桜散る後想うヒト
「あっ、あれは……!!………………むぅ」
諦めたのか、拗ねたのか。
自分でもよく解らないままに反論と抵抗を止め、口を尖らせつつも力を抜いた。
「……で、何が『もういいや』だったんですか?」
「……しつけーなー」
「気になるじゃないですか」
溜息。
やっぱりしつけぇ、と呟いてから。
「……人が」
「はい?」
小さい声で、恥ずかし気に。
ぽつりぽつりと、端的に。
「人が、いても……。その、いいか、とか……」
「………………はい?」
何やら物凄い事を言われた様な。
そんな顔をしているピートに、改めて熱が襲ってきた。
「だからっ!!もーいーから!!……し、したくなったんだよ衝動的にっ!!」
恥も外聞もみんな捨てて、考えるのも止めて。
ただくっつきたかった、と。
とどのつまりはそういう事な訳で。
「……ごっ、誤解すんなよ!?たまたまだぞっ!?気の迷いだ一時的なっ!!これからは別にやろーとは思わな」
「じゃあ僕からやりましょう!!」
「にょわーーーっっ!!?」
顔を真っ赤にしての必死な言い訳。
しかも己の腕の中。
これで男心を刺激されない男は枯れてるぜヒャッホゥ!!な勢いで横島に迫ってくるピート。
「いやっ、ちょっ、待っ……んんんっ!?」
確かにこれが可愛い女の子だったりしたら気持ちはちょっと解るけど!!なんて思いながら慌てて止めようとするものの、いきなり口付けられ、間髪入れず舌も入れられ、目を白黒させながら。
あぁっ、やっぱり失言だった!?とかなんとか微かな後悔を抱きつつ。
「んっ……ふ、ぁ……」
横島はいろんな意味で抗えないその力に、半分程は自ら望んだ通り、屈してみた。
……教訓。
桜見てセンチになってる暇があったら、もーちょっと周りに気を付けましょう。
「いやちょっとそれは違うんじゃないですかっ!?桜見る暇があったら僕の方見てそのまま美味しく頂かれちゃいましょうとか!!」
「馬鹿は黙れぇぇぇ!!」
今日も空には馬鹿が飛ぶ。
「ったく……」
溜息吐いて、思うのは。
強くて綺麗で大らかで。
加えて強か、困る位に。
「……あいつにも当てはまりそーで、凄ぇ嫌だ」
好きな奴というのは。
どーも綺麗に見えてしまうものらしい。
例え、それが男でも。
桜を見上げる。
結局ばたばた騒いでて、大して離れもしていない。
それに気付いて苦笑して。
けれど気分は悪くなく。
花を落とした緑の木。
先程まで感じていた筈の、何を根源にしていたのかも解らない不安だか何だかは、自分の中にはもう無くて。
「……御苦労さん」
目を下に落として一言。
笑みさえ浮かべてそう呟いた。
汚れた桃色は、己の役目を果たしたのだと主張する様に、ただそこに。
どこか誇らし気にさえ見えるのは、己の心の変化の為か。
そうしてまた、桜の木へと目を移す。
緑は新しい息吹の色。
次に咲くまでの眠りの、しかし確実に息づく若葉。
────まぁ、何にせよ。
次に桜を見る時は。
春でも冬でも、笑って見られる事だろう。