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【中身見本】Close to you 上巻

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「ダメだ。今じゃなきゃダメなんだ……」
ハリーの手を振り払い、動こうとしない。
「そんなに焦らなくても、数時間後には病院も開くから、それまで家に――」

「いやだ」そう叫んで、また外へ続く門から出て行こうとして、シールドに跳ね飛ばされた。
バチッという火花が辺りに散る。
低いうめき声を上げて、ドラコは倒れた。
しかしすぐに立ち上がり、また外へと出ようとする。

ハリーは仕方なしに尋ねた。
「――それで、君は真夜中でも診てくれる獣医の知り合いはいるの?」
ドラコは振り返り、首を横に振る。
「だったら尚更だよ。知り合いもいないのに闇雲に外へ出て、どうするつもりなんだ?目的があって行動していないし、無計画すぎる。わずか数日で屋敷を抜け出そうとしたのが魔法省にバレたら、確実に要注意人物としてマークされて、いいことなんか何もないのに……」
「……そんなことは、分かっている。それでも――、どうしても助けたいんだ」

(たかがフクロウじゃないか)
と言いそうになり、口を紡ぐ。
ふと自分の脳裏に純白の羽が美しかった、ヘドウィッグが思い浮かんだからだ。

彼女は自分に忠実で思慮深く、とても賢いフクロウだった。
何年も同じ部屋で過ごし、生活を共にしてきた彼女は、ハリーにとって家族そのもののような存在だった。
その彼女がデスイーターの攻撃から勇敢にハリーを守り、命が尽きてしまったのを思い出す度に、今でも胸が痛んだ。

――誰もヘドウィッグの替わりになどなれない。
彼女の抜けた穴はどんな優秀な鳥に出会っても埋めることは出来ず、ハリーは今でも自分専用のフクロウを持つことはなかった。

……しかし、それはハリー自身のことだ。
逆にマルフォイがそこまで、このフクロウにこだわっている意味が分からない。
彼は屋敷から引き離されずっと投獄されて、つい先日帰宅したばかりだというのに、何年も離れ離れになっていた白茶けたフクロウに、そこまでこだわるのだろうか?

ハリーは首をかしげ、そのことを問うと、ドラコは震えながら答えた。
「もうイヤなんだ。……誰かが死んだり、何かを失うのは、もうイヤなんだ……」
激しい嗚咽が漏れて、背中が揺れる。
焦点の合っていない瞳で、ただただ涙を流し続けていた。

……多分、ドラコは正気ではないはずだ。
理性があるなら、絶対に他人に弱みなど見せないし、ましてやハリーの前で泣くことなどしないだろう。

――その彼が、必死で助けを求めている。

ここは強い風が吹き、ひどく寒くて真っ暗だった。
いくら窘めても、心が抜け落ちているドラコは、ハリーの言うことを聞かないだろう。
気絶させて無理に連れて帰ることは出来たけれど、ぐったりとしているフクロウの姿と、泣き続けている彼は、あまりにも哀れだった。

ハリーは荒れ果てた屋敷を見上げる。
あの壮大で華麗だった頃を知っているからこそ余計に、このウィルトシャーのすべてが荒涼としたものに映った。

風がゴウゴウと唸り、ドラコの嗚咽だけが耳元に響いてくる。
ハリーはうつむいて、目をそらし足元を見た。
手に持っている魔法の杖で手のひらを軽くたたく。
それは神経質になっているときのハリーの癖だった。

彼は心の中で考えがまとまらず、思いあぐねているように見えた。
無言の時が過ぎ、やがて最終的に心が決まったのか、顔を上げるとドラコを見た。
「――実は……、相手が今、家にいるかどうかは分からないんだけど……、獣医に近い人なら、知り合いにいるんだ」
ハリーの言葉にドラコは何度も頷いた。

「それでも構わない、連れていってくれ。お願いだ――」
必死に言い募ってくる。泣き顔のままに。
それを見降ろしながら肩をすくめると、ハリーは相手に手を差し伸べる。
ドラコはハリーの杖を共に握った。

姿くらましの呪文を唱えながら、
(自分はまったくバカなことをしている――)
と、ハリーは思ったのだった。

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――続きは同人誌にて。
上巻は1~17話まで掲載中。