コドモダケノモノ
コドモダケノモノ
1.
「それじゃあ、ダメだな。何度同じところでミスってるんだよ、おまえ」
「……君の教え方が拙いのだろう。もっときちんと正確に教えたまえ」
「なんでそう偉そうなんだよ、好意で教えてやってるんだぞ?こっちは」
「好意であろうが間違っているならば意味はない。悪意でも結構。正しく教えたまえ」
「……はいはい」
呆れたように返したアイオリアだが、もう一度最初から手順をシャカに説明し始めた。その通りにシャカは倣うが。
(あ、また飛ばした……一番肝心なところを)
内心シャカは舌打ちしていた。アイオリアに習っていることは、実際には既にシャカは習得済みだったのである。なぜかアイオリアはシャカが知らないと思っているらしく、先輩面をして教えているのである。いい迷惑だと思いながら、どんな手解きをするのか若干の興味が湧いて付き合っていたわけで。
アイオリアはどうやら無意識のうちに過程を飛ばしているようだった。本人は気づいていない。いつ、気がつくだろうと黙っているとシャカは結局、何度も同じ過ちを繰り返す羽目になった。指摘するのも馬鹿馬鹿しいという理由だったが、いい加減付き合うのもそれこそ下らないことかもしれない。そう思い始めたとき、「あっ」と小さな声をアイオリアが上げた。
「ちょっと待って、シャカ。ここ…こうしてみて」
「こう、かね?」
ようやく気づいたようだった。少しばかり構えを変えてみせる。続けて今まで教わった通りに倣うとようやく望む形となって技が繰り出すことができた。
「やった!やればできるじゃん」
「……最初から、出来ていたがね」
疲れたようにぼそりと思わず呟いたが、アイオリアには幸い耳に入らなかったようで機嫌上々で気安くシャカの肩を叩いていた。
その後の夕食では皆が集う前で意気揚々とアイオリアが今日の成果を口にしていた。最近どうやら「シャカに何かを教えること」が連中の間で流行っているらしい。まったくいい迷惑以外の何物でもないとシャカは思うのだが、別段目くじらを立てるほどに嫌がるのも面倒くさい。好きにさせておけばいいだろうと放置していたら、結局この有様である。
そろそろ何か策を講じるべきかと心中で悩んでいると、斜め向かいに座っていたサガがじっとシャカを見ているのに気づいた。怪訝というか、不満げというか…そんな顔をしている。
(そういえば…サガに教えて貰ったのだったな……あれは)
だから、か…と合点がいったシャカはサガにわかるように口元に指を一本宛がい「シッ」と合図した。一瞬サガは目を瞠ったが、小さく頷いて了解の合図を返してきたため、シャカは目の前に最後まで残ったコロコロと転がるグリーンピースと格闘した。