二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
みっふー♪
みっふー♪
novelistID. 21864
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

ワンルーム☆パラダイス

INDEX|12ページ/24ページ|

次のページ前のページ
 

《番外編》


〜おじちゃんの受ける仕打ちは大体いつも理不尽だけどときどきヒロイン★

+++

寄る年波のせいか、このところめっきりおじさんの朝は早い。
ゴミ出しの袋を持って玄関を出ると、中庭で傘を片手に優雅に太極拳を舞う先客の姿があった。
「やぁおはよう、」
朝イチからでもキャラを守ってもれなくきっちりグラサンおじさんは気さくに声をかけた。
「……はざーっす」
ところどころに絵の具の染みたチャイナ服を着たおさげの少年(余程の童顔でなければ)が、大欠伸に振り向いた。一階のアトリエで昨夜も遅くまで作品制作に勤しんでいたのだろう、――いくら若いからって徹夜続きは身体に良くないよ、親心で説きかけたおじさんの猫背の後ろに、傘を小脇に音もなくカンフーシューズを滑らせておさげ兄が近づいた。
「ねぇおじさん、」
おさげ兄は、おじさんの褪せた半纏の肩にポンと手を置いた。
「んっ?」
おじさんは振り向こうとした。肩を押さえる圧力が不意に半端なく増した。
(……、)
――あれっ? ぼんやりと不確かではあるがあまりよろしくない心地に、生物としての本能的におじさんの髭がぞわっと波打った。
「あのさぁ、そろそろ真面目に考えてくれた?」
懐こい笑顔の下に、だが決して隙のない表情を浮かべて兄が言った。
「……えっ?」
情けない、子供相手に何をビビるこたぁないだろう、
「な、何の話だい?」
おじさんは顎髭を引き攣らせながらも、努めて平静を装って対処した。
「――だからぁ、」
猫背のおじさんの耳元に、ひょいと爪先立ったおさげ兄が囁いた。「ホラ俺をさぁ、おじさんの養子にしてくれるってハ・ナ・シっ☆」
おさげ兄は、赤毛のアホ毛をきゃっきゃさせながらおじさんの肩を揉み揉みした。
「……、」
かつてそれなりに隆々と張りのあった、いまでは若干フワフワになりかけたところの筋肉をよーしゃなくゴリゴリに揉み解されて、ときおりふらぁっと気が遠くなりかけながらもおじさんは必死に考えた、……果たしてこの子はどこまで本気なんだろうか、そりゃ、親御さんとは故あって離れて暮らしているようだけど、寂しい気持ちもわからないではないけれど、どうにもこの子を見ていると人生の主演・脚本・演出監督全部俺、生き方にいちいち芝居がかったところがあるからなぁ、
「……おじちゃん」
と、今度は寝癖放題で玄関から愛用のなんちゃってスワロフスキー風サンダルを突っ掛けて出てきたおさげ妹が、寝ぼけ眼をこすりこすり、おじさんのほつれた半纏の裾を引っ張った。
「だったら私も、にーちゃんと一緒におじちゃんとこの子にしてヨ、」
ピンクのうさたん柄パジャマの袖で妹は口元にだらんと垂れたよだれを拭った。
「えっ、ええええ?」
力任せに兄に揉まれたおじさんは、首をふらふらぐにゃんぐにゃんさせながらかろうじて返事した。
「コラコラ、」
おじちゃんの背中のツボを傘の柄でぐりぐり抉りながら、兄が妹をたしなめた。
「ンなことしたら、おじさんが義理の親子かつ兄妹丼つーニッチもニッチのダブル乗っけ丼に目覚めちゃうだろ、」
――いくらにーちゃんでもそこまでぜつぼー的に人様の人生狂わす悪趣味はないぞ、あっけらかんと朗らかに兄は言った。
「ふーん……」
