二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

コドモダケノモノ

INDEX|5ページ/5ページ|

前のページ
 

コドモダケノモノ ~ココロ~




 平和と愛を説く聖なる土地。
 ここはシアワセを育む大地。
 光に満ち、希望に満ちた聖域。
 とても大好きな場所。

 ここには大切な仲間もいる。それに誰よりも大好きな人がいた。だから聖域から故郷の土地へと修行のために戻る日が来るのが嫌で嫌で仕方なかった。
 最初は聖域に来るのが嫌で嫌で仕方なかったのに。不思議なものだと思った。人の心はいつだって変化する。今は故郷へ帰るのが嫌でも次には変わっているかもしれない。それは今この時にはわからないことだけれども。
「シャカ、これ、やる。持って行け!」
 ポンと差し出されたのはアイオリアの落書きがビッシリと書かれた紙によって厳重に包まれた謎の物体。一緒に肩を並べたミロがニヤニヤと笑っていた。きっとロクでもない物か実にくだらない物に違いないと思いつつも、シャカは素直に受け取った。
「これは…何?」
 厳重に紐で縛られていたため、中身は確認ができなかったので尋ねてみた。
「秘密さ!帰ってから開けろよ?」
「そうそう、着いてからのお楽しみ!絶対、ぜ~ったい、途中で開けんじゃないぞ?わかったな!?」
 なぜそんなに上から目線で言われなければならないのかわからなかったが、こういう時には黙って頷くということを此処で学んだ。こくりと小さく頷くとアイオリアとミロは満足そうに笑んだ。
「じゃ、またな!」
「次、会うときまで元気でな!」
 陽気に叫び、くるりと背を向けると、互いに顔を見合わせながら「次はアルデバランだな?」「そうだぜ!」と悪戯を思いついたような笑みを浮かべながら確かめ合い、駆け出していった。
 今のシャカにすれば最も恵まれた環境にいる黄金コンビは瞬く間に視界から消えていった。その天真爛漫さと、ある意味で天才的とも思える数々の悪戯により、いい意味でも悪い意味でも目立った存在。絶大なる人気を誇る二人組みは この聖域で居残り組みでもあるのだから。
 ―――羨ましい。
 初めてそんな気持ちを抱いた。どうしようもないことだとわかっていても、彼らがとても羨ましく思えた。
大好きな人のそばを離れることがこんなに不安で悲しいことだとは思ってもみなかった。今の今まで気づかなかったから。
 ぐるりと周囲を閉じた瞳で見回したが、その人の気配は微塵も感じられなかった。シャカはキュッと唇を噛んで纏められた数少ない荷物に手を伸ばす。
『たぶん、見送りには行けないから……』
 そう彼はあらかじめ言ってくれていたのに、どこかで来てくれるんじゃないかと期待している自分がいた。なんだか見捨てられたような寂しさが身体の奥底から突き上げてきそうだったけれども、精一杯振り払うようにしてシャカは大きく一歩を踏み出した。

 さようなら、聖域。
 さようなら、みんな。
 そして、さようなら……サガ。
 また会う日まで。




「あれ?サガ?おまえ、なんでここにいるんだ?確か、チビの見送り行くって言ってたよな?」
「……気が変わったのさ」
 年代物の本を積み上げたテーブルの隙間にサガの姿を見咎めたアイオロスが声をかけると、返ってきたのはサガにしては珍しいほどの不機嫌な声音であった。
「なぜ、また?」
「……いいじゃないか。私の勝手だ」
 あからさまに『あっち行けよ』オーラを醸し出しているサガに怯むこともないまま、アイオロスはサガの正面に座りこんだ。そして身を乗り出すようにして、訳を尋ねようとするアイオロスをサガは一睨みしたのち、再び本へと視線を落とした。そんなサガに対して意地悪げに見返したアイオロスはチクチクと『かまってちょうだい』攻撃を開始した。
「面倒になったとか?」
「違う」
「チビに泣き付かれそうだから嫌だったとか?」
「そんなことはない」
「じゃあ、引き止めたくなっちゃうとか?」
「……そうじゃないさ」
 しつこく食い下がるアイオロスに根負けしたように深い溜息とともにサガは顔を上げる。わざとらしく、もう一度深い溜息をついて見せながら、読みかけの本をパタンと閉じた。ペラペラと空虚な気持ちのままに捲り続けたページだ。次には最初から読み直すことになるだろうとサガは口端を曲げた。
「楽しんでいるだろう?アイオロス」
「へへ。少し、な」
 クシャリとよく日に焼けた顔に笑みを浮かべて、右手の親指と人差し指で「少し」をまったく悪びれもせず、表現してみせるアイオロス。自然、サガの仏頂面にも笑みが浮かんだ。悪友の屈託の無さに呆れつつも感謝することは今までにも幾度となくあった。今もまたそうだ。
「見送りに行くとたぶん私は……引き止めたりはしないけれども、そのままあの子についていってしまいそうなんだ。情けないだろう?」
 肩を小さく上下させながら、力なくサガは笑った。実際には笑い事では済まされないことだったけれども。
「う~ん……」
 困ったようにアイオロスは唸るばかりで、肯定も否定もしなかった。サガが混乱し、窮地に立つような『自覚』をして、切羽詰った末に厄介な相談を持ちかけたときと同様の反応だった。
「それじゃあ駄目だってことを自分で自覚したから……ここにいるってことか」
「ああ」
「つらい、な」
「……今だけだろう。きっと」
 そうあって欲しいと願うようにサガは長い睫毛を伏せた。とても困難なことではあるだろう。焼きついた感情の刻印を消すことが可能なのか今はわからない。
 深い溜息に憐憫を示すようにアイオロスはポンポンと軽くサガの肩を叩くと目当ての本を見つけてそっとその場を去った。一人静けさの中ぽつんと取り残されたサガはもう本を開こうとはしなかった。
 シャカをはじめて見たときの印象は深いものだった。
 光の粒子にさえ愛されているかのように屈託ない笑みを浮かべる者だと思った。輝きは誰でも身につけられるというものではない。彼は光の申し子とでもいうのだろう。淡いフレアのように纏う光に焦がれ、恋心さえ芽生えた。まだ幼子といってもいいほどの幼少の者に。
 尋常ではない事態に陥っている恐怖と混乱の最中、悩みを受け止めてくれた友がいた。おかげで、かろうじて理性的に振舞うことはできた。時間と距離を置けばきっと目が覚める。ただの仲間の一人として接することができる日がくるのだと――想いを封印するのだとサガは心に誓ったのだった。


Fin.
作品名:コドモダケノモノ 作家名:千珠