二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

VOL DE NUIT

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
高層ビルの合間を縫いながらネオンや明かりが彩る街並みを見渡す。ゴールドステージよりもシルバーステージ。シルバーステージよりもブロンズステージに気を配って見ていけば、ほら今日だって町の平和を脅かすとまではいえないほど小さいが、見逃すわけにはいかない軽犯罪が闇に紛れシュテルンビルドの平和を汚そうと忍び足でやってきた。ひったくりだ。シルバーステージ。ニット帽の男が若い女のバッグを奪って走りだす。もみあい突き飛ばされた拍子に彼女は尻餅をついたようだが、特に怪我はしていない模様。最近は軽犯罪は二部リーグの担当になった。しかしそんなことは関係ない。犯罪の前に大小なんて存在しない。急降下、速度上昇。濁った空気を押し分けて進んでいく。必死に逃げるニット帽に狙いを定めさらにぐっと速度を上げた。路地裏に逃げ込もうとする前になんなく男に追いつき、両肩を掴んで、捕獲。
「もう逃げられないぞ、観念しろ、そして観念しろ!」
 宙に体を浮かせてやれば男は自由が利かなくなった体に驚き慌て、すわ何事かとあたふたと足をばたつかせた。
「す、スカイハイ!」
 悪ガキの目の前に母親が現われた時のような驚きと諦めとが混ざった表情でニット帽はスカイハイを見つめ、本当に観念したらしくそれからぐったりとうなだれた。そのまま近くの警察署へ。


 銀色夜空がよりいっそう深い色で街を包みこんでからスカイハイはキース・グッドマンに戻る。楽しそうに裾と戯れていた夜の空気はマスクを取り去ることで見える金色とはもう遊ばない。
 風の魔術師と呼ばれるようになってからもデビュー当時から行っていた夜のパトロールは続けている。最初は町の治安が良くなればという思いで。キングオブヒーローとなってからはトップに立つものとして、ヒーローとして当たり前のことであると思って。じゃあ今はどうして。ヒーロー人気というか、専らタイガー&バーナビーの活躍の効果で犯罪発生率は急激に低下した。今日みたいな軽犯罪だって本当は二部リーグが取り締まるものになった。ヒーローとしての負担はずいぶん軽減された。見回りだって彼らにするように言えばいい。少しくらい羽を伸ばしたっていいじゃないか。なのに。ジャスティスタワー内のロッカールームで、暗闇のなか、彼は自問自答する。習慣か、惰性か、矜持か、使命か、義務か。どれもあっているようだがどれも違うような気がした。


 ジヤスティスタワーを出て夜空を見上げても、ここはとても明るいから宝石のようにたっぷりつまった星は少ししか見えず、本当は銀色がちりばめられている夜空も漆黒に似た味気ない黒で塗り潰されている。近いはずものが遠くに感じられた。
 こういう時彼女に会いたくなる。名前も知らない、顔だってきちんと覚えているかどうかわからないほどおぼろげだがあの細いプラチナの髪の美しさは今でも鮮明に思い出せた。存在すら危うく彼女のぬくもりさえも知らないが、見ず知らずの自分を励ましてくれた暖かさだけはちゃんと胸の中に残っている。また会いたい。人間とは欲深いものだ。あの時はあの励ましで十分だと思っていたのにちょっと時間が経っただけでまた不安になる。またすがりたくなる。やっぱりあの時送っていけばよかった。そしたら今だって会えたかもしれないのに。考えれば考えるほどあの時の行動が悔やまれる。だけどいま会えないということはどう動いたところで変わりはしないことのようにも思えた。どうあがいたってあらがえない不変の事実のように思えた。彼女は遠くにいってしまった。
 いいのだ。会ってくれなくても、振られても。彼女がどこかで元気に暮らしているのなら。でもやっぱり、紳士面をしていても、心は痛い。胸のあたりに走るのは鈍い痛み。
 もしも誰かを好きになるということが、失恋するということがこういうことであるのなら、ガラス細工を粉々に壊したようなこの胸の痛みをきっと一生忘れない。これはきっと、とろけてしまいそうな淡い思いをその内側に抱きながらキースと一緒に生きていくのだ。


 はたまたヒーローである意味を少しだけ見失いかけているスカイハイであったが、だからといってもうトレーニングに身が入らないわけでないし、もはや出動時にビルに頭から激突という失態は犯しはしない。肝心の美味しいところは大体バーナビーにとられがちだが人命救助や犯人逮捕に勤しむ日々は以前と何ら変わりない。シュテルンビルドを泳ぐように飛んでいれば「スカイハイ!」と笑顔で手を振る誰かの姿。まだ自分は必要とされている。そう実感できた。
 とはいえ。誰かに必要とされたいからヒーローを、ひいてはパトロールをしているわけではない。だったらやはりなんのために。考えれば考えるほど濃い霧が立ちこめる森の中に入ったみたいでわからなくなる。いや、この例えだと自分なら空高く飛べばいいだけの話か。もっといい例えはないものか…ともはや何に悩んでいるか分からないほど悶々と考え込むキースを現実に引き戻すかのようにイワンが叫び声を上げた。
「ちょ、あの、スカイハイさん!」
「ん、なんだい?」
「その、こぼれてます。コップから、コーヒーが」
 引きつるイワンの視線の先をたどると自分の手元。そういえばトレーニングの休憩中でコーヒーが飲みたくなったんだった。ポットから自分のコップに注いでいる最中に考え事をしはじめて、それから
「あ……ああ!」
 ずっとポットを傾けていたため川が流れるようにとめどなく出てくるコーヒーとそれを受けきれなくて深い色に侵食し尽くされた乳白色のカップ。溢れたものはそのままキースの手とサナトリウムの床を汚していた。慌ててポットを元に戻すも零れたものは元には戻らない。あわあわとしながらも「雑巾持ってきます!」と素早く動き出したイワンの声を聞きながらキースは深いため息をついた。
「また不調?」
 騒ぎを聞いたらしいネイサンが悩みやら聞くわよとにっこり笑みを浮かべる。大きな口がはっきりとした弧を描く。「そういうわけじゃないんだけどね。ちょっと考え事を…」
「あら、まだあの女のことを? いい加減忘れなさいな。どっかで元気にやってるでしょう。新しい恋に目覚めるべきよ。例えばそう、わ、た、し、と、か?」
 ウインク。ハートマークが飛んできそうな。語尾も黒塗りのハートマークが付きそうな勢いだ。しかも目が本気だ。さすがのキースもこうなったら苦笑いを浮かべるしかない。海の底にいるかのごときうすら寒さを覚えた。
「…遠慮しておくよ」
「んもう、いけず!」
 ふん、と鼻をならしぷいっと顔を明後日の方向にそらす。年ごろの美しい女性がやればたいそう映える動作なのだが。
『HERO.TV増刊号!』
 突然、テレビモニターがけたたましい音をだしはじめた。自然、意識はそちらに向かう。不定期に行う街角アンケートの放送か。ヒーローに関した簡単なお題に道行く人々が答えるという他愛ないもの。今回のお題はオーソドックスに「あなたの好きなヒーローは誰ですか?」のようだ。丁度雑巾を手にした折紙が戻ってきたので、礼を述べてから後始末にとりかかれば早速街角での答えが流れてきたので、掃除ついでに耳を傾けた。
作品名:VOL DE NUIT 作家名:英子