コドモダケノモノ
2.
「何故だい?と聞いてもいいかな。シャカ」
食事が終わり、銘々が宛がわれた片付けをしている中、シャカがテーブルの上を雑巾で拭いているとその正面でサガが定規で測ったように等間隔で椅子を並べながら、シャカに声をかけてきた。
「何を?と聞くのもワザとらしいかね。今日のことは君には申し訳ないと思う」
一箇所誰かが零したソースがこびりついているのが気に入らなくてゴシゴシとこすってみるが、時間が経過していたためか、なかなか綺麗にとれない。余計にムキになってゴシゴシと力任せにこするが大した成果はみられない。するとサガが「貸してごらん」と有無を言わさず雑巾を取り上げ、ものの見事に拭き取ってみせた。なんとなく、シャカにすれば面白くなかった。それを顔に出したつもりはなかったのだが、サガは弁解するように「ちょっとしたコツさ」と笑ってみせた。
「その……断る機会を逸したのだよ。君に教わって知っている、と彼に言い損なった」
「そうか」
手渡された雑巾を受け取り、拭き残した箇所に滑らす。怒っているわけではないけれども、不満は残っていそうな感じのサガである。厄介なことかもしれない、これは。
「それに。君とその…あまり仲を良くしていると思われるのも……よくないと」
「どうしてだい?」
一部から反感を買うから――と言いたかったが、それは胸の内にしまいこんだ。アイオロス同様、サガも聖域の者たちからは人気がある。聖闘士であるなしに限らず、いわゆる一般の者たちも含めて。聖闘士であるならばなおのことだが、既に聖衣を所有する者もそうでない者もアイオロスやサガから何かを教わるというのはとても特別で仲間内では憧憬の的となるのだ。反面、小さな嫉妬心を芽生えたりもしていた。サガたちに関わることが出来た者は浮かれた心のまま自慢している。それでよくイザコザがおきていたのを目にしていた。
くだらない子供じみた嫉妬だと思うが、自らその標的にされるのだけは避けておきたかった。ただでさえ、シャカは自分がこの集団の中で浮いている存在だと自覚しているだけにそういった面倒ごとは避けたいと思うのだ。それが自己保身だとしても。
それにサガはとてもシャカに判りやすく、かつ色々なことを教えてくれる有り難い存在であることには違いなく、彼に教わることは貴重だということが判っているからこそ、くだらぬことに巻き込まれて邪魔されるのは許しがたいことという理由もある。なによりもそんな厄介ごとはサガにはまったく関係ないことだから、彼が知る必要性はまったくない。
「答えにくい質問には答えられない」
「わかった。ああ、でもシャカ…」
「?」
「今度は誰も教えられないことを教えてあげるから」
不満を言うでもなく大人な態度で秘密めいた極上の笑みを返すサガにシャカはこくりと頷きを返した。