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みそっかす
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novelistID. 19254
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太陽の生まれた日

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 きらきら。きらきら。
 透明なそれ。
 陽に透かせば小さな泡が瞬いて。
 身のうちにも、その影にすら、光が宿っている。
(きらきらしてる)
 よし、決めた。
 小さなそれを握りしめ、ポケットにしまう。
 見上げた空にあるのは、彼に似ている太陽。


「勝呂、これやる」
「……おおきに」
 さて、今日で何個になるだろうか。とりあえず礼を言えば、目の前の青い瞳がゆるりと弧を描く。それは青空に浮かぶ白月を思い起こさせた。淡く優しい三日月だ。
 その笑みに忘れそうになっていたが、はっ、と思い出す。
「なぁ、奥村。何で俺にビー玉よこすん?」
 学校は夏休みと言えど、祓魔塾に夏休みなどはない。そんな日々の中での些細な変化。
 ここのところ毎日、一日一つ渡されるビー玉。ラムネの栓に使われているような何の変哲もないそれ。
 最初は何も気にしていなかった。気まぐれか悪戯か、どちらにしても特に害はなかったので、受け流していたと言っても良い。しかし、それが一日、二日と続き、五日を過ぎた頃にはさすがに何かあるのではと思うようになった。
 何故毎日ビー玉を渡してくるのか。
 塾の帰り際や始まる前の僅かな時間、入口ですれ違ったときなど渡される時間と場所はまちまちで、尋ねようとしても中々タイミングが掴めなかった。
 今は昼休み。教室で一緒に昼食を食べていた。志摩と子猫丸は用事があるそうで今は二人きり。丁度良い機会に今日こそは尋ねようと思っていたのだ。
「ビー玉嫌いか?」
「いや、嫌いなわけやないけど」
 そもそもビー玉を好き嫌いで分けようとする意識すらないのだが。
「嫌いじゃないなら良いや」
 ほっとしたように言われれば、どうして渡してくるのかだなんてどうでも良いことに思える。ただビー玉を貰うだけで、まるでこちらが何かあげたかのように、嬉しそうに笑うのだから。
「良い天気だな」
 授業めんどいなぁ、と不真面目極まりないことを言いながら、もぞりと机にうつぶせる。
「おい、こら。こんまま授業も寝る気やないやろな」
「んー? そんなこと勝呂がさせないだろ?」
 あとで起こしてくれな、と言いさっさと目を瞑って本当に眠ってしまう。
「ほんま、なんやねんお前……」
 自分勝手にも程があると思いながらも起こす気になれない。仕方がないと、ぼんやりと窓から空を見上げる。単語帳でも開こうかとも思ったが、なぜかその気が起きない。手持ち無沙汰に先ほど貰ったビー玉を陽に掲げてみる。
「眩し」
 太陽の光を反射して光る、仄かに青みがかった小さな硝子玉。
 幼い頃もたしかこんなことをしていた。小さな玉の中に大空が閉じ込められているようで、いくつも集めていたものだ。身体が大きくなるにつれ次第に集めなくなった小さな玉は今どこにあるのだろうか。まるで宝物のように扱っていたはずなのに。
 胸の奥底が少しだけ苦しくなった気がして、ビー玉を握り締めた。


