二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」
日野 青児
日野 青児
novelistID. 26667
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

沈黙の復讐者

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 

私は内面の思考に少々恐怖を禁じ得なかった。エレベータに乗ったときのような足下のおぼつかない感覚が私の身体に宿る。とうに行き場をなくした不安がそうさせるのだろう。しかし、表にはそれをみじんも出さずに、私はただ冷酷な表情を浮かべ、怜侍を見やった。
いつも法廷で異議を申し立てるときのように、彼の目の前で威嚇的に指を鳴らしてみせる。
そのかすかな衝撃に、私の肩の『罪』は疼き出した。知らず肩をかばうように腕組みした肘の上を掴む。

「何をおびえているのだ。わかっていないのか。私とお前は師弟関係以上のものは何ものも持ち合わせてはいないのだ。お前が何を我が輩に期待しているのかはしらんが、お前の『父親』はとうに死んでいる。・・・・・・冥とお前は確かに弟子としては兄妹だが、我が輩の子供は冥だけだ。」
「・・・・・しって、います・・・・・私の父親は、『そこ』で死にましたから。」
怜侍は、ほとんど聞き取れないくらいの弱々しい声でそういうと、エレベータの方を指さした。骨の太そうな指が、感情を移して震える。未だにこの子供はあの事件に蝕まれている。地震を異常なほど怖れ、エレベータには乗りたがらない。

私は鼻にかかったように嘲笑して見せた。個人的な感情に振り回される様な人間など必要ない。私が必要としているのはコールドハートの天才、その一点だ。

「わかっているのならば良いが。・・・・・御剣怜侍。いいか、よけいなことは考えないことだ。ただ、『完璧』であること、それだけを考えていろ。」
多少強い調子で、私は諭した。怜侍はそれを今にも泣き出しそうな情けない顔で聞いている。私は、彼が時に見せるこんな気弱な表情が好きではなかった。今にも切れそうなほどの怜悧な表情。罪への憎しみにゆがんだ顔、もしくはあの男のような正義しか知らない無垢な眸、それを望んでいたはずなのにもかかわらず、このこどもは何ひとつ私の思い通りにならなかった。反抗してもこないし、かといってきわめてこちらに忠実な訳ではない。
あの男の面差しを宿しながら、決して彼はあの男のようにも、私のようにもならない。いつまでもあの男の因子を宿したまま、中途半端に私の虚像となった。それが許し難い。この世界にグレーゾーンなどなくていい。白か黒か、それだけだ。それ以外は排除される。私は最近そんな考えを抱くようになった。そしてそれを思うたび、私の中にある止めがたい衝動がわき起こる。



あの男はどうしても私を否定する。それは白が黒に相対しているからだ。
であるならば私は彼に復讐する、それが白に対抗する手段。
あの男は私に初めて敗北をもたらした。あってはならないものを。だから、私は彼に復讐するのだ。

それはあの男のもっとも嫌う方法ではある。そうでなければ意味がない。
彼の残した最後の希望、死してもなお、憎んでいたはずの虚言まで使って守ろうとしたもの・・・・・御剣怜侍を葬り去ってやる。嘘で塗り固めた冤罪という方法で。
冤罪を受けた社会的な抹殺にあの子供はいとも簡単に崩れ落ちるだろう。今の情緒不安があれば、多少小賢しくてもこちらの意向など読み取ることなど出来まい。むしろ好都合だ。ある一点を突けば、怜侍は糸の付いた操り人形のように、こちらの望むままに行動するだろう。

そして、誰も、彼を助けないだろう。

あの男の因子を、私が否定し、社会が否定したとき、初めて私は『彼』を手に入れられる。
『彼』を手に入れれば、私は『彼自身』になり、私は私以外のすべてに負けないのだ。
実行日時は勿論、あの『事件』が時効を迎える時。私は私自身の完璧さに挑戦する。その完璧をもってあの男も、あのこどももねじ伏せてみせる。私の前で頭を垂れ、二度と顔を上げられないようにする。彼らは永久に葬られた事件に延々苦しむだろう。私が真の犯人とは知らずに。そして、あの子供は裏切られるのだ。盲信的に従ってきた、この私に。

私はこれ以上ないくらいの笑みを浮かべた。怜侍は、それを見てやはりおびえたように視線を揺らめかせる。

怜侍の肩に掌で軽く触れ、笑みを浮かべたまま、私は裁判所の廊下を歩み去った。高い靴音が高くもない天井に響く。


今まで、淀んでいた気分が晴れ渡るように爽快だった。
だが、響く靴音と同調するように脳内に微かにノイズのような痛みが走る。
何の痛みだったのか、すぐにわかった。あの時の肩の傷。自らの罪の証明。

忘れかけていた私の肩の『罪』の疼きはいつもと違い、いつまでたっても消えることがなかった。


作品名:沈黙の復讐者 作家名:日野 青児