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【シンジャ】鳥籠の番人【C80サンプル】

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 何故自分と同じ名前をしているだけで無く、自分とよく似た顔をしているのだろうか。
 彼らが言っているジャーファルという人間がどんな人間なのかという事が気にならない筈が無かった。しかし、どんな人間であるのかという事を調べるつもりは無かった。それは、彼と自分は全く関係の無い人間である事は間違いない事であるからだ。
「本当に記憶を無くしているんだな。皆お前の帰りを待っている。王宮に戻ろう。王宮に戻って医者と魔導士に診て貰おう。そうすれば記憶が戻るかもしれん」
 シンドバッドのその言葉を聞き、何か面白い事でもあったかのようにくすくすと笑うと、真面目な顔でこちらを見ていた彼が急に怪訝な顔へとなった。
「何がおかしい?」
「いえ、シンドバッド王まで勘違いをされているので。残念ですが、私はシンドバッド王が捜している人物ではありません」
 自分の台詞を素直に彼が聞き入れてくれるとは思っていない。昨日のシャルルカンのように、彼も自分の言葉を信じる事は無いだろう。
 シャルルカンのように自分を無理やり王宮へと連れて行こうと彼がした時、どう対処するべきなのかという事を考えていく。シャルルカンに対して取ったような行動を、王であるシンドバッドに取る事は出来無い。捜している人物では無い事をどうすれば証明する事が出来るだろうかという事を思っていると、胸の前で腕を組んだシンドバッドが大きな溜息を吐いた。
「シャルルカンが王宮に連れて来れない訳だな」
 ここにシャルルカンと共に来ていた事から既に予想していたのだが、昨日の出来事をシャルルカンはシンドバッドに話しているようだ。
「お前の事を俺が間違う筈が無いだろ」
 そう言ったシンドバッドの瞳は射貫くようなものであった。
「帰るぞ、ジャーファル。こんな場所にいつまでもお前を置いて行く事は出来無い」
 彼の瞳に心を射貫かれてしまい何も言う事が出来無くなっていたのだが、そんなシンドバッドの発言を聞き我に返る事が出来た。
 王であるシンドバッドにとってここはこんな場所なのかもしれない。しかし、自分にとっては命の恩人である相手の店である。そんな相手の店を、こんな場所と言われて良い気がする筈が無い。憤りを抑える事が出来ずシンドバッドを睨み付けていると、滅多に店の奥から出て来ない女将の声が聞こえて来た。
「どうしたの、ジャーファル」
「貴女がここの主ですか」
 こちらへとやって来ながら自分に声を掛けた女将の姿を見ていると、そんなシンドバッドの声が聞こえて来た。
 聞こえて来た彼の声は、先程まで自分に対して話しかけていたものとは全く違っていた。耳の奥に響く甘いものであった。数々の迷宮を攻略するだけで無く国をこの若さで作ったシンドバッドは、勇敢で聡明な王であるだけで無く、数々の浮き名を流している事で有名な王である。
 今まで聞いた事のある噂話は本当であったのだと思いながらシンドバッドの方を見ると、女性ならば誰もが頬を赤らめてしまいそうな姿で女将を見詰めている彼の姿があった。否、見詰めているつもりは彼には無いのかもしれない。ただ見ているだけで彼はあるのかもしれないが、見詰めているように見えるもので彼の姿はあった。
 女将はそんな彼を見て頬を赤く染め惚けた顔へとなっているのだろう。色盛りを過ぎているというのに、自分の息子でもおかしくないような年齢であるだけで無く、端整な顔立ちをした恋人がいるような女性で女将はあった。女将の方を見ると思っていた通りの姿へとなっていた。そんな彼女の姿を見て溜息を吐きたい気持ちへとなっていると、シンドバッドと女将の会話が聞こえて来た。
「私はこの国の王。シンドバッド」
「はい……。私はこの店の主でございます」
「貴女にお願いがある」
 シンドバットが言おうとしている願いというのが何であるのかという事は、その台詞を聞いただけで分かった。
「何でしょうか?」
「彼はこの国になくてはならない存在だ。彼を私に返して頂け無いでしょうか?」
 シンドバッドの願いは思っていた通りの物であった。思っていた通りであるとそんな彼の台詞を聞き思うだけで無く、王であるシンドバッドからこの国に無くてはならない存在であるという事を言われる『ジャーファル』が一体何者なのかという事が気になった。
 元々シャルルカンやシンドバッドの言っているジャーファルと自分は別人であるという事を思っていたのだが、シンドバッドのその台詞を聞く事によって、改めて自分は彼らが捜している人物とは別人であるという事を思った。国になくてはならない存在などに自分がなれる筈が無い。
「ジャーファルを……?」
 シンドバッドの言葉を聞き狼狽した様子へとなった女将の視線がこちらへと向かう。
「そうです」
「彼を返してくれますか」
「人違いよ!」
 女将も同意見である事が分かり安心するよりも先に、彼女が突然声を荒げた事を不思議に思った。人違いであるという事を言った女将の顔は険しいものであった。
 彼女の言葉を聞き驚いていたのは自分だけでは無かった。シンドバッドも彼女が急に声を荒げた事に驚いていた。それを見て我に返ったのか、我に返った様子へとなった後取り繕うような態度へと女将はなった。
「ごめんなさい。急にそんな事を言われたので驚いちゃって」
「そうですよね。急にこんな事を言われて貴女が驚くのは当然だ」
 本心からそう思っているようにしてシンドバッドは女将に言っていたが、自分には本心からそう言っているようには見え無かった。女将にあわせてそう言っただけに見えた。
「ジャーファルを返して頂けませんか?」
「駄目よ。彼がいなくなると困る事になるの。それにさっきも言ったけど、あなたが捜してる方とうちのジャーファルは別人だと思うわよ」
 先程別人だと女将から言われたというのに自分を返してくれという事を再び言った彼に呆れていると、女将が微笑を浮かべながらシンドバットへともう一度そう言った。それを聞き、急に怪訝な顔へとシンドバッドがなった。
「彼の名前はジャーファルなんですか?」
「ええ、そうよ」
「彼は記憶喪失なんですよね?」
「……何故、その事を?」
 何故自分が記憶を失っている事を知っているのだという事をシンドバッドに対して思っていると、そんな自分の気持ちを代弁するようにして女将がそう言った。
「私の部下が彼の様子を見て、記憶喪失のようだったと私に報告してくれたんです」
 胸に手を当てながらそう言ったシンドバッドは、後ろで黙って自分たちの話を聞いていたシャルルカンの方を見た。その事から、シンドバッドに自分が記憶喪失であるという事を言ったのが彼であるのだという事が分かった。
 昨日、自分は彼に自分が記憶喪失である事を言っていない。そして、記憶喪失であるような行動も取っていない。何故自分が記憶喪失である事を知っているのだろうかと思った後、彼が自分と同じ名前をした別人と自分を同一の人物だと思い込んでいるからだという事に気が付いた。