 結局ビー玉の訳を聞かず仕舞いで、あれからもビー玉を渡され続けた。おかげで寮の机の上の小物入れには十数個のビー玉が光っている。
「勝呂、塾終わってから何か予定あるか?」
 塾が始まる前、予習をしていたところにひょこりと現れて尋ねられた。
「予習と復習」
「そう言うんじゃなくてだよ」
 むすりと頬をふくらませる顔が少し笑えた。本当に同い年かと言いたくなるほど一つ一つの仕草が幼い。そのくせ時おり妙に悟ったような顔をするからよく分からない。
「どっか行くとことかあるのかってこと」
「ないならなんやて言うんや」
「塾終わったら、ちょっと付き合え」
 約束だぞ、と一方的に言われる。何で付き合わなければならないと言おうと思ったが、その声や表情があんまりにも真剣で言おうとしていた言葉は不恰好なうめきとなった。
 なんだかんだで振り回されている自分が居る。それがあまり嫌ではない気がするのはどうしてだろう。
「ったく、少しだけやぞ」
「よっしゃ! 帰り先に帰るなよ!」
 偉そうに人差し指まで立てて笑われれば、溜め息しか出ない。
「お、雪男来た。それじゃあな、絶対、絶対帰るなよ」
「そんな何遍も言わんでも分かっとる」
 さっさと席に着けと手で追い払う。見送る背中が嬉しそうに見えるのは決して錯覚ではあるまい。
「あれ、坊。なんぞ良いことでもありました?」
 そない顔緩ませて。
 席に戻ってきた志摩に言われ顔を触ってみたが、一体自分がどんな顔をしているのかは分からなかった。
 授業が終わり、志摩と子猫丸に事情を言うと二人も用事があるそうで今日は一緒に帰れなかったのだと告げる。
「ほな、坊。僕たちは先に帰りますね」
「奥村君、坊のことよろしゅうな」
「何で奥村に頼まれなあかんのや!」
 むしろ逆だと言えば、ピンク色の幼馴染は冗談ですよと情けない声で笑い帰って行く。
「おう、任せとけ」
 隣でへらりと笑い二人を見送るその頭を軽く叩けば、恨めしげな目を向けられた。眦が上がった青い双眸がこちらをじとりと見てくるが知ったことではない。
「人に帰るな言うたんやから、それなりの理由はあるんやろな」
「おう、ある」
 顰めていた顔を一変させて、きっぱりと言い切るものだからこちらも僅かに身構える。
「とりあえず一緒に来てくれ」
 話はそれからだと言われ、一つ頷いた。


「ほい、勝呂の分」
「……おい奥村。お前のそれなりの理由ってこれか」
 差し出された瓶を受け取らずに睨みつければ、おう、と呑気な声で返された。連れて来られたのは小さな駄菓子屋。そこで待っていろと言われ、店の軒下に出された長い腰掛に座っていれば、中で買ってきたのだろうラムネの瓶を差し出された。
 何か真面目な話でもあるのかと思って着いて着てみれば、用件はただの駄菓子屋への寄り道。眉間の皺も深まるというものだ。
「まぁ、とりあえず飲めよ。あ、もしかしてラムネ嫌いか?」
「そういうこと言ってるんやない。なんぞ話があると思ってきてみればただの寄り道やないか。って、聞いてんのか!」
「ん、聞いてる聞いてる」
 もうちょっとで飲み終わるから待ってくれと、こくこくとラムネを飲んでいく姿を見て大きく一つ溜め息をついた。
「……もう、ええ」
 とりあえず横に置かれた瓶を手に取る。ビー玉の栓はすでに店の中で開けられてあって、瓶の中では細かな気泡が生まれてははぜていく。一口飲めば口の中で甘い星がはじけた。
「よし、飲み終わった」
 満足げな声が聞こえて横を見れば、またもやちょっと待ってろと言われた。今日はやけに待てばかりだ。何をするのかと見ていれば、瓶の飲み口を開けて中のビー玉を取り出した。そして店の脇にある水道で洗い、丁寧にハンカチで拭くと、

「勝呂、誕生日おめでと」
 にしし、と白い歯を見せながらこちらに差し出した。

「今まで勝呂に渡してたビー玉。あれ全部勝呂への誕生日プレゼントだったんだ」
 悪戯が成功したような無邪気な笑顔。
 ああ、そうだ。すっかり忘れていたが今日は確かに自分の誕生日だ。
「志摩から勝呂の誕生日聞いてさ。何にしようか考えてたんだ」
 そのとき、ちょうどこの駄菓子屋でラムネを飲んでいて、ふと目に入ったのだ。
作品名:太陽の生まれた日 作家名:みそっかす