夜祭にて
「……俺、馬鹿ですから、何で美神さんが泣いたのか、よく解りませんけど──」
やはり表情には戸惑いが色濃く浮かぶ。
そして、迷う様な素振りの後。
私を見据えて。
「でも俺、美神さんの事、すっげぇ大事ですから」
泣かないで下さい、と。
放った言葉は、打ち上げられた花火の音に紛れながらも、私の耳に強く残った。
何も解ってない癖に、告白紛いな事言って。
照れ画しにぶん殴ってしまった私に、それでこそいつもの美神さんだ、なんて笑って。
結局二人で花火見て。
それから。
「あ、そーだ、これ」
「?なぁに?」
「いやー、いきなり美神さん走っていっちゃうんで、慌てて取ったらそんなんに……。いらないとは思うんですけど、貰っといて下さい」
「へ?……他の誰かの分じゃなかったの?」
「はぁ?」
きょとん、として思わず出た言葉に、目を瞬かせ、彼もきょとん、とする。
「何言ってんすか。リクエストだって聞いてたのにー」
……え、ええと、それはつまり、あれか。
単に私の勘違いだった、と。
………………ううわ、は、恥ずかしい……。
「って、うわっ!?どーしたんすか美神さんっ!?顔真っ赤じゃないですかっ!!」
「ああっ、違うのっ!!これは違うのよっ!!」
「何言ってんですかそんな顔真っ赤にして!!具合悪いなら悪いって言ってくれれば良かったのに!!」
「……ってわきゃー!!ななな何しとるかぁー!!」
「この場合、反論は却下!!抵抗も許しませんっっ!!」
「あ、あうぅ……」
結局そのまま、事務所まで所謂『お姫様抱っこ』で運ばれ、顔に集まった熱が更に集まったのは、仕方の無い事だと思う。
数日後。
面子の揃った事務所内。
射的で取った景品を皆に手渡して、『射的のタダちゃん』とやらの偉大さを大袈裟にアピールしている。
おキヌちゃんは可愛らしいうさぎのストラップに素直に喜んでるし、シロもロナルドのぬいぐるみに感動しつつ、横島クンの話にいちいち感嘆の声を上げ。タマモも何故射的の景品にあったのか解らないけど、お揚げセットなるものを貰って何気に嬉しそうだし。
…ま、別にいいんだけどね。
「さ、皆!!そろそろ明日に備えて寝ときなさい!!明日の仕事は久々にボロいんだからっ!!」
うちの娘達は素直に返事、自室に帰還。
でも一人、馬鹿がいる。
「美神さんっ!!明日の仕事の為、俺には煩悩を高める義務がっ!!とゆーわけで一発っ!!」
「早よ帰らんかっ!!」
…ま、お約束だから。
誰もいなくなった部屋で。
小さな、おもちゃの指輪を手で弄びながら考える。
思い出して、微笑んで、そして。
「……ばぁか」
自分でも笑える位、幸せそうな声が零れた。
夜祭り。
道に立ち並ぶ夜店。
頭上に吊るされた提灯。
隣には、想い人。
次の祭りでは、そう素直に言えるといい。
そして。
「……そういえば指輪なんて、射的屋にあったかしら?」
疑問の声は、誰にも聞こえず、答えも返らず、ただそこに。