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Day After Tomorrow

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ドラコとの最初の出会いは、とてもエキセントリックだったと思う。

彼はクラシックで上質な仕立てのいい服に身を包み、途方に暮れた顔で、スーパーの食品売り場に立っていた。
ごちゃごちゃとした店内に立つ彼の姿は場違いで、周囲からかなり浮き立っている。

レタスを困った顔で見つめていたドラコはふいに振り向いて、隣にいた彼女におずおずと尋ねたのだ。
「―――失礼、マダム。この食べ物は生でも食べられますか?」
「そりゃあ食べられますけど……」
けげんそうな顔で答えると、ドラコは自分の無知さに真っ赤になりながらそそくさとお礼を言い、その場所の野菜を手当たり次第かごに入れていく。
たまねぎもきゅうりもマッシュルームも。
かごの中には何の脈絡もない、料理の材料にしてはてんでばらばらな品物が増えていく。

ナタリアはあまりにも彼の慣れていない買い物の下手さかげんに思わず尋ねてみた。
「もしかして、あなたはベジタリアンなの?」
「―――ベジタリ……?いいえ、ちがいますが」
不思議そうな顔で答える。

「だって、あなた野菜しか買わないから」
「ええ、僕は調理が出来ないので、仕方なく生で食べられるものをとりあえず買おうと思って」
「じゃあ、たまねぎは水にさらさないと苦いわよ。もちろんきのこ類は火を通すことは知っているわよね?」
「……水にさらすってなんですか?きのこはこのままでは無理なんですか?」
戸惑った顔で心配そうに自分のカゴの中を見て、彼女に尋ねてくる。

「あなた自炊したことがないの?」
「ええ、なにも知らないんです」
消え入るような声は細くて、ものすごく不安な響きを含んでいた。
何も知らずこの世界に放り出された子供のようだ。

立っている姿は立派で文句のつけようがないほど美しい容姿なのに、とても幼く見えて、そのアンバランスさに彼女はひどく興味が湧いた。
持ち前のお節介と好奇心でドラコに自分の食堂へと案内したのが、ここで働くことになったきっかけだった。



世間を知らなすぎる彼はまた、世間ズレもしていない。
真っ直ぐな視線で話に耳を傾けて素直に頷き、彼女から受ける知識を水を吸うように素早く的確に吸収していく。
頭の回転は速く、文学などの学問的知識はかなりのものだった。
どことなく漂う育ちのよさには品があり、目を細めて頷く仕草は優雅だ。

(まったく)とナタリアは思う。
(まったく、なんて上質な青年だろう)といつも彼女は感心した。

彼はここにいるべき人物ではない。
多分彼女の元からいつか彼は離れていくことはわかっていた。
それでも子どもを持ったことがない彼女はこのドラコのことを、まるで年を取ってやっと生まれた子どものようにかわいがり、その生活の細々としたことまで親身にアドバイスをする。
ドラコはいつもそれを尊敬を含んだ感謝の瞳で答えた。

今日もひとしきり「自転車」の利便性と、その操作の難しさについて彼女と話し込んで、ひと笑いしたあと、ドラコは立ち上がった。
「―――さて、僕は飲み物類の補充をします。マダムはまだ休んでいて下さい」
にっこりと笑うと腕をまくり作業用のデニムのエプロンを巻くと、裏戸口へと向かった。

1ダースの空き瓶が入ったケースは中身がなくても結構重いが、ドラコはそれを抱えると店の裏側へと運ぶ作業をする。
別に急を要する仕事でもないから、作業はゆっくりだ。

店にお客が集まってくるのは、夕方あたりだろう。
マダムの仕込みの手伝いもしなければならないが、少しだけ休憩を取るように、裏口の階段にドラコは腰を下ろした。

この裏通りは道幅が細く、家と家とが密集していて薄暗く、ほとんど一日中太陽の光が差さない。
並んだ表通りの裏の通用口になっているので、どこの家もこの路地をバックヤードとして使っていた。
各レストランから出された空き瓶のケースが壁に山積になり、ゴミ箱がたくさん並んでいるし、じめじめとした空気は陰気で腐敗臭も漂ってきて、あまり居心地のいい場所ではない。

ただこの場所からは、表通りがよく見えた。
キラキラとまぶしい光の下を人々が行き交っている様子が、ここからはよく見える。

裏通りのここから見える景色を眺めるのがドラコは好きだった。
細長い路地の薄暗い向こうに見える、光り輝く風景はまるで映画のようだ。

ドラコは終日マダムの店に出ているし、休日も進んでどこかへ出かけようとはしなかったので、めったに人通りが多い場所へ出向くことはない。
人が多すぎる場所は苦手だったが、人ごみをこうしてぼんやりと眺めることは好きだった。

ときどきその表通りを「魔法使い」が歩いているのを見かけることがある。
コチラの世界に来てから魔法使いが予想外に、このマグル界にたくさんいることを初めて知った。

どんなに大勢の人がいても、魔法使いはすぐに見分けることかできる。
なんといっても格好が妙なのだ。

水色のチェックのシャツに蛍光色の黄色のズボンをはいていたり、老齢な婦人が短くて赤いスカートを身に着けたりして、一見してその格好は世間からひどくズレている。
魔法使いというものはどう繕ってみても、ファッションセンスがからっきしなようだ。
ドラコは魔法使いの、仮装のような突拍子もない服装を見て少し笑う。
しかし自分もこちらにやって来たきた当時は目を覆いたくなるほど、ひどく古めかしい格好だったこと思い出してさらに苦笑した。

最初ドラコはマグルの世界で魔法使いを偶然見つけたときは、ひどく狼狽し焦った。
咄嗟に「逃げなければ!」と思い、魔法省に自分の居場所を通報されたりするかもと身構えたものだが、すぐにそんなことになるはずがないことに気がついた。

いったい誰が魔法界から追放されたドラコに、わざわざ近寄ってくるのだろうか?
はなから自分など相手にされていない。

もうマルフォイ家は断絶し、魔法界では最初からどこにもなかった。
ドラコがそこにいたという存在自体すべてが抹消されて、魔法界には痕跡すら残っていないはずだ。
今、自分の手元に『魔法の杖』があったとしても、スクイブ以下の簡単な呪文すらまともにできないだろう。


追放されるということは、―――つまりそういうことだ……


ドラコは肩をすくめた。

今日はそれにしても魔法使いが多い。
たくさんの通りをすぎる人波に混じって、彼らは数人で並んでへんてこな格好で歩いていた。
この街で何か魔法使いの大きな会合でもあるのだろうか?
ドラコは首を傾げたが今の自分にはまったく関係がないし、もう自分にはそんなことは遠い過去でどうでもいいことだ。

頭を振ってゆっくりと立ち上がると、また瓶の入れ替え作業に戻った。
今度は奥の倉庫からワインの瓶を出してこなければならない。
マダムとふたりで切り盛りしているので、やらなければならない用事はたくさんあったし力仕事はドラコの担当で、ここでいつまでもぐずぐずしてられなかった。
ドラコは奥のレンガ作りの小屋へと入っていく。

一瞬だけふと振り返ると、見慣れた癖のある黒い髪が表通りを横切っていくのが見えた。

(―――ばかばかしい!)
鼻を鳴らし、ただの人ちがいだとドラコは無視した。

すべては過ぎ去った過去のことだ。
作品名:Day After Tomorrow 作家名:sabure