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【シンジャ】鳥籠の番人【C80サンプル】

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 彼の事を自分が初対面の相手として扱った為、自分が記憶喪失なのだと彼は思ったのだろう。初体面であるのだから初体面として扱うのは当然である。こちらを全く見ようとせずシンドバッドの後ろに立っているシャルルカンに対してそう思っていると、営業用の女将の声が聞こえて来た。
「昨日、うちの店に八人将のシャルルカン様が遊びに来て下さっていたんですか! その事を知っていれば、手厚く持て成したというのに」
「ははは。その必用ありませんよ。ここに来ていたのは私用ですから」
 柔やかな笑みを浮かべてそう言っていたが、話しを逸らすなという事を内心では彼が思っているのだという事が分かった。
 分かり易い。元々相手の考えをくみ取るのは得意であったのだが、シンドバッドの考えている事を読み取るのはそんな風に思ってしまう程に容易かった。それは、考えている事を彼があからさまに態度へと出していたからでは無い。それどころか、上手く自分の感情を彼は隠していた。それにも拘わらず、彼の考えている事が手に取るようにして分かってしまった。
「少し彼に質問をしても構わないでしょうか?」
「ええ……。どうぞ……」
 本当はそれに対して許可を出したく無かったのだろう。そう言った女将の顔には引きつった笑顔が浮かんでいた。
「何故ジャーファルという名前を使っているんだい?」
「それは……」
 何故ジャーファルという名前を自分が使っているのかという事を正直に答えて良いのかという事を自分では判断する事が出来ず、軽く視線を女将の方へと向けた。女将が自分にどうして欲しいのかという事で答えを決めるつもりであった。そんな自分の視線に気が付いた彼女が仕方が無いという顔になったので、シンドバッドの質問に対して本当の事を言う事にした。
「記憶喪失だった私を拾って下さり、居場所だけで無く仕事まで与えて下さった女将が付けて下さったからです」
 女将の印象を良い物にする為、彼女の印象が良くなる言葉を織り交ぜながら言うと、小さくシンドバッドは首を縦に振った。
「そうか。主、何故彼にジャーファルという名前を付けたんですか?」
「ジャーファル様といえばこの国で有名なお方。その方にあやかってその名前を付けただけです」
 その台詞からジャーファルというのが、この国で有名な存在である事が分かった。
 自分は女将が言っているジャーファルという人間を知らないようだ。記憶を失う前に知っていた相手の事は、名前を聞いたり顔を見たりすれば思い出す事が出来たのだが、ジャーファルという人物の事は全く記憶の中に無かった。
「……そうですか」
「それ以外に理由などありません。シンドバッド王が捜しているジャーファルと彼は間違い無く別人です。それではそろそろ私は店の奥へと戻らせて頂きます」
 後の事は任せるという顔でこちらを見た後、女将はそそくさと店の奥へと戻っていった。そんな女将の行動に靄のような物を胸に感じたのだが、何故そんな物を胸に感じてしまったのかという事を考える事はしなかった。
 命の恩人である相手を疑うのは最も恥じるべき行為である。
「今女将が言ったように、シンドバッド王が捜されている方と私は別人です」
「まだそんな事を言っているのか。記憶を失っている為覚えていないだけでお前はジャーファルだ。一緒に王宮へ戻ろう」
「別人である私を連れて行っても何にもなりませんよ。この店で遊んで行かれないのでしたら、そろそろお引き取り頂けませんか? シンドバッド王が立ち寄って下さるのは二度と無い幸運ですが、このままですと他のお客さまが店に入る事ができませんから」
 二度と無い幸運と言ったのは、二度と彼と会うつもりが無いからである。笑顔を浮かべながらも、内心早く帰ってくれという事を思っていると、苦々しい顔をしながらシンドバッドが溜息を吐いた。日に何度も溜息を彼が吐くなど珍しい。そう溜息を吐いた彼の姿を見て思ったのだが、何故そんな事を知っているのかという事を疑問に思う事は無かった。
「分かった。今日は諦めよう。また明日来る」
「今度ご来店される時は、是非うちの店で遊んで行って下さい。決して高級店ではありませんが、必ずシンドバッド王をご満足させる事ができます」
 明日来るという言葉に引っ掛かりを感じながらも、漸く諦めて帰ってくれる事になったシンドバッドへと向かって笑顔でそう言うと、先程から渋い顔へとなったままとなっている彼は供と共に店を後にした。


 自分と同じ名前をしているだけで無く、自分とよく似た顔をしているらしい彼は何者なのだろうか。そう思いながら、シンドバッドが帰った事によって動き出した店のなかで自分の仕事をこなしていった。

(本編に続く)