そっかぁー、そりゃ正論だよねー、ダブル乗っけ盛りのミリキにはヒトは誰しも抗えないよねー、寝過ぎで腫れた瞼をごしごししながら妹が頷いた。
「……。」
おじさんは絶句した。――この兄妹、どこからどう突っ込めばいいものやら、それに第一、兄の施す万力マッサージのおかげで今にも意識が飛びそうなのだ、グラサンの向こうの景色は歪み、足元はぐらりと覚束ない、
「危ないっ!」
敷石の上によろめきかけたおじさんの足元に、玄関方向から水平にゴミ袋が飛んできた。
「!」
強制膝かっくんからゴミ袋クッションに尻餅コースの形であったが、結果的におじさんはすんでのところで転倒を免れた。
「……こっ、こりゃあ先生、おはようございます」
おじさんはばつが悪そうに、ゴミ袋からそそくさ腰を上げると髭面に薄い愛想笑いを浮かべた。
「はよーござーやーす」
あーむと大口に欠伸しながら妹がぴょんこと頭を下げた。
「はざーーーっす、」
へらへらしながら兄も言った。
「おはようございます」
朝から随分気分良さそうに先生が返した。
「良かった、マ夕゛オさん大丈夫でしたか?」
先生はにっこり笑うと、おじさんの足元に転がっていたゴミ袋を回収した。
「はぁいやどうも……」
おじさんはそこではっとしてうろうろ辺りを見回した。例え不可抗力であろうとも、こうして先生と絡んでいると、必ずどっかしらから恐ろしい殺気が飛んできて、もう決して若くはないくたびれた身体を容赦なく射るのだ。
「……どうかしましたか?」
首を傾げて先生が訊ねた。
「いっいいえっ」
おじさんは慌てて手を振った。……良かった、今日はまだ寝ているのかもしれない、縒れたグラサンを直しつつ、何の気なしに二階の窓を見上げて、
「!」
おじさんは戦慄した。窓辺に揺れるカーテン越し、燐光を放って捩じれるオーラがどす黒く立ち上がる。そのマイナスの熱量は全て一点、紛うことなく己に向けられているのである。
「マ夕゛オさん?」
先生がおじさんの顔の前でひらひら手をかざした。グラサンの脇に滝のように流れる冷や汗以外、おじさんの反応はない。
「……おじちゃん固まっちゃった」
丸めて垂れた肩先をつんつんしながら妹が言った。「そうだにーちゃん、せっかくだから石膏でサクッと型とっとこーか?」
瞳の菫色を俄然輝かせて妹が言った。
「そーだな、」
じゃあ俺枠作っとくから、兄は中庭のブロック塀に無造作に立てかけてあったドアやら襖やら障子柄やらの板きれをひょいと掴んだ。いちおう裏に“ヅラじゃない”と名前が書いてあったが、そんなもの、おさげ兄の天上天下ジャイソニズムの前には無記名と同義である。
「……あ、ちょっと待って下さい、だったら呼吸経路はちゃんと確保しといてあげないとっ」
無抵抗のおじさんに、どこから取り出したのか、先生がいそいそとシュノーケルを装着しようとするより早く、
「何やってんですかっ!!!」
ゴミ袋を引き摺ったメガネ少年が玄関扉を蹴倒す剣幕で飛んできた。おじさんの周囲に群がっていた連中を押しのけるように喚き散らす。
「いい加減にして下さいよ! いくらマ夕゛オさんの人がいいからってムチャ振りばっかで精神的に追い詰めて、……マ夕゛オさんはっ、マ夕゛オさんはみんなの愉快なオモチャじゃないんですよっ!」
「……。」
少年のマジギレに一瞬場は静まり返った。――てゆーか自室の窓張り付いて見てたんならさっさと助けにくりゃいいのに、おさげ妹は思った。兄は特に何も考えていなかった。ややあって、先生がぽつりと口を開いた。
「……そんな、思ってませんよオモチャだなんて」
一切の迷いなし、長い髪を揺らし、ピンボケのはっきりしない顔を真っすぐ上げて先生は言った。