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朝霧 玖美
朝霧 玖美
novelistID. 29631
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Eyes On Me~ジュリア

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ほら、今晩も来ている、あの人。
体の大きな優しそうな人と肌が黒いけれど精悍そうな人と。
いつもあの3人は一緒。
本当に仲が良さそう。
私がステージに立つ日はいつも来ている。
そしてなにか賑やかに話ながら飲んでいる。


いつからだろう。
鍵盤の向こうに彼の姿を探すようになったのは。
彼のおどけた話し声をざわめきの中から探し出すようになったのは。
時々任務なのか来ない日が続く。
そうすると火が消えたような気持ちがするの。
気がつくとあなたの姿を探している。
そうして、ラウンジにいるのに気付いただけで私の心は安堵する。


いつもステージと客席に隔てているものは少しだけの階段なのに
遠くに感じるのはなぜ?
手を伸ばしてくれたら私を捕まえられるのに・・・・。
あなたはこの段差を乗り越えてきてくれないの。
そばまでくるのに、足をつらせておどけて戻ってしまう。
命がけの任務をしているのでしょう?
だったらこの段差なんてあっという間だと思うのに。


仕事が終わり一人になってピアノに向かっていると彼のことを考えてしまう。
名前はなんて言うんだろう。
あのざわめきの中では話していることまではわからない。
耳をすましていても聞こえない。
歌って声から気持ちが伝わるのかしら?
ピアノの音や歌声はあなたへのラブレターだと知っていた?



弾く時はいつもあなたに一番聴いてほしいと思ってる。
ステージの上では一人だけど、心の中ではあなたが側にいる。
あなたが私を見つめるその目の中に、私が思う気持ちと同じものが見えるのは気のせい?
恥ずかしいそうに目が合うとふっとそらす。
離れているけれど私にはわかるの。
だって私もそうだもの・・・。


知っていた?二人の間に段差はないって。
でもあなたは相変わらずなのね。
テーブルから離れて私のところへ来ようともしない。
ひと言私に声をかけてくれたら、あなたの瞳に映っているものの答えをあげられるのに。
そして信じられないと言ったら優しくつねってあげる。
そうしたら夢じゃないってわかるでしょ?


今日は私にとってこのバーでピアノを弾く最後の夜。
あなたと逢えるのも今晩が最後なのかしら?
そうかもしれないし、違うかもしれない。
支配人に頼んでホテルの部屋へあなたを呼んでもらった。
でもあなたはお酒が入っていて饒舌だった。
本当は世界を股にかけたジャーナリストになりたかったのね。
きっと世界が平和になったら、そんな時が来るはずよ。

でもこれで終わりにするのはあまりに悲しいから私の電話番号を書いたものを
あなたの胸のポケットに入れて置くわ。
気がついたらかけてきて欲しい……。