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(無題)

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「気にするな。私がそう思ったのも、あの某臣の妃と子が何やらお前の……お前達の事を長々と言っていたのを聞いたからだ。あの者達の話もあって処断の最中に漠然と抱いていた思いをようやくこうして言葉で表せた。」
(某臣の妃と子……あの老人と子だろう。)
高慢な子の表情と再度、老人の不快な視線を思い出し刃が小さく息を吐いた時、おもむろに主が口を開いた。
「……緑の星の防人。」
「は」
己の思いの深淵を不意に覗かれ、驚きの為に無意識に声が出た。形容し難い緊張と同時に心の中のどこかに風が吹き過ぎる様な寂しさも感じる。
妙な刃の反応に訝しみながらも主は続けた。
「某臣の妃が言っていただろう。あの整った防人だ。」
「……その者がどうかいたしましたか。」
「……いや。端麗な者が武器を持ち戦い、その流血と苦しみにに喜び酔うのならば、あの様な姿の者こそ求められるのであろうな。……あの者とは全く異なるが、お前も整っている。だからその卓越した技以外で見る者を喜ばせる事は出来るだろう。……伝えたかった事はこれかもしれぬな。」
「……」
独り言のように呟いた後に主は刃の方を向いた。
「ああ。これも気にするな。某臣の妃の事は全て私の憶測だ。お前の兄弟……弟であったな。埒もない事を言った。」
「いえ」
銚子に手を伸ばした主が、中に酒の入っていない事を知り残念そうな表情をする。その後にふうと長く息を吐いた。
酒の匂いが漂う。
「主、それ以上は。」
「案ずるな。しかし刃よ。」
にやりと笑う顔が赤い。酒が回っている。
刃の入室以前より随分と進めていたらしい。目元は変わらず上機嫌そうではあるが焦点が定まっていない。
唇に残っていた酒を舌で舐めながら主は言った。
「……しかしあの防人は誠に美しいな。」
「……褒めていただき光栄でございます。」
「私は。……お前だけでなく彼等の資料も持っている。記録もあるから多少は知っているぞ。あの防人。……少し神経が尖っている様にも見えるが、あの姿は緑の星の中にも滅多にはいないであろうな。初めて資料で確認した時はこれが戦う者かと……何かの冗談かと思ったが……」
無遠慮に刃を眺める主を見て、刃は今まで、過去彼と居た際に何度も聞かれた事を主から問いかけられるだろうと思った。
「造り物とは言え全く似ていないな。あの緑の星の者とは兄と弟なのか?」
(母星でもう回数を忘れる程聞かれ続けていた問いだ。俺がそうなのだから雷は、他兄弟達と居た時に己の数倍は同じ事を聞かれただろう。)
彼はただ一言も言わなかったが。
刃の心の中の一つの過去、それが思い起こされる。
……母星だ。
空は曇天地は汚染され、すでに人達の短命化は進み、ただ灰とくすんだ希望なき場所。
前からの約束。買いに行きましょうと促され本当は嬉しいくせに、寒いからと口先の嘘を言ったあの時。期待通り言葉を無視され極上の笑顔まで返された。
無機質な外の景観の中、彼だけ別世界から切り取った絵の様に鮮やかで、今思い出しても心焦がれる様に眩しく美しかった。
必要だった物を買った後に、数少ない花屋でやはり少ない売り物を眺め、兄さんをそのままきれいに描くよと言った道端の絵描きの並べられた絵を見て、露店の焼き菓子売りを買わずにひやかし……どの場所でも兄弟ですかとは問われず、必要に応じこちらからそう答える度に驚いた顔をされ、終いに雷が拗ねて口を閉じてしまったので、苦笑しながら手を握った。全てが違ったとしても俺とお前は一つだと。
一瞬手を握り返し刃をじっと見詰めた雷が呟いた。
「兄さん。兄さんは……」
「僕の髪は好きですか、目は好きですか」
「僕の……」
「一度に言われても答えきれない。だが……そうだな。」
全身で喜びを表現すると思い、期待していたが雷の表情があまり変わらない。
「どうした」
「アナタが気に入ってくれたならそれで良かった。皆と似ていなくてもあまり辛くはないです。」
投げ遣りにも聞こえる言い方だが、雷は己の弱みを殆ど喋らない。ここから先は刃の前だけで話す本音である。
「辛いのはアナタに似ていないと言われる事です。内面……心だけでなく見た目まで違っているのを改めて思い知らされるので。」
「どうしてそんな事を言うんだ。」
「……」
灰色の空を見上げていた青の眼が、静かに刃を見詰めた。
今は悲しませたくない。だから言わないが花屋や絵描き、確かに他人が見たら
(似てはいない……)
「似る……どこか少しでもアナタに似ていたら。アナタへ僕が出来る事がそれだけ増えたかもしれない。そう思います。……兄さん。変な事を言いますけど……」
「一人で遠くに行こうとしないで下さい。」
「明日もその次の日も、俺はお前達と……お前と居る。」
「……」
「行くぞ。」
青の中に深く翳りを残したまま、歩き出した刃に合わせ雷は話し始めた。
「聞いてみたい気持ちはあるのですが、何だか……」
「何だ。」
薄手の手袋をはめた両掌を広げ雷は言った。
「主が与えて下さったこの身……」
「一緒に聴きに行こうか」
勿論雷を案じる気持ちが強かったが、彼だけどうしてだろうかと言う興味の気持ちもあった。
「アナタを巻き込みたくないから今度、何時かにします。」
「ためらうのか。あの穏やかなマスターに対し。」
「……あの方。」
雷はすっと目を細めた。
「穏やかな方……深い慈愛を僕達に与えて下さる方。そうでしょう。」
「そうだな。」
「ただどこを見て……何を見ているのか分からない。色々な事を見透かしておられるかもしれませんが、何も見ていないのかもしれない。」
「何故そう思うのだ。」
「時々ただ遠くを見て、近くに居た僕と眼が合った時に名を呼んで下さるのだけれど、どこかの遠くを見ていたそのままの眼で僕を見ている。名を呼ばれているのだけれど何故か……僕の。名を呼ばれている気がしないのです。それが少し恐ろしい。この気持ち自体ははっきりとは分かりませんが、もし自分について聞く事でマスターのその部分に触れてしまう事があるかもしれない。……分かりませんけど。そう思うと。」
その姿について当人も謎と思い、考えていた過去を思い起こす。
「ああ、お前と似てないからと言ってお前の容姿がどうのと言うのではない。むしろお前は違った良さがある。ただ髪や皮膚の色まで異なるから驚いてな。お前とは兄と弟であるのかと聞いただけだ。」
(その“全く異なる物”とどういう関係であるか万一知られる事があったとすれば驚かれるだけでは済まされないだろう。何にも代えられぬ大切な弟で、私が最も苦しませ悲しませ辛い思いをさせ、百余年経った今も私のまだ捨てきれぬ情を断ち切らせまいと、私の心に苦しみと思いを強く与え続ける者です。)
まああの女性の様な星には荒々しい武骨者よりああ言う優美な者が合うのだろう。己の言葉に納得した様に主は呟き刃に伝えた。
「今日はもう下がって良い。お前の働きは今回も見事であった。報酬を与える。何か希望があれば言うがよい。」
思いがけぬ言葉であったが迷わずに刃は即答した。
「休暇を数日いただきたいと思います。」
「それで良いのか。」
「次に備え武器の脂を取り手入れを行いたく思います。」
作品名:(無題) 作家名:シノ