太陽の生まれた日
「陽に当たってきらきらしててさ。ちっちぇ太陽が入ってるみたいで」
影にすら光を宿しているのが、眩しくて、眩しくて。
「なんか勝呂みたいだって」
だから。この小さな太陽をあげようと思った。
「一つだと味気ないし、それに志摩と子猫丸から今までのお前の誕生日の話聞いてたら、何か悔しくなってさ」
どうしようもないことだけど、過去を共有することができないのが嫌で。
「だから、今まで渡したのはこれまでの勝呂の誕生日の分」
一年に一つ。君に似た太陽を。
「そんで、これが今年の分」
掌に十六個目の太陽が落とされた。
「こんなんしかあげられないけど」
そっと自分の手を包む、白く小さな手から伝わるぬくもりは嫌ではなくて、むしろ、
「誕生日、おめでとう」
――触れている部分から、気持ちが伝われば良い。きっと、これから言う言葉では全部を伝えることはできないから。
「おおきに、奥村」
貰った太陽ごと、その両手を握り締めて言えば、空色の目がくすぐったそうに細まった。
駄菓子屋からの帰り道。誘われるがまま旧学生寮に寄れば、志摩や子猫丸、杜山や神木まで揃っていて、
パーンッ、パーンッ。
「坊、誕生日おめでとうございます!」
「いやぁ、めでたい。これで坊も大人の階段をまた一歩のぼりはったんやねえ」
「す、勝呂君、お誕生日おめでとう!」
「祝ってやるんだから、ありがたく思いなさいよ」
それぞれがそれぞれの言葉で祝ってくれる。紙テープを頭に乗せたまま、くすぐったい言葉を受け取る。
「おう、おおきに」
「勝呂驚かそうと思ってさ。みんなで頑張ったんだぜ」
折り紙の輪っかやら紙でできた花飾りやらで飾り付けられた室内。テーブルには大きなケーキや豪勢な料理が並んでいる。
志摩と子猫丸もこれを飾り付けるために今日は一緒に帰れないと言ったそうだ。放課後に連れ出されたのも、準備をしているところを見られないようにするため。
「坊にばれやしないかハラハラでしたわ」
「料理は奥村君が作って置いてくれはったから、飾り付けだけやったけど」
その言葉に驚いて後ろを振り返れば照れたような笑顔があった。
「材料費は雪男持ちだけどな。任務で居られないからプレゼント代わりにだと」
とりあえず座れと腕を取られ椅子に座らされる。目の前のケーキにはカラフルな蝋燭の小さな火がいくつもゆらめいている。
「勝呂、ふーってやれ、ふーって!」
一度に消せれば願い事が叶うんだぞ、だなんて本当に子供のようだ。
けれども、何故か本当にそんな気がしてくるから。
「っふーっ!」
夜。机の上には皆から貰ったプレゼントが積んである。文房具やらヘアピンやら、いかにも自分が使いそうなものばかりだ。
その中できらきらと光る、十六個のビー玉。
青空に似ている目を持つ彼から渡された、小さな太陽。
それを見て、そっとポケットの中から取り出すのは、もう一つのビー玉。奢ってもらったラムネの瓶からこっそりと取り出してきたものだ。
これでビー玉は十七個。
十六個は、彼から自分への贈り物。
十七個目は、自分から自分へ、今日生まれたばかりの気持ちへ。
「なんや女々しないか、自分」
ビー玉の一つを手にとれば、光る薄い水色の中に自分が映っている。
まるで、あいつの眼のようだ、なんて。
「……重症や」
十六回目の誕生日に生まれた新しい気持ち。
――誕生日、おめでとう。