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【中身見本】Close to you 上巻

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【Close to you 上】
5章目

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ハリーは突然の音に目が覚めた。
ベッドサイドの明かりを付けると、慌てて手探りでメガネを探して掛ける。
時計は真夜中の二時を示していた。

枕元の杖は激しく振動し、カタカタと震えている。
(闇祓い本部の緊急の呼び出しなのか?)
とも思ったが、どうもそうではないらしい。
光っている杖のシグナルが、いつもと異なっているからだ。

(……この緊急の表示は――?)
首を傾げて、すぐに思いついた。

「マルフォイだ!真夜中にいったい何をやっているんだ!!」
(あれほど屋敷外へ出るなと忠告しておいたはずなのに。真夜中だったら、誰にも気づかれることなく、脱出できると思ったのだろうか?それは全く、自分を見くびっている。何年闇祓いとして、厳しい実践を積んできたと思っているんだ)
急いで手近にあったジーンズとシャツに着替えると、ロープを羽織り、杖を振ってウィルトシャーを目指したのだった。



ハリー自身が魔法をかけたので、屋敷全体を覆っているシールドのどこに相手がいるのかが、手に取るように分かる。
ある一部分が綻んでいることを、杖は正確に教えていた。

音もなく屋敷の庭に降り立つと、塀に沿って走っていく。
ぐるりと取り囲むそれの裏手のあたり、使用人専用の出入り口の近くに、その人物はポツリと立っていた。
薄暗い三日月の下、人影がぼんやりと浮かんでいる。

「――マルフォイ!」
鋭く呼ぶと、相手は顔だけをこちらに向けた。
白い服を着て、青白い肌に、枯れ木のような体。
まるでそこに立っているのが不思議なほど、全身がガタガタと震えている。

強い風が彼の前髪を上へと舞いあげていた。
ハリーが一歩一歩近づいても、相手は一切逃げようとはしない。
たったひとりで真夜中に屋敷を抜け出そうとしたわりには、オーラーを少しも警戒している様子がなかった。
ただじっと近づいてきているハリーを、見詰めているだけだ。

背が高く生い茂った雑草の中をかき分けていく。
ふたりの距離が徐々に縮まった。
焦点が合っていない瞳、血の気のない青ざめた顔は無表情だ。

近づくとドラコは何かを懐に大切に抱えていて、それをハリーの前へと差し出した。
「――い、……ゃを、知ら――ない、か?」
発せられた声は小さく途切れがちで、何を言っているのか聞き取れない。

「――なに、マルフォイ?」
傍に立って、相手の抱えているものに視線を落とした。
それは両手に丁度収まるほどのフクロウだった。
猛禽類では中型の品種で、羽はグレーに茶色の羽がところどころ混じったような、白っ茶けた印象だ。
それがぐったりと横たわっている。

「――病気?それとも寿命なの?」
「……分からない。気がついたら、ゲージの中で倒れていたんだ。……触ってもぐったりしたままで、――どうしていいか分からなくて……。分からなくて……。どうしていいのか――。ああ、どうして――!」
ドラコの声が段々と大きく、ヒステリックになっていく。

からだがガタガタと震え、目から涙をこぼしている。
ただ「どうして……」という言葉ばかりを呟いて、ハリーをじっと見つめた。
――しかし、その焦点はどこかぼんやりしている。

まるで夢遊病者か寝ぼけているのか、よく分からないけど、彼の心はどこかに抜け落ちている印象が強い。
長い間の投獄のストレスが、心の均衡を失っているにちがいなかった。
ハリーは治癒専門のヒーラーではないし、訓練も受けてはいない。
そういう者が下手に病気の相手に近づくと、悪くはなってもよくはならないことくらいは分かり切っていた。

ハリーは相手を屋敷に帰るように促す。
「明日、専門の医者に連れて行くから」
ドラコはハリーの言葉に耳を貸すことなく、ただ首を横に振り続けた。
「いやだ。絶対にイヤだ……」
「そんなことを言っても、今は真夜中だし、誰もこんな時間に診察なんかしてくれないし」
「イヤだ」
否定の言葉のみを発し屋敷の外へと出ようとして、硬いシールドに弾かれて膝をついた。
透明で見えないけれど、その魔法は目の前のドラコのみに反応して、彼に強い痛みを与える。

スタンガンと同じくらい強力な電力に近い結界だ。
短い悲鳴と何かが焦げる匂いが鼻につく。
かなりの激痛が全身を駆け巡っているはずだ。それでもドラコは外へ出ようとした。
ハリーは顔をしかめる。

蒼白い顔に、乱れた髪。
何も映してもいない瞳、骨と皮で出来た棒っきれのような体。
それが地面に倒れて這いつくばっては、すぐにゆらりと体を起して、ふらふらと前へと進むのだ。
目の前にいるドラコはまるで、倒れても倒れても立ちあがってくる、ゾンビのようだ。
それはまるで、ホラー映画を見ているようだった。

荒れ果てた庭は明かりのひとつもなく、ぞっとするほど薄暗かった。
(これは絶対に夜が明けたら、マルフォイを聖マンゴ病院に連れて行かなければ)
と深く決意する。
詳しい診察の結果次第では、そのままロックハートやネビルの両親が入っている隔離病棟に、一生入院するかもしれない。
そうなればハリーの保護観察官としての任務は、わずか数日で終了するだろう。

――一瞬、必要以上にやつれ果てたナルシッサの顔が思い浮かんだ。
もし息子が入院してしまうと、あの哀れな母親はどうなってしまうのだろう?
再びたったひとりで屋敷に取り残されると、彼女は今度こそ本当に、耐えられないかもしれない。
生き残ったドラコが彼女にとって、唯一の生きる希望のように見えたからだ。
夫は獄死し、息子は隔離入院したら、多分ナルシッサは――。

ヴォルデモートとの最後の決戦のあと、崩れ落ち瓦礫の山になったホグワーツの大広間で身を寄せ合い、互いの無事を喜んでいる親子の姿が思い出される。
マルフォイ家の家族がどれほど、互いが互いを大切に思いやってのかが、よく分かる場面だった。
その家族がまた無残に引き離され、母親のみが取り残される……。

不憫な感情が湧いてきたけれど、所詮ハリーは部外者にしかすぎず、ただの監察官で、家族内のプライベートに入り込むことは出来なかった。
ましてや哀憐の情など、もってのほかだ。

胸の奥が重くなってきたけれど、あえてそれを無視する。
「マルフォイ、とにかく戻ろう」
再びハリーは促した。
今度は相手が逃げないように、肩に手をかける。
ドラコはただただ、そのフクロウをハリーに示し続ける。
「お願いだ、助けてくれ」
「僕は獣医でもないから無理だよ」
「お願いだ。……お願いだ……」
か細い声で何度も、「プリーズ」という言葉を呟き続けた。

自分を見上げているドラコの瞳の奥は真っ暗で何も見えず、まるで昏い洞窟のようだ。
光すら射さないそこから、とめどもなく涙を流し続けている。

「朝になったら連れていくから、とにかく今は中へ戻ろう」