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ミニ☆ドラ

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3章 朝寝坊



翌日の朝、大きなノックの音で目が覚めた。

「――何しているの、ハリー!早く起きなさいっ!いつまで寝ているつもり。あなたには仕事が待っているわよっ!」
ドアを派手にドンドンと叩かれて、慌ててハリーは飛び起きた。
「すぐ行きます!すぐ着替えて、降ります」
ハリーの返事に「早くしなさい!何のためにあなたを引き取ったと思うの、まったく」とトゲのある言葉を残して、叔母はイライラと去っていった。

廊下の途中で叔母は立ち止まり、この家で一番日当たりがいい部屋にいる彼女の息子に声をかけた。
「ダドちゃん、朝ですよ。起きて」
ハリーにかけた声とまるっきり正反対のやさしげな言葉使いだ。

「うるさいよママ、まだ目覚ましが鳴る前じゃないか!それなのに僕、ママの声で目が覚めちゃったじゃないか!」
「あらあら、まだ5分前だったかしら。起こしちゃってゴメンなさいね。ママが悪かったわ。ダッドちゃんはまだ寝てていいですからね」
よちよちと幼子を甘やかすような声で答えている叔母の声が、ドア越しに響いてくる。
その声に鼻を鳴らし、やってられないとばかりにハリーは肩をすくめた。

(……しかし、いつもだったら寝坊することないのに。条件反射のように、目覚ましが鳴ると起きるんだけどなぁ……)
うーんと唸りつつ腑に落ちない顔のまま枕元に目をやって、すぐにその原因に気付く。
(くそーっ!絶対にまた、こいつだ!!)

昨晩、部屋に戻ってきたハリーの後を付いてきた生意気な小人は、大人しく箪笥の上で寝ていたと思ったら、途中で底冷えがする寒さに耐えられなくなったのか、勝手に断りも無くハリーのベッドに入ってきたらしい。
おまけにとっくに朝だというのに、まだのうのうと毛布に包まり寝息を立てている始末だ。

コイツが犯人だ!

指で摘み上げると、容赦なく前後に激しく振り回した。
「起きろ、チビ!!」
「……なんだよ。僕は低血圧なんだからゆっくり起こしてくれと、あれほど……」
まだ何やら寝ぼけたことを言っているので、ハリーはことさら低い声を出した。

「ふーん……。じゃあ二度と文句が出ないように、空でも飛んでみるか?そしたらきっと、君の寝ぼけた頭もはっきりするだろうな」
言葉とともに、パッと突然ドラコを摘んでいた指を離した。

悲鳴を上げながらドラコはバンジージャンプさながら、急速に落下していく。
いきなり寝起きのまま高い所から落とされて、スプリングの伸びたベッドの上で派手に小さな体は、何度もバウンドを繰り返した。

「――なんだよ、突然!いったい君は、何もしていない僕に、なんでこんなひどい事をするんだっ!!」
ベッドの上でひっくり返ったまま魔法使いは、少し涙目になりながら叫ぶ。

「何もしてないだと?!したに決まっているじゃないか!君は今日の朝、僕の目覚ましを勝手に止めただろっ!!おかげで叔母さん、かなり怒って、僕を起こしに来たんだ。きっと後からその寝坊したご褒美を、たんまりとくれるだろうね……」
ジロリと相手をねめつけた。

「――えっ、あれ目覚ましだったのか?あまりにも五月蝿い音が時計からしたから壊れたと思って、ポチッと、鳴っているベルの上のボタンを押したんだけど……。もしかして、そのポチッがいけなかったのかな?」
(えへっ♪)と小首をかしげて、取ってつけたような笑顔を見せる。

「笑っても、ちっともかわいくないぞ!」
怒った顔で魔法使いの頭を、容赦なくグリグリと頭を押さえつけた。
「うわーっ!ごめん、ごめん」
「謝まったって許すもんかっ!さっさと魔法を出せ!今日の一日分の僕の仕事を手伝ってくれる、そんな便利な魔法を出せ!!」
「無理だ。そんな高度な魔法、僕には絶対出来ないに決まっているじゃないか」

「じゃあ、どんなことが出来るんだ?」
「ちょっとした花を出したり、食事なんかを出したり出来るけど……」
「それは昨日見せてもらった、しけた魔法じゃないか!そんなの、いるかっ!!お前は本当に使えない奴だな、このチビ助!!」
ハリーが馬事雑言を容赦なく浴びせ続けていると、「ハリー、まだなの?」と階下から、イライラとした意地の悪い声が響いてきた。
途端にハリーは態度をガラッと変えて1オクターブほど高い声で、「はい、今すぐに行きます!」と愛想よく返事をする。

「ネコっかぶりめ!僕のときと、全然態度が違うじゃないか」
ハリーはじろっと相手をねめつけ、容赦なく指を突きつけた。
「――いいか、これは生きる手段だ。少しでも叔母の機嫌を取ったほうが得策だから、僕はそうするんだ。君みたいに呼んでもいないのに勝手にやってきて、しかも仕事の邪魔ばかりしている奴とでは、対応が天と地ほど違うのもごく当然のことだろ」
フン!とハリーは腕を組み、さも当然そうに宣言する。

「性格悪すぎ!」
ぼそりと魔法使いが小さく悪態をつくと、その小言を聞きつけたハリーは身を乗り出して相手に顔を近づけた。
「……何か言ったか?僕に文句でもあるのか?えー?」
言葉の語尾を、意地悪く上に上げる。
魔法使いにはハリーの笑っていない目が怖かった。

「……ぼっ……、僕は、そのー、……別に何も思っていないよ……」
ひびってドラコは後ろの壁際まで後ずさりをする。
そんな怯えた魔法使いを見て、「じゃあ、チビは黙っていろ!」と言い捨てた。

手早くパジャマを脱ぎ、シャツを羽織ながらハリーはイライラと尋ねる。
「――君は向こうの世界では、贅沢な暮らしをしていたんだろ?なんたって、貴族とかいうお偉い身分だって威張っていたし。だから、食事を抜かれて飢えたこともないんだろ?暖かい部屋に、やさしい両親。使用人が何人もいて、皿の1枚も洗ったことがないし、着るものにも不自由しないし、特権階級でふんぞり返っていたんだろ。人に命令しかしたことがない、何もかもが満たされている君に、いったい僕の何が分かるて言うんだ!!」

その言葉に小さな魔法使いは、視線を落とした。
「……別にさ、家が大きくたって、関係ないよ。使用人が何人いたって、着る洋服が何着あったって関係ない。豪華な食事も関係ない。食べ物で満たされるのはおなかだけだ」
トーンダウンした神妙な声に、逆にハリーは戸惑う。

「――――えっ、どういう意味?」
「いっそ、家や家族がないほうが幸せかもしれないぞ……、ハリー」
相手を見上げて苦笑いをする。

そして胸元から取り出した杖を、器用に手の中でクルクルと回しながら、 ドラコはこう言ったのだった。


「……僕は別に魔法使いに、なりたくもなかったんだ……」

作品名:ミニ☆ドラ 作家名:sabure