きょうも、あしたも、そのさきも、きみと
「クソ………悩んでた時間返しやがれ…!おれはてめェのためにどれだけ………!…ああ、まあいい、でも…報われたんなら………これ夢じゃねェよな、大剣豪」
「おれこそ、夢みてるみてェだ…頭がクラクラしやがる………」
「ははっ、情けねェなあ、それくらいの傷で」
「てめッ…!死ぬなって泣いてたのはどこのどいつだよ…!」
「ハア!?いつ誰が死ぬななんて泣いたんだよ!」
「さっきてめェがだよ…!」
ゾロの胸から起きあがったサンジは、ゾロを見下ろして、ふと、真剣な表情をつくった。
「…なあ、もう本当にこんなのは嫌だぜ…命があったからよかったと笑っていられるが…体張るのもいい加減にしとけよてめェ。そんなんじゃ、大剣豪になる前にマジで死んじまうぞ」
ゾロはサンジを見上げて、はあ、と深く溜め息を吐いた。
「あのな、何遍も言ってるだろ、だからそんなんで死ぬようじゃ大剣豪の器じゃねェって。窮地を生き抜いてこその大剣豪だ」
「だからってわざわざいらんとこで体張らなくてもいいだろっつってんだ。ひけるときはひけよ。馬鹿みてェにぶつかるだけが勝負じゃねェだろ」
「なんだとてめェ何様のつもりだ!おれがいついらんとこで体張った!おれのやり方はおれが決める、てめェに偉そうに言われる筋合いはねェ」
「何様も何もてめェがこの有様で大剣豪になりてェなんて吠えても説得力ねェっつってんだよ!言われたくねェなら、もっともっと強くなって、あいつに無傷で勝つくらいのことしてみやがれ!のんびりしてたら俺は大剣豪のてめェにこの足で余裕で勝てるくらい強くなってやるぞ!もしてめェが大剣豪になったとき、その場で俺はてめェを負かしてこう言ってやんのさ、剣なんかたいしたことねえなあ、大剣豪、どうだ?武器ももたねぇ人間に負けた気分はって。そうなりたくねェならせいぜい死ぬ気で強くなるこったな」
真面目な話もすぐに喧嘩になるな、とサンジは頭を抱えたくなった。だが、それで言いたいことを遠慮なく言い合えるのだから、それでいいんだろうと思うことにする。
「うるせェ!言われなくてもおれはその何倍もの早さで強くなってやる!ごちゃごちゃと訳のわからねェ妄想してる暇があるんなら、いずれ大剣豪になったおれに瞬殺されねえように、せいぜいそのひょろい足鍛えとけよ。まあ、話にならねェだろうがな」
死にかけたくせにタフな野郎だと、サンジは内心感心した。かなわねぇなと、おれもこいつと肩並べられるようにもっともっと強くなってやろうと、素直にそう思った。
「は…上等だよクソ野郎」
サンジはすっと、ゾロの前に左手を差し出した。ゾロはそのサンジの手を握って、不敵に笑う。まるで誓いをたてるようにしばらくそうして、どちらともなく手を放した。
「もう寝ろよ、さすがに限界だろ」
「限界じゃねェよ、ちょっと疲れただけだ…」
言うが早いか、すぐに目を閉じて寝息をたて始めたゾロを見て、サンジはふっと笑った。そういえば、今日はまだ吸ってなかったっけ、と煙草を取り出して火をつける。怪我人に煙をかけちゃまずいかと、少しゾロから離れて、目一杯煙を吸い込んでゆっくり吐き出す。
「ふう………クソうめェ………」
久しぶりに美味く感じた煙草の味に、サンジの涙腺はまたちょっとだけ緩んだ。
作品名:きょうも、あしたも、そのさきも、きみと 作家名:ルーク