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みっふー♪
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novelistID. 21864
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ワンルーム☆パラダイス

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「マ夕゛オさんは、このアパートに住んでいるみんな大好き、皆の愛されおじさまですっ」
「……。」
なんでこーゆーこと真顔(かどーかわからんけど)で言えるんだこの人、少年の勢いが削がれた合間に妹が横から口を挟んだ。
「愛されおじさまっていうかァ……、IOGSM……、イカす/オブジェとしての/グラサン掛け器機能が/すこぶる/モダン?」
「それだ!」
身を乗り出して兄が言った。
「次の作品テーマはそれで行こう!」
「じゃあやっぱり型とっとく?」
無邪気にはしゃいで妹が訊ねた。
「……!」
じょーだんじゃない、気を取り直したメガネ少年が再びおじさんを庇うように立ちはだかった。
「何だよキミ、せっかくの芸術的機会を邪魔する気かい?」
通常糸目のリミッターを外して薄目を開いた兄が、慇懃無礼にプレッシャーをかけてくる。
「――、」
恐れがなかったわけじゃない、けれどここで負けてなるものか、――……ひっ、ヒトの知らないところでちゃっかりマ夕゛オさんに粉かけてやがったなんてトンチキおさげなんちゃって画伯野郎め、ずーずーしいにも程がある、一歩たりとも引かぬ覚悟に少年は固く地面を踏み締めた。
「おはようございます、」
と、そのときだった。夜勤明けの世紀末おじさんがのっそり中庭に入って来た。
「おかえりー」
「おはようございます」
迎え入れる挨拶を受けながら、ズタボロマントの首を傾けて世紀末おじさんが訊ねた。
「どうしたんですか? 皆さんずいぶん早くからお集まりですね」
「!」
どういうタイミングか、グラサンおじさんの金縛りが突如として解けた。少年は気配に振り向いた。
「マ夕゛オさんっ」
「……」
胸元に取る縋る少年に、おじさんは力なく薄笑んでみせた。
「……あーあ、」
妹と兄は揃って落胆の声を漏らした。心なしか先生も少し残念そう(?)だった。
「しょーがねぇや、IOGSMモデルの型取りはまた今度だな」
枠取りの板を放り投げ、かったるそうに肩を回して兄が言った。
「てゆーか別にグラサン掛け器のほーじゃなくてもいいね、アイドルヲタを装った/おじさんスキーは/ガチでリアル☆/少年/メガネ掛け器、とか」
踵を返した兄の後ろをツーステップに着いて行きつつ妹が言った。――なんっかソレいまいち創作意欲そそられねーなー、欠伸混じりの兄妹は連れ立って部屋に帰っていった。
二人を見送ったあと、ガタイのいい世紀末おじさんが申し訳なさそうにナリを小さく屈めて言った。
「すみません、ウチのもんが何か失礼を……」
「いやいや、いいんですよ、」
グラサンおじさんは却って恐縮したように手を振った。
「そんなっ、ちっともよくないですよっ」
代わりにメガネ少年が憤慨した。
「すみません……」
先生がしゅんと髪を垂らして俯いた。「マ夕゛オさんの実寸大フィギュアなんてちょっとイイなぁ、欲しいなぁとか私も思っちゃって……」
「……。」
いまいち何のことやらだが、世紀末おじさんもボヘミアンヘアを揺らして苦笑いした。メガネ少年がキリリとメガネを上げて付け足した。
「そりゃアートも大事かしんないですけど、あの人たちはちょっとやり方が強引すぎですよっ」
「いや本当おっしゃる通りです、」
世紀末おじさんは平身低頭、誠意を見せた。いくらあの横暴な連中の保護責任者であるとは言え、それ以上おじさんを責めることに意味を見いだせなかったので、少年もその場はいったん引いた。
「……いやぁ何だかねぇ」
朝方から少し余分に年を取ったように見えるグラサンおじさんが、中庭の小路に座り込んでぽつりと言った。
「若いエネルギーに囲まれてね、暑気あたりとでもいうのか、そんでアベさんの顔見たらほっとしちゃったんですよ」
「そうですか」
世紀末おじさんがコワモテを綻ばせた。
「私もね、仕事上がりにアパート帰ってきてハセガワさんの顔見るとほっとしますよ、――ああ、何があっても、明日も頑張って生きなきゃなーって、」
「!」
顔を上げたおじさんのグラサンがたまさか差し込んだ朝日を受けて瞬いた。髭面の口元をきゅっとへの字に結んで、それでもなおかついろいろと溜まっていたものが一気に決壊したのか、
「――あああアベさんっ!」
へたり込んだグラサンおじさんは敷石に伏せて恥も外聞もなく大泣きを始めた。大家のまだむが起きていたら、――静かにしなッ!! 窓から速攻煙管が飛んで来るところだ。昨夜は店の方がオールで繁盛だったのか、まだ戻っていないようだが。
「ちょっと、ハセガワさん? 大丈夫ですか?」
何か悪いことを言ったかと、地面に腰を屈めた世紀末おじさんがおろおろ声をかけた。
(……!)
少年は鼻水まみれで泣きじゃくるグラサンおじさんにハンカチ差し出して慰めるどころか、傍らで顎を外して呆けていた。
――ッそだろォォォ!!!! 何この展開!!! そんな伏兵聞いてないぞ!!!!!
(……。)
うーん、単体もいいけどおじさまチーム萌え、ってのも全然アリだなぁ、先生は先生で呑気にそんなことを考えていた。そして二階のカーテンの端っこではもう一人、人知れず膝を抱えて男泣きする天パの姿があった。


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