裏切りの夕焼け
言葉の端々が、ちらちらと記憶の中を漂っている。
何か、大切なことを伝えたかったはずなのに。
療養所に訪いが入った。見ると、飛竜軍の兵が顔を覗かせている。
「隊長、そろそろ任務に」
「ああ、分かった。今行く。では、公孫勝殿。俺はこれで」
劉唐が頭を下げて去って行く。
残された林冲は居心地悪そうにそわそわして、席を立った。
「林冲」
呼び止めると、林冲が半分だけ振り返った。
「確か、夢にお前と劉唐が出てきた」
「それでうなされてたのか。全く、寝てまで嫌な奴だな」
「同じ時代に、お前に出会えてよかった」
言うと、林冲は間抜けな顔で完全に振り返った。
「同じ時代に出会えたら、共に生きよう。そう、約束した」
林冲が、唖然としたまま顔を見つめてくる。
「公孫勝、おまえ」
「という夢を見たんだ」
林冲の顔が、赤くなり、黄色くなり、再び赤くなった。
「くそっ、やはり雷に打たれて死んでいればよかったんだ」
「裏切られた気分、か?」
答えず、林冲は乱暴に扉を閉めて出て行ってしまった。
窓の外を見ると、夜が明けてきていた。
「いい夢だったよ、林冲」
牧を、一頭の駿馬が駆けている。気持ちの良い嘶きだ、と公孫勝は思った。
作品名:裏切りの夕焼け 作家名:龍吉@プロフご一読下さい