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学園戦争サンドイッチ2

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保健室の扉を開ければ、そこは無人だった。

 逃げたな。

 帝人は、保険医の逃亡に苦虫を噛み潰す。職場放棄するのは、止めて欲しい。曲りなりのも大事な生徒の身体をケアする人間が患者を置いて逃亡するなんて、言語道断だ。
 とはいえ、いつものことなので、いつまでも怒ってばかりはいられない。
 この二人のおかげで、ちょっとした救急処置はお手の物になってきている。

 勝手知ったる保健室の棚から、消毒液やら包帯やら必要なものを取り出すと、帝人は静雄を椅子に座らせる。制服の袖で血を拭こうとするのを止めて、濡らしたタオルで拭ってやる。頭の出血は小さくともよく出るとはいうけど、ちょっと流れすぎじゃないかな。
 額の生え際近くでパックリ切られた傷は、見ているだけで痛そうだ。染みそうだなぁ、というかこの傷に消毒液振り掛けて大丈夫なのかな、と一瞬だけ不安に思う帝人だったが。目の前にいるこの男は、非常識にも、切り傷を絆創膏ですらなく、接着剤をつけて治療だと抜かす人間だ。真っ当な治療薬を使う事に、なんの不安があるだろうか。
 帝人は手当てを開始しながら、今までにも何度も口をすっぱくして言った言葉を繰り返す。

「もう、ホントにさ。せめて血みどろになるような喧嘩はやめようよ。今日だって、こんなに血を流して・・・。どれだけ人に心配かけたら気が済むのかなぁ」
「今日も心配してくれたのか」

 そして、返ってくる答えはいつもこれだ。なんで、そんなに確認したがるんだろう。そんな当たり前のことを。
 確かに、静雄の身体は規格外で人より凄い頑丈で怪力の持ち主でケガの治りも尋常じゃなく速いみたいだけど。傷つかないわけでも血が流れないわけでも痛みがないわけでもないことを知ってるんだから、心配…。

「しないわけないでしょ。友達なんだから!」

 帝人がちょっと怒ってみせると、「ありがとな」と静雄は嬉しそう笑ってくれた。
 そして照れくさそうに、今日は反対例を出してきた。

「だがな。そうは言うけど、新羅の野郎なんざ。小さい頃、それこそまだ身体が出来上がってなくて、怪力の出しすぎで身体を壊して入院しても、解剖させて欲しいなぁとか好奇心いっぱいで、心配なんざ、かけらもしやしながったんだぜ」
「…それは、まぁ。岸谷君だから。でも、ほら、ドタチンなら!」

 マッドサイエンティストならぬ狂医学者な毛のある岸谷君ではさすがにフォローもしづらくて、頼れる兄貴である男振りの高い友人の名前をあげてみた。

「ああ、まぁ、門田も、心配してくれるっちゃーしてくれるが、お前がしてくれるみたいな心配じゃないんだよな」
「う、うーん?」

 心配違いってこと? 何が違うって言うんだろ? よく分からないや。
 帝人が首を捻っていると、静雄が「ま、気にするな」と両手で自分の膝をたたいてごまかした。
 静雄がそう言うなら、まぁいいかと帝人は流すことにする。
 治療が終わったので、医療品は全て片付けた。もう、クラスに戻ってもいいのだが、時間が中途半端だった。終了のチャイムがなるまではここにいようと、帝人も静雄の隣に腰をおろした。

「いつも迷惑かけてすまねぇな」
「別にそれは気にしなくてもいいけど。いや、やっぱりちょっとは気にして! 気にして臨也から喧嘩を買わないようにして!」

 帝人が両手を組んでお願いしてみたけど、静雄にあっさり断られしまった。ひどい。

「そりゃ、ムリだ」
「なんで!? 静雄が相手にしなければ臨也が一人空回りするだけだよ。むしろ相手にしないほうがダメージ深いと思うんだけど」
「仕方ねぇだろ。ムカツクもんはムカツクんだから。我慢なんてきかねぇんだよ」

 グシャリと、静雄がテーブルの一角を握って潰してしまった。
 あーあー、これは治せないなぁ。

「短気は損気だよー? 受け流すことを覚えたら、今より半分は喧嘩が減ると思うんだけどなぁ。」
「・・・無くなるとは言わないんだな?」
「アハッ。だって。臨也、陰謀大好きだもん。静雄のことも大好きだから、どうしたって喧嘩になっちゃ「はぁああっ?」思う、し」

 突然の静雄の雄たけびに、帝人はビックリして言葉が止まる。
 思わず、静雄を注視してしまうと、静雄が非常に苦虫を噛みしめたような顔をしている。

「何、気持悪いこと言ってんだ、お前はぁあああっ!! 誰が誰を好きだってぇえええっ!見ろ、サブイボたったじゃねぇか!」
「うわ、ホントだ。ゴメン。で、でもホントのことだと思うし」
「まだ、言うかっ」

 万力のような静雄の手で頭を握られ、「ぎ、ギブ、ギブ! ゴメン、もう言わない! だから、イタッ、イタタタタタ!!」と帝人は涙目になった。

「もう、そんなに怒らなくたっていいじゃないか」
「お前が馬鹿なことを言うからだっ! だいたいあの野郎に好きな奴なんているのかよ。人間が大好きだーとか叫ぶ変態によ」

 言われてみれば、確かに臨也は恋愛脳不適格者に思えるので、恋愛的に好きな人間はいなさそうだ。帝人はついつい乾いた笑いを零してしまった。

「あー、いないかもねぇ。あ、だったら、静雄は? 好きな人、誰かいるの? 確か、タイプは年上の女性だったっけ? 3年生とか綺麗で優しそうな人いっぱいいるから、もしかしているのかなぁ?」
「お、俺はっ」

 何気に話題を振っただけなのに、慌てふためく静雄の姿に、これはいるな! と確信した帝人は、ズイッと至近距離で顔を近づけて白状するように迫った。

「いるんだ! 誰、誰? 誰にも言わないし、茶化さないから教えて! ね、3年の誰、誰~?」

 ついつい好奇心に支配された帝人はついつい調子に乗ってしまっただけだったのに。

「・・・っ馬鹿野郎! 俺が好きなのは、お前だ!!」