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みっふー♪
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novelistID. 21864
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ワンルーム☆パラダイス

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わんこがさらにけたたましく吠え立てる。眼鏡の蔓に手をやり、少年は何の気なしに振り向いた。
「ま、ともかくいつ出したか覚えのない懸賞で当たったそうめん一年分を――」
(省略されました)


〜ヨーメン666〜

「……ラップ禁止な、」
「ええーーーーーーっっっ!!!」
YOYOとやって来たロンゲにーちゃんと着ぐるみは、こうしてトボトボ帰って行きました。おわり☆



〜ブラッド・オレンジ・ナイト〜

ストーブにかけられた真鍮色のやかんが盛んに湯気を吐いている。
部屋の隅では、常軌を逸したデカさの白犬が畳んだ前脚を枕代わりにすやすや寝息を立てていた。
点きっぱなしのテレビからは他愛もないタレント漫談が垂れ流され、テーブルにダベったおだんご少女と天パのおっさんが、それぞれ勝手なタイミングで突っ込みを入れる。
(……。)
自分が問題ない日暮れの団欒の中にいるのだと、だが少年には到底思えなかった。眼鏡を俯かせてこたつにあたりながら、強張った少年の指先がみかんの皮に食い込んだ。
「はいおじさんアーン、」
眼鏡少年と隣り合う辺に座ったおさげの少年が、剥いたみかんの一房を少年二人に挟まれる位置に縮こまっているグラサンおじさんの目の前に突き出した。
「……あっウンありがとう、」
おじさんは引き攣った髭面にもそもそみかんを食んだ。
「もいっこアーン、」
おさげにーちゃんが満面の笑みで追加を迫る。青ざめたおじさんは救いを求めるような視線をちらと眼鏡少年に送った。少年はふいと横を向いた。
こたつ布団を肩まで引き上げながらおだんご少女が呟いた。
「ううっコワイよ〜、ぱっつんのまわりだけみかんが冷凍みかんだヨ〜」
「つかオマエ自分の兄貴は怖くねーのか、」
――そーとー不気味な光景だぞありゃ、天パが首を竦めた。
「べっつにぃ、」
ヤツのは麻疹みたいなもんですからぁ、少女は何食わぬ顔で剥いたみかんをまるごと口に放り込んだ。
「……」
あっそう、天パもそれ以上追及するのをやめた。
「おじさん次は肩揉んであげるね!」
手元のみかんがなくなると、おさげにーちゃんはにっこり笑ってこたつを出た。おじさんの背後に膝を着くと、擦り切れ半纏の背中でちょちょいとみかんの汁を拭き取り、くたびれた肩に肘でぐりぐり容赦なく力を込める。
「――こっ、こりゃ効くなァァ」
おじさんはおじいちゃんみたいにぐんにゃり猫背を丸めてされるがままだ。
「まっ、孫がいたらこんな気分なのかなァ……」
――息子もいたことないけどね、髭面に弱々しい笑みを漏らしておじいちゃんが言った。
(……)
傍らで眼鏡少年は黙々とみかんを口に運び続ける。奥歯に噛み締めるさのうがしゃりしゃり凍った音を立てた。
「そーだおじいちゃん、みかん湯にしてお風呂入ろっか!」
――ボク背中流してあげるよ! 揉み倒されて急激におじいちゃん化した元・おじさんの腕を、おさげにーちゃんが無遠慮に引っ張った。おじいちゃんはこたつの中で縺れた足元をよたよたさせた。
そのときだった。
――ガス!
眼鏡少年は手にしたガチガチの冷凍みかんで、仮にも一個師団を率いる最年少長であるおさげにーちゃんのガラ隙の後頭部を一撃した。
「あー……」
少女と天パは、みかんを片手(少女は両手)に固唾を飲んで見守った。
「しっ、シンちゃん……」
眼鏡を曇らせ、肩に荒い息をついている少年を見上げておじさんが言った。
「みかんっ、みかん凍っちゃったね、」
焼こうか、おじさんはいそいそと立ち上がり、少年の足元にいくつか転がっていた凍りみかんを、やかんの隣のスペースに並べて置いた。
「……」
袴を揃えてこたつに座り直した少年はその間一言も発さなかった。おさげにーちゃんはまだのびている。おじさんはストーブの前に正座して焼きみかんの進捗状況を逐次観察している。
やがてみかんの皮の焦げる胸焼けするような甘ったるい匂いが部屋中に充満し始めた。
「……のーみそまでみかん色だなこりゃ」
眉を顰めて天パが言った。
「昔風邪ひいたときパピィに焼きみかん汁飲まされたヨ、」
じゅる、少女が袖口に涎を啜った。
「焼けたよシンちゃん、」
おじさんが半纏の裾に包んだ熱々みかんの皮を割って眼鏡少年に差し出した。おじさんの顔もろくに見ないまま少年は受け取った。
「ありがとうございます……」
半ばヤケクソの気分であったかみかんを頬張ると、肺までじんと息苦しいような高ぶりが込み上げる。少年は唇にみかんを押し込みながら急いで何度も瞬きをした。
「うーん……」
のびていたおさげにーちゃんが畳を掻いて身じろぎした。
「じゃっ俺は明日朝イチで臨時雇い入ってるからっ」
おじさんは咄嗟に掴んだ焼きみかんを懐に、脱兎の勢いでじむしょを出て行った。
「あれ? おじさんは?」
腫れた頭をさすりながら起き上ったおさげにーちゃんがうろうろ辺りを見回した。
「やだなぁ、夢でも見てたんじゃないの?」
顔を上げた眼鏡少年がどこぞの姉上を彷彿させる歪みない笑顔に言った。
「……」
眼鏡少年をじっと見据えていたにーちゃんが、赤毛のおさげを撫でて息をついた。
「……まぁいいけどね」
それから小さく噴き出して、「もうさぁ俺が孫でさぁ、君が息子ってことにしとけばいんじゃない?」
カラカラ笑ってにーちゃんが言った。
「――何がイイのか全然わかんないけど」
受ける眼鏡少年も揺るがず満開の笑みを維持した。
「だったら君にとって僕は父上なわけだから今後そういう――」
「血縁関係があるとは言ってないよ」
おさげにーちゃんが肩を竦めた。
「ハァ?」
眼鏡の蔓を押さえながら、眼鏡少年のこめかみがギリギリ嫌な音を立てた。おさげにーちゃんはしれっと言い放った、
「考えてもごらんよ、君みたいなモブ顔地味メガネから俺みたいな超絶星間美少年が生まれるわけないじゃないか」
腹違いとか義理の息子のその息子とか、ちょっとアタマ使えばわかりそーなモンだけどねー、おさげにーちゃんは屈託なく笑ってみせた。
「……」
腿の上に拳を握る眼鏡少年の心の許容量は今や限界に達しつつあった。
「おまえのにーちゃんマジ怖ぇーよ、」
――アイツ頭の中どーなってんだよ、怯える表情に天パが言った。
「……深淵を覗き込む者は己もまた深淵に片足を囚われている」
遠い目をして少女が言った。
「知らない方が、いっそわからないほーが世の中幸せなこともあるアルよ、」
「……。」
こたつに埋もれて天パは黙った。
天パの前髪に、頭を振っても部屋中に染み付いた焼きみかんのむせ返るような匂いが、なんだかもーいろんなことをどーでもよくさせた。


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