私は生きています。
《あなたにもいますよ、家族は》
思わず面食らって黙り込むと、
《日本さん。あなたはこの国の人たちが大切ですか? 慈しみ、守り、導いてあげたいと思いませんか?》
「それは……そうですね、そう思います。今以上の素晴らしい生活をさせてあげたいと」
そうでしょう? と彼は何度も頷いた。
《それは子に対して持つ親の感情です。日本国民はみな、あなたの子供なんですよ》
国民が私の子供。私は国民の親。
それは王耀さんを兄と慕うよりもずっとしっくりくる考え方だった。
《だから……これ以上、こんな戦争は起こさないで下さい。私の子供や妹や最愛のあの人の日常をそんなことで壊さないで下さい。それを約束していただけるなら、私は本当に何も後悔しません。この命が少しでも平和に貢献できたのなら。私の子供も幸せに生きていますから》
ねぇ、日本さん。子供を傷つける親なんていませんよね?
彼の一言は私の心に深く刺さった。
「――約束します。二度と戦争は起こさないと。この国を、日本国民を幸せにすると」
《ありがとう》
彼は満足げに笑い、あっけなく消えた。
煙は、貴一さんは天を目指し高く高く昇っていく。
まるで一匹の竜のように。
それを見ながら、私は一つの答えを得ていた。
「簡単なことだったんですね」
「ヴェ?」
「……菊?」
私が生きているのは国民のため。
この国を正しく導いていくため。
生きている意味を、なぜ私はあんなに複雑に考えたのだろう?
生きている意味、生まれた意味。それは、自分がやるべきことが教えてくれる。それだけだというのに。
これからも生きていこう。戦争を忘れず語っていくためにも。本当の幸せを見つけるためにも。
涙は、もう流れなかった。