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【ポケモン】いろとりどりの

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「その日に故郷に帰るんだそうだ。持ち込みの日を決めたいから、一度電話するってさ」
 ただの紙切れに走り書き。それだけのものがこんなにも嬉しいものだなんて知らなかった。
「……そうなんですか。」
 紙に視線を落とす。力強い筆跡だった。いつか大きく見えた背中はもっと大きくなっていることだろう。シルフでの短い邂逅を私は懐かしく思い出していた。彼はきっと私のことを覚えていないだろう。それで構わなかった。
 私の手は以前に比べて皮膚が固くなり、ずっと節が目立つようになった。油のにおいも染み付いている。きれいとは言いがたいのかもしれない。それでもこの手であることが誇らしかった。
 私は、やっと彼の助けになることができる。
「新チャンピオンにもお礼を言わなくちゃなあ」
 今度来たときのために美味しいお菓子を準備しておこう。チャンピオンになったお祝いも渡さなければ。いつぞやポケスロンでコガネに立ち寄ったときにボンジュースに凝っていたような気がするから、それのセットにしたのだけれど。気に入ってくれるだろうか。
 お茶に手を伸ばすとすっかり温くなっていた。友人のグラスは話の合間に空っぽになっている。しまった。きちんともてなすつもりだったのに。
 お代わりを持ってきますと断ってから席を立つ。給湯室の冷蔵庫に予備が用意してあるのだ。
 空のグラスに氷をいくつか落とし込み、茶を注ぐ。そのひんやりとした感触。何気ないもののはずだった。
 ぽろりと前触れもなく目から涙が零れた。慌てて袖で拭うが、次から次へと涙が溢れてくる。震える唇でなんとか笑みのかたちを作る。―――なんだ、私もちっとも変わっていないみたいだ。
 壁にもたれてずるずると座り込む。そのまま顔を覆った。
 ずいぶん前に通り過ぎてしまった過去が蘇る。愚かしかった自分、ヒーローのような少年の背中、いつだって優しかったあの子。痛みも後悔も一緒に込み上げてくる。自分の人生を変えたあの時期は、紛れもなく辛い記憶のひとつでもあった。
 ああ、それでも、やっと。
 嗚咽が込み上げる。やっと私にも向き合う準備ができたのかもしれない。もう私は彼らを道具のように使わない。物を売るのは私達人間の仕事。売るために工夫するのだって、私達がしなければならないこと。それを手伝ってくれるのは、彼らがただ優しいからだ。私達は、その気持ちを受け取っても、優しさに甘えてはいけない。
 こんな簡単なことに気付くまで何年かかっただろう。
 
 ようやく私は、あの子に謝ることができる。

 ぱしん、と氷に罅が入る澄んだ音がした。氷が解ける。早く持って行った方がいいだろう。分かってはいたが、それでも私はただただ顔を覆うばかりだった。



 ―――ただの大人。ひとりの、ひたすらに弱かった大人の話だ。