件が起きてる。」
「…知っているわ。公にはされてないけれど、私の能力は炎だから疑われた。」
「もしかして、あいつが…?」

ネイサンの炎と同等の実力にあの考え方……彼が野放しにされていることに脅威を感じた。


作品名:Shadow of HERO 3 作家名:クラウン