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【マサレン】くちびるから感染する恋の病

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レンが、自室に寄り付かなくなった。
その原因は知らないが、毎晩毎晩違う生徒の部屋に入り浸っては体を好き勝手に触らせているらしい。
本当はそんな風に適当な人間ではないはずなのに、どうしてあいつはあんな風にへらへらと振舞うのだろうか。真斗にはそれが疑問だった。
レンは色々な噂を囁かれているが、その中の一体いくつが本当のことなのかは分からない。
けれど、おそらくレンが部屋に寄り付かないのは自分のせいなのだろう、と真斗はそれだけは確信していた。
部屋の中でも学校の中でも、レンは真斗と二人きりになるとほんの少しだけ気まずそうな顔をする。真斗はそのことに気付いていた。
それに、普段はあんなにもぺらぺらと適当な言葉ばかりを並べ立てるレンが、真斗を相手にすると違うのだ。
真斗があまり饒舌ではないせいもあるのだろうが、きっとそれが全てではない。
レンがそんな風に言葉に詰まる様子を見せるのは、やはり自分を嫌っているからなのだろう、と真斗は一人納得していた。


「…いつから、こんな風になってしまったんだろうな。」


ぽつり、と呟いても、それを耳にする人間は誰もいない。
真斗は筆を持っていた手を休めると、珍しくごろりと畳の上に横になった。そうして、ゆっくりと瞼を下ろす。
脳裏に浮かぶのは幼い頃の思い出で、その中には幼い自分とレンがいた。
あの屈託なく笑うレンの表情に、自分は少なからず救われたのだ。毎日が退屈で仕方がなかった、あの頃の自分は。
昔も今も、真斗が置かれている状況は何も変わっていない。けれどあの頃、真斗の傍にはレンがいた。
だからこそ、真斗は笑顔でいられたのだ。
かちり、かちり、と時計の秒針が一つずつ時の移り変わりを告げていて、普段なら気にならないはずのそんな音ですら煩わしい。
静かな空間は真斗にとって心地好い空間のはずなのに、最近はその静寂が妙に気持ち悪いと感じるようになってしまった。
真斗はふう、とため息をつき、しばらく使われた形跡のないレンのベッドをじっと見つめる。


「…お前は、一体何をしているんだ。」


その真斗の思いが伝わったのか、その日の深夜、突然レンが帰ってきた。
といっても真斗はすでに布団に横になっていて、レンが帰ってきたことに気が付いたのも、ほとんど偶然のようなものだった。
ガチャリ、と遠慮がちに開かれたドアを音を立てないように静かに動かし、レンはそうっと部屋の中へと入って来る。
珍しいこともあるものだ、と思いはしたが、わざわざ起き上がっておかえりなどというような関係でもないのだから、と真斗はそのまま目を閉じていた。
自分に遠慮しているのか、レンはいつまでもたっても部屋の明かりを点けようとはしない。きっとすぐに眠ってしまうつもりなのだろう。
そのまま真斗が目を閉じていると、ギシリ、と小さな音を立てて、レンは一度自分のベッドに腰を落とした。
それからごくりごくりと水を飲み込む音がして、そのすぐ後にため息を吐く音が部屋中に響く。
特にレンの様子を伺おうなどと真斗は思っていなかったが、さすがにシンと静まり返った部屋でごそごそと人の移動する音がすれば、嫌でもそちらに意識が向いてしまう。
ここ数日自分以外の人間と生活していなかったためか、真斗は余計にその音に敏感になっていた。
レンはその後もしばらく何かをしていたようだったが、またギシリと音を立ててレンが部屋の中を移動していく。
やっと部屋に戻って来たかと思えば、またどこかへ出て行くつもりなのだろうか、と真斗が思っていると、ふとすぐ傍でレンが動く気配を感じた。


「…聖、川?」


おずおずと、まるで消え入りそうな声で、レンが呟く。
うっかりしていれば聞き逃してしまいそうなくらい、それは小さな小さな声だった。
およそ普段のレンからは想像が出来ないその様子に、真斗は寝たふりをやめるべきだろうか、と一瞬思案する。
けれど真斗が結論を出してしまう前にレンはゆっくりと体勢を動かし、そして真斗の唇にそっと触れた。
とても短い、ほんの一瞬のキスだったが、真斗は思わず言葉を発してしまいそうな衝動を必死に抑え、高鳴っていく鼓動をなんとか落ち着かせようと呼吸を繰り返す。
さらり、とレンの髪が顔に当たり、くすぐったい。
真斗ががちがちに体を硬直させていると、レンはもう一度真斗の唇にキスを落とした。
まるで、愛しい人に贈るような、とろけそうな程に優しい口付け。
真斗は、訳が分からなかった。どうして自分は、レンにキスをされているのか。どうしてレンが、こんな風に自分にキスをするのか。
ぐるぐると真斗が考えていると、レンの体温がそっと離れていく。
ほんの少しだけ真斗は胸を撫で下ろし、しかしこの件をどうするべきかと困惑していた。
レンにとって、こんなキスは何でもない遊びのつもりなのだろうか。
もしかするとレンは真斗が起きていることに気付いていて、いつものように自分をからかっているだけなのかもしれない。
けれどその考えは、レンの小さな呟きによって打破される。


「…まさと……、」


それは、幼い頃のレンが自分を呼ぶ時の寂しそうなあの声に酷似していて、真斗は心臓が飛び跳ねるのを感じていた。
今すぐ目を開けて、レンの表情を確かめてみたい、と真斗は思う。けれど、今さらそんなことは出来なかった。
そんなことをしてしまえば、レンにキスをされた時に自分が起きていたということがばれてしまう。
そろり、と薄く目を開くと、ちょうどレンがベッドにごそごそと潜り込んでいくところだった。
真斗はまた瞼を下ろし、レンが寝静まってしまうのをひたすら待ち続け、そっと自分の布団を抜け出す。
レンは真斗に背を向けるようにして、ぎゅっと丸まって眠っていた。その表情は彼の髪やシーツに隠されてしまっていて、ほとんど分からない。
しかし先ほどのレンの声色をを思い出し、真斗は思う。彼はもしかしたら泣いていたのではないか、と。
その日、真斗は自らの布団に入っても、ぐっすりと寝付くことが出来なかった。
うとうとと眠りに入りかけた時、不意にレンのあの声がそれを邪魔するのだ。真斗はそれを振り払うように、何度か必死に眠ろうと努める。
けれどそんな努力も空しく、真斗はほとんど一睡もすることなくその日の朝を迎えていた。


「あれぇ…聖川、なんだか今日は顔が疲れてるみたいだけど?」


いつもギリギリまで寝ているはずのレンが、今日に限って珍しく余裕を持って起きてきた。
そしてふと真斗の顔を見るなり、おはようの一言もなくそう言ったのだ。
誰のせいだ、とは口に出せないが、真斗はじろりとレンを睨み付けると、別に、と素っ気無くそれだけを返す。
それに対して、レンはいつもの様にゆるやかに笑うと、ふうん、と特に興味もなさそうに返事を返した。
その後もレンは特に何を聞いてくるでもなく、だらだらと身支度を整えている。真斗はそんなレンの様子に、思わず苛立っていた。
これが女性を相手にしている時のレンなら、きっとあんな風にあからさまに興味のないような返事はしないだろう。
そして、もっと気の利いた答えを返すはずだ。それなのに。
そこまで考えて、真斗は自分がどす黒い感情の渦にはまってしまっていることに気付く。