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追う阿呆追われる阿呆

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「なぁ~にがどうでどうなってんだぁオイ・・・」

 ひょい、と路地裏から街に大きく掲げられている液晶画面を見上げて俺は小声で唸るようにいった。
 なんとなく悪い顔をしているような自分の顔、その横につけられた「凶悪殺人犯」の文字、そしてその側を囲むようにシュテルンビルトを縦横無尽に駆け巡る自分の仲間でもあるヒーローたちの姿。
 何度見ても信じられない。しかし例え自分の頬をはったおしてみてもワイルドにデコピンしてみてもその場で痛みにのた打ち回るだけで夢から覚めたような気配はないし、一人でダダダダン!とBTBのダンスを踊ってみても冷徹につっこむ相棒もいなけりゃ冷たい目をむける女子高生もいないしきょろりと目を丸める少女も呆れたようにため息をつくオカ……エホン、女性も額をおさえる長年の親友も困ったような顔をする年若い後輩もいないしわかっているのかいないのか口角をあげてにこにことしている青年もそばにはいない。
 とりあえず俺はハンチング帽を深くかぶり直し、液晶に背を向けて光の届かない路地の奥へと足を向けた。頭の中は疑問符が詰めに詰まれて今にもパンクしそうだ。何故か会社の中に入ることができず、ロイズさんにスルーされ・・・それはいつものことだっけか、いや最近はそんなことも少なくなったはず、テレビで何故か俺が殺人犯だと報道され、・・・あぁ確か被害者は、サ、サマ・・・。

「サマンサさんじゃねぇか!」

 一人でぎょっとしたあとに慌てて両手で口を押える。そのまま自分を落ち着かせるように大げさに息を吸って、吐いて、きょろきょろと前後左右下を確認し半ば安心しながら上を向くと、

「あっ」
「あっ」

 曇り気味の空を飛ぶ、鋼鉄のヒーローと目があった、気がした。

「・・・えーっと」
「・・・」
「は、はろー、スカイハ」
「そこまでだ、殺人犯鏑木・T・虎徹! 大人しく投降しなさい!」
「やぁっぱりぃいいいいい?!」

 なんとなく嫌な予感がしつつもへらりと手を振って笑いかけようとした俺の台詞を遮るようにスカイハイにズビシィッと指をさされ、慌てて路地奥に逃げ込む。なにがどうなってるのかさっぱりだがとりあえずここで捕まれば何かヤバイことになる、気がする!

「逃げるのかっ! 待ちなさい、そして待ちたまえ!」
「へっへー十年間ここで働いてきた俺の土地勘を甘く見てもらっちゃ・・・ギヤアアアアアア!!」

 おそらく低空飛行で狭い路地を飛行しているのであろうスカイハイを振り返って、俺はひどく後悔した。
 考えても見てくれ、だってあのメットがすっげぇ勢いで俺の後ろを追ってきてんだぞ!

「スカイハイお前顔怖っ怖いっ! やめろこっちくんなあああああああ」
「えっ。す、すまない・・・し、しかし、この顔は生まれつきだっそして元々だっ!」
「ちげーよお前のメットの中の顔いってんじゃねーよそのメットが迫ってくんのが怖いつってんだよなんでそんなどもって動揺してしょんぼりすんだよああもうお前はこんなときまでっ!」

 必死に塗装の悪い道を叫びながら前だけを見て走っていると、ガッ、と右足が何かに突っかかる音。

「あっ」
「えっ?」

 ずべしっ

「うわっ、いでっ、だっ! ちょっ、待っ、ひぶっ、のわっ」
「うっ! あぁっ、そんなっ、ひどいっ・・・」

 ハンドレットパワーは使ってはいなかったものの全速力で走っていたからか俺がつまずいて後頭部をぶちあてても回転が止まらねぇ、ってギャグ漫画か!
 脳裏に「無様ですね、まぁ虎徹さんに例えギャグ漫画であっても主役がはれるとは思えませんが」と眼鏡を反射させながらいうバニーちゃんがよぎり、あぁお前もなんでこんなときまでそんな冷たいのちょっとぐらい優しくしてくれてもいいだろ確かにおじさん手出したり色々やっちゃったけれど! と涙をちょちょぎらせながら止まらない回転と節々の痛みに耐えていると不意にふわりと風を感じた。

「・・・あれ?」

 回転が止まり、そう、と風によって丁寧におろされ路地に大の字にごろんと寝転がる。えぇっと、さっきの風は、もちろん、

「・・・たとえ君が犯罪者であろうと、見ていられなかった・・・」

 俺の側に先程の風のようにふぅわりとスカイハイが着地する。
 そしてそのまま呆けている俺を奴は微動だにせずじぃと眺めた。

「とても痛そうだ・・・痛そうだとても」

 バニーちゃん、俺、後輩に心の底から同情されてる。

「・・・鏑木虎徹、何でだろう、君を見ていると私の仲間を思い出すんだ・・・」

 もしかしなくてもそれは俺の事か。ワイルドに吠えるおじさんのことか。
 って、「思い出す」?

「彼も君のような、おっちょこちょいな人だったけれども、私の尊敬する人の一人だったよ・・・」

 なんで過去形なんだよっていうかその言い方ワイルドタイガー亡くなってるみたいだからやめろ!

「だから・・・私と一緒に自首しよう! 行こう警察に!」
「なんでだよ! さっきのセリフと今のセリフの間でいったい何があってそうなったんだよ失われた中間地点つまりミッシングリングの提出もしくは821字以内の説明をおじさんは強く求めるっ!」
「えっ、そ、それは君と彼がよく似ていて・・・あれっ?」
「いや、スカイハイ、今のは言葉の綾だから。真面目に821字ちょっきしで考えようとすんなよお願いだから」
「なぜ私が821字丁度でいおうとするのがわかったんだい?! まさか・・・ジェイクと同じ心を読むNEXT?!」
「ちげーよ」

 なんとなく冷静になってきた俺は、一度スカイハイにつっこむのに勢いで起き上がらせていた上半身を再度ぱたりと倒した。曇っているが、静かな空が広がっている。昼寝するには少し肌寒いのと、

「しかし自首しないならばしょうがない・・・君には捕まってもらわなくてはならないな。目の前に犯罪者がいるのに逃がすほど私は甘くないぞ! さぁ諦めて、そして観念しろっ!」

 ちょっとうるさい。

「そーだなぁ、俺もさすがにスカイハイにここまで追い詰められたらちょっとねぇ。・・・たださぁ、」

 俺は一つ大きい溜息を吐いて、再度俺に指を突きつけるスカイハイににへらと笑いかけた。

「おじさん、さっきこけたので脚動きにくくって」
「うっ」

 ビシッと突きつけられていた指がびし、ぐらいまで弱る。
 あぁスカイハイ、ミスターヒーロー、弱きを助け悪を挫くヒーローオブヒーロー!

「だから、立つのにさぁ、手、貸してもらえる?」
「・・・もちろんだ、といいたいところだが・・・」

 戸惑うように、そして申し訳なさそうにスカイハイの首がゆれる。

「私たちは君の能力が何かを知らされていない。だから、君が私に触れることによって力を発現するネクストじゃないと思うこともできない」
「うっ・・・」

 だっ、こいつこういうところ鋭いな。いや別に手を握ることによって何かする第二のネクストが発現したってわけじゃねぇけど。

「しかしだからといって怪我をしているかもしれない君に無理をさせることもできない、だから・・・」
作品名:追う阿呆追われる阿呆 作家名:草葉恭